いきなり女にされて何が何やらですが
元々は「とびらの」様主催のTSゴールデン企画向けに考えたお話でした。
残念ながら時間切れとなり、お蔵入りしてしまう今小説の供養の為の無責任投稿です。
目が覚めたら正真正銘の美少女になっていた。……なんて展開があったら諸兄らはどうするだろう。恐らく筆舌にし難い、というかR18なレーベルになるような事をするんじゃなかろうか。誰だってそうする。僕だってそうする。
けれどいざ本当にそうなった時、僕は残念ながらそのような蛮行には至れなかった。より正確に描写するならば、それどころではなかった。
「な、なんだここは……?」
目が覚めたら一面鏡張りの部屋に居た。壁は勿論、床も、天井すら全てが鏡だ。当然そんな記憶はない。僕は病院のベッドで寝ていた筈だ。いや、呼吸が自在に出来なくなり心臓が際限なく早鐘を打ち目の前が緑色に染まっていくあの感覚、僕はあのまま死んだのではないかと思う。
何故なら今の現状が唐突に場所が変わっているだけではなく、鏡に映っている自分と思われる姿がまるで見た事のない人間の姿だったからだ。
少し短めのおかっぱ頭は現実では見る事のない深い緑色、長いまつげにきめの細かい肌、大きく丸い目、やけに細い体つき、控えめながら存在感を主張してくる胸の双丘、自分一人しかいないので比較ができないが恐らく身長もかなり小さくなっている。そして着こなしが難しそうなゴスロリ服がバシッと似合っている可憐な外見。街中で見かけたらまず振り向く美少女だ。
しかしながら僕は男だった筈だ。モロッコやタイに行った覚えも当然ない。
「女になってる!?」
この異常な状況下、必然僕の注意は一点に集まった。パンツが見える自分の足元の床……ではない。いや、そこも見たが。ちなみに緑と白の縞パンだった。
そうではなく、鏡張りの壁の中で唯一違った区画、この部屋から出る為のドアに注目したのだ。まさか死にかけの人間を攫って無理やり性転換させた後、こんな趣味の悪い部屋に監禁するような奴がいるとは思えない。しかも病気で入院していたにも関わらず、今の僕に苦しいところはない。全くの健康体に思える。そんな事ができる変態的な名医と知り合った覚えもない。
僕は説明を求めてそのドアを開けた。誰かいますように、そんな願いは、果たして叶えられたようだった。
左には青み掛かった短めの銀髪に人形のように綺麗で背の低い美少女。そして右には僕と同時にドアを開いたらしい、ピンク色の長いサイドテールの髪の美少女がいた。どちらもやはりゴスロリ服を着ている。僕の服が黒を基調としリボンとフリルをふんだんにあしらったスタンダードなゴシックロリータに対し、銀髪の子はそこかしこに十字架をモチーフにした装飾のある淡い青色のゴスロリ風の服、ピンク髪の子は白を基調としたゴスロリ服だ。
どうもその服装と表情を見るに同じ境遇といった体だ。銀髪の子は憮然としているし、ピンク髪の子は明らかに事態が呑み込めず辺りを見回している。
「あ、どうも……」
何か空気がいたたまれなくて思わず銀髪の子に挨拶をしてみたものの、相手は僕を警戒しているのか軽く会釈しただけで周囲を見渡し始めた。突然見知らぬゴスロリ美少女(僕の事だ)が話しかけてきて扱いに困ったのだろう。正直僕も困っているのでその気持ちは痛い程よくわかる。
程なくして正面のドアからもう一人が出てきた。今度は後ろで髪を一つに結んだツンツン頭の白髪の女性が、赤と黒を基調にしたゴスパンク風の服を着ていた。
「なんだあここは? おい、あんたらが俺をここに閉じ込めた……つー訳でもなさそうだな。ここがどこか知らねえか?」
白髪の女性の問いにピンク髪の子はフルフルと激しく首を振り、銀髪の子は短くかぶりを振った。視線で返答を促された僕は何か言わなきゃいけない雰囲気に呑まれて口を動かした。
「いや、気が付いたらここにいて、僕も何がなんやら……」
今気が付いたが声も高くて可愛い。全く僕の知らない声が僕の声帯から出ていた。
「そうかあ……。っ!」
白髪の女性が言葉を続けようとした時天井から光が溢れ、その中から女性が現れた。金髪碧眼で冗談みたいな翼を生やしたその女性は、あろうことか空中に浮いたままにこやかに告げた。
「君達にはここで殺し合いをしてもらいます♪」
呆気に取られる四人の上で、その女性(天使?)は相好を崩しその頬に手を当てた。
「なあ~んちゃって! あはは、一度言ってみたかったんだよねえ~♪」
その天使の様子に冷静さを欠く事なく面と向かって啖呵を切ったのは、意外にも四人の中で一番背が低い銀髪の子だった。
「僕達をここに連れてきたのはお前だろ。その冗談みたいな風体で冗談を続けるのなら殴るぞ。とっととこの状況を説明しろ」
どうやら見かけによらず気が強いらしい。……僕も見かけによらない事になっているが。
「おやおやせっかちだねえ。がっつく子は嫌われるよん? まあいいや、君達にはあるゲームに付き合ってもらおうと思ってね♪」
「ゲームぅ?」
白髪の女性があからさまに嫌そうな唸りを立てる。
「そうさ。ちなみに拒否権は無いよ? そして迂闊な事は言わない方がいい。これは生死を賭けたゲームだからね♪」
「なに?」
銀髪の子が眉を顰める。
「このゲームに負けた人は消滅しちゃうのだ。そりゃあもう惨たらしくね♪」
「えっ? えっ!? どういう事ですか!?」
ピンク髪の子が天使に駆け寄る。
「うんうん、そうなるよね。でも落ち着いてよくボクの話を聞く事をお奨めするよ。これからそのルールを説明するからね♪」
「おい待てよ、勝手に話進めんな。何で俺達がそんなゲームに付き合わなきゃならねえ」
白髪の女性が片手を腰に、もう片方の手を横に広げ当然の疑問を口にする。
「君達の意志は関係ないのさ。ではルールを説明するね♪」
「だからンなもんに付き合う必要はねえっつってんだろ。とっとと帰せ」
「いや待て。気持ちは分かるがこの正体不明に無暗に突っかからない方がいい」
白髪の女性を制したのは銀髪の子だった。
「こいつはどうも僕の知っている奴に近い臭いがする。言っている事はトンデモだが恐らく存在もトンデモだ。実際に僕達を殺せる力があると思った方がいい」
「いやあ君は冷静だねえ♪ ボクのような知り合いがいるのかい?」
「知り合いじゃない。お互い存在を知っているという点では知り合いかもしれないが。どちらかというと一方的に恨んでいる相手だよ」
「へえ、そりゃ失礼。とんだ偶然もあったもんだ。じゃあ心置きなくルール説明をさせてもらうね♪」
天使はそうにこやかに死のゲームを説明し始めた。
「君達の体は本来の体じゃない。それは君達自身気付いてるんじゃないかな? けどそれだけじゃない。君達の中に男がいます。それを二十四時間以内に当ててもらうね。そして男と見破られた人は消滅してしまいます♪」
「なっ」
四人が一斉に自分を、そして他人をまじまじと見る。僕はこの時どんな心境かというと、吹き出る冷や汗を止めるのに必死だった。その混じった男というのが僕なのは明白だったからだ。
「けれどそれだけだとゲームにならないよね? だからもう一つのルール。こいつが男だと宣言をして、もしその予測が外れた場合は宣言をした人が死んでしまいます。誰か一人が消滅した時点でこのゲームは終了♪ もし二十四時間経って誰も消滅してなかったら全員消滅。ね? 簡単でしょ?」
「ふっざけんな!」
白髪の女性が宙に浮いた天使に掴みかからんばかりに前に出る。
「何で見ず知らずの人間と殺し合わなきゃなんねえ! 第一どうやって殺すっつうんだ!」
「そう言われると思ってたよ。だからこんなのを用意しちゃいました♪」
天使が手を向けた方向のドアから更にもう一人女性が出てくる。
「なんだここは? あんた達は……って宙に浮いとる!?」
「さて君は男かい? それとも女かい?」
「いや男だけど。つうか何だよこの格好……」
天使の問いにその女性が答えた瞬間、その体から青い炎が燃え上がった。
「何だこれ! あっちい! あつ、焼ける! 誰か! 消してくれ! 助けてくれ!」
その炎は瞬く間に全身に燃え移り、女性の皮膚がみるみる焼け溶けていく。女性が助けを求め誰かに縋り付こうと四人を追いかけまわす。
「消火器、消火器はないか!?」
探せども当然そんなものはある筈もなく。燃え盛る女性から逃げる事しかできない。しかしその必死さからか、予測不可能な動きをしたその女性にとうとう僕が捕まった。
「うわっ……っ、熱く……ない……?」
不思議な事にその炎は僕の体にも服にも燃え移らなかった。
「……ぁ……」
そして目の前で女性は苦し気な呻きを漏らし崩れ落ちる。床に倒れたその体はすぐに原形を留めない程に粉々になった。
「っ……」
僕は体温が消え失せていくのを感じた。よろめき後ろに数歩下がった後、躓き尻もちを搗く。
「あああああ~っ」
ピンク髪の子が悲鳴を上げた。僕はというと、込み上げる吐き気を堪えるのに相当な努力を要し、声を上げる余裕すらなかった。
「わかってもらえたかな? この通り、この世界から消滅します♪」
「てめえ……っ」
白髪の女性もさっきまでの威勢がない。銀髪の子は顔を顰めつつ天使を睨んでいた。
「わかってもらえたようでなにより♪ 男だとばれた人、もしくは宣言に失敗した人はこうなるから覚悟してね? あ、宣言した後ボクが三回意志を確認するから即アウトっていう訳じゃないよ。安心だね♪」
「つまりはダウトをしろって訳だ。ふざけたルールで、自分が死ぬか誰かを殺すか選ばせてもらえると」
銀髪の子が自嘲気味に笑った。怒りを通り越して笑いが出るというのはああいう感じなのだろうか。
「そゆこと♪ ゲームが終わったらちゃんと元の体に戻すから安心してね♪ ああお互い自己紹介くらいはしておいた方がいいんじゃない? 名前がないと不便でしょ。本名は明かせないにせよ♪」
「そういうお前は名乗らないのか?」
「威勢がいいねえ。でもボクが名乗ってもあんまり意味もないしい。ま、神とでも言っておくよ♪」
「神、ね。ほんと、ますます似てやがる。糞食らえだ」
銀髪の子は吐き捨てるように怒りを露にした。こんな自称「神」に似た人? と知り合いとか、この子もどういう人間なんだろう。
「まあまあ、じゃあ君から自己紹介いってみよ~♪」
「え、わたしですか?」
ピンク髪の子が狼狽しつつ、促されるままに自己紹介を始める。
「えっと、わたしはひーこと呼んでください」
「なんで『ひーこ』なんだい?♪」
「えっと、よくやるゲームのキャラ名からなんですけど……」
「なるほどね~。じゃあそこの君♪」
「ん? あー、俺はレンだ」
「君の名前の由来は?♪」
「本名の一部を音読みしただけなんだが。本名でもいいっちゃいいかもしれねえが、一応な」
「そっか~。じゃあ次、君♪」
「……セラムです。よろしく」
「ちょっと毛色の違う名前だねえ。君はどうして?♪」
「自称神様のあなたには兎も角、他の人には言っても信じられないと思いますよ。取り敢えずある意味本名だとだけ言っておきます」
「じゃあ最後に君♪」
僕の番が来た。どうしよう、本名は完全に男だし、適当な名前っていっても……。
「あ、緑色の髪だし、僕はみどりって事で」
「ん、じゃあ一通り自己紹介も終わった事だし、いってみようか~♪」
天使の楽し気な声が室内に響き渡った。
これから僕らはどうなるんだろう。もう「僕」って言っちゃってるし、とてもじゃないけど誤魔化しきれる自信が無いよ……。
――ひーこの心の中
良かった~、ネトゲで姫プレイしてて。咄嗟に「わたし」って言えたし、このまま何とか男ってばれないようにやり過ごさなきゃ! できれば誰かにわたし以外に宣言してもらわないと……。
――レンの心の中
ちっ、しくじったぜ。こんなルールとかわかってりゃ口調だって整えられたかもしれねえのによ。けど無理して女口調とかぜってえばれるだろうし、このままオレっこっつう事で男勝り女キャラを演じるしかねえ。くっそ、無茶苦茶不利じゃねえか!
つっても戸籍上は一応女なんだよな俺。染色体異常で本来は男だし心も男なんだが、元々表面上の体も女だし。でも精巣はあんだよな。この場合の判定ってどうなんだよ?
――セラムの心の中
はあ、まさかまたこんな妙な事に巻き込まれるとは。正体不明のゲームやってたら異世界に飛んで女の体になったとか誰も信じないだろうな。しかも今度は自称神の気まぐれに付き合わされるなんて。
いやしかし僕の体は異世界で一度正真正銘女になった訳で。ん、んー? これ僕は女っていう事で良いのか? いや、油断は出来ないな。男っていうのが生物学的になのかパーソナリティの問題なのかははっきりしていないし。ここは様子見しつつ何とかあの自称神を出し抜く方法を考えるしかないか。
(くっくっく~。そう、実はこのゲームは誰が男かを当てるゲームじゃないんだな♪ 誰に宣言しようが宣言された人がアウト! けどそこまで踏み込めるかな~? 何せみんな自分が男だって思ってるんだから♪)
――To Be Continue ?
勢いだけで書いてしまった感が否めません。
一応長編に設定しましたが、続きを書くかはわかりません。
もし続きが読みたいという方がみえるか、自分の興が乗れば現投稿作の更新を妨げない程度に書こうと思っています。