85.ナガマサ軍団 人種年齢不問給料無し
ナガマサ達は遅い昼食を食べている。
ようやく全員揃った昼食は盛り上がっていた。
マーセラが興奮してはしゃいでいるからだ。
「イザベラ姉さま、本当にあの服くれるんですか?」
「いいですわよ。この前着てた服でしょ?宿舎には山ほどあるから、今度、遊びにいらっしゃい。良かったらアンヌさんもどうぞ。沢山あるから、きっと気に入るのがありますわ」
「やった!」
素直に喜びを表すマーセラ。表情が読みにくいアンヌも嬉しそうな雰囲気だ。
一方、クランツは驚きを隠せない。
「あの、ナガマサ軍団ってそんなに俸給が高いのですか?」
普通なら、イザベラはナガマサの愛人だからか? と疑う所だが、この兄妹の鼻はその事実が無い事を嗅ぎ取っている。だから、なおさら不思議に思うのだ。
ぐ、軍団? とナガマサが心中で突っ込む中、イザベラが嫣然と微笑む。
「あら、ナガマサ軍団にお給料なんてありませんわ」
「ええ?!」
「じゃ、どうやって?」
「おい、人聞きが悪いぞ。軍団ってのもアレだしさ、、、」
「ウキャキャ。ナガマサ軍団は俸給制じゃないっすよ。経費はもらえるっすけど、基本は自分でなんとかするんすよ」
ナガマサの突っ込みは、ヤンスの笑い声と説明でかき消された。
実際、ナガマサ一行の活動資金は全てナガマサが稼いだ報酬で運営されているので、ナガマサの言い分は正しい。
イザベラの服も、クリスの特注の刀身も、ヤンスの釣竿も、である。
ただ、イザベラの山ほど有る衣料品や宝石などはナガマサの資金とは無関係の物もあるのだ。
それらはイザベラが個人的にもらった献上品だ。ただ、彼女の美貌だけで貢がれた物では無い。
イザベラはナガマサのスケジュールを管理する秘書的な仕事を任されているのだ。例えば、先日アイテムを作ってくれたルイ・オジスに母親の治療を頼まれたのだが、自分でなんとかするわけではない。一言、イザベラに命令するだけだ。そうするとイザベラ、ナガマサのスケジュールを調整してなんとかするのである。
そうなると、ナガマサの名声が跳ね上がった僅かの期間に、彼の窓口であるイザベラへの贈り物がドンドン増えていったのである。
また、ゴブリンというハンデが有りながらヤンスも多様な情報を手に入れてくる。それも彼の才覚ともう一つナガマサの情報という貴重な交換材料を持っているからだ。それを原資として必要な情報を取捨選択している。
つまり、彼らはナガマサという看板を使う事が許されているのだ。
「じゃ、僕らもナガマサ軍団に入れば、、、」
「そうだよ、お兄ちゃん。沢山お洋服貰ってきて!」
「いやいや、お前ら話聞いてたか?」
この異世界では、イザベラが所有しているような新品の洋服やアイテムはとても高価だ。それを複数所持するなど、お金持ちしか無理なのだ。
庶民は古着で当然。というか、その古着を大切に着回すのが常識なので、マーセラが憧れるのも仕方ないのである。
☆
食事が終わり、ご機嫌なマーセラとクランツが張り切って後片付けを買って出ている。彼らはナガマサ軍団に入団希望なのだ。
「それで、どうするんすか?」
そんな中ヤンスが口を開く。ヤンスは一人生かしておいて証人にした方がよかったっすね とは言わなかった。
警察に証人を突き出し正当防衛を訴える というは現代人の発想だ。自力救済の世界では警察的な組織はまずない。なので、証人など無駄なのをヤンスは知っているからだ。
もちろん、殺人が公認されているわけではない。畑仕事をしている領民を害したり、街中で暴れたりしたら衛兵がすっ飛んでくる。これは、その土地の治安を当該地の支配者、つまり王様や領主が担っているという事だ。
だが、彼らは警察ではない。別に犯罪捜査などはしない。彼らが介入してくるとすれば、謀反など彼らの権益が犯された時くらいだ。盗賊を返り討ちにしたところで、自分の身は自分で守るのが当然の自力救済の世界では特に問題にならない。
なので、フェーべにで、ならず者を皆殺しにしてもナガマサが罪に問われる事は特にない。ただ、ならず者といっても、地元民であれば係累の人間も多いので恨まれる可能性はある。なので、公にしてもナガマサに利点は特に無い。
だから、ヤンスが聞いてるのは、ナガマサの今後の対策である。
それはリーダーであるナガマサが判断すべき事だからだ。でも、彼は今ひとつ決断がつかなかった。
「このまま本当に帰るのも手ですわ。確かにナガマサ様は少し有名になりすぎましたわね」
「ああ、確かにな」
イザベラの意見にも一理ある。ナガマサもそれはわかっている。
リュエルが主犯かどうか分からないが、ナガマサを殺したいほど憎んでいる地元民が多いのは事実だ。それには、フェーべの街の大人の事情が絡んでいる事も理解していた。アスラ教会内の派閥争いに加えてネルトウスの覇者であるサリカ王家の世代交代も絡んでいるのだ。
カレルや彼の兄である王は高齢でそろそろ引退だ。そうなるとその重臣達も大きく入れ替わる事になる。王が代われば重臣も代わるのが当然で、必然的に権力闘争に発展するのだ。
だが、ナガマサの施術により、カレルの引退は10年は延びた。
ナガマサは多くの人に絶賛されたが、それを快く思わない人も多かったのだ。
実はナガマサは高齢の現在の王様の診療も打診されていた。
王が住む中央区、丘の上に立つ王城への診察日を調整中なのである。
ナガマサを狙った首謀者は不明。つまり、原因は全く解消されていない。
彼はいつまた狙われてもおかしくないのだ。
「それ、おいらも賛成なんすけど、イテルツさんに話すって手もあるっすよ」
「まあな、それもあるな」
ヤンスの意見も一理ある。というか、この異世界の常識だろう。
庶民が生命の危機に瀕したら、まず実力でそれを排除する。
例えば、モンスターや盗賊が農村を襲ったらまずは自分や家族で剣を取り戦う。それが勝てそうも無い相手なら、同じ村の仲間と協力して自力でこれを排除する。
それでも排除が不可能なら領主様に縋り、騎士を派遣してもらうのだ。
つまり、ナガマサは余所者なので血縁・地縁は無い。余所者だから、親分に当たる人物はいないが、アスラ教会のアマトリリア聖堂の客人なので、そこのボスのイテルツを頼るのが常識だ。
「でもさ、イテルツに借りを作る事になるだろ? そしたら、フェーべに足止めされそうだぞ。もうこの町には用が無い。とにかく魔境を一度見たいし、タイタニアに行って魔王の情報を収集したいしな」
ナガマサがこの世界に来てまだ一年も経っていない。彼は来年の春を待ってルキアノス山脈を越えてタイタニアに行くつもりなのだ。
「話の持って行き方っすよ。おいらが話をつけるっすから。別にイテルツさんに守ってもらう必要な無いっすから借りなんて無いっす。それより、この情況は例の物との交渉材料になるっすよ」
「ふむ、、、まあ、イテルツとしては俺を守らざるを得んだろうけどな」
例の物とは、ナガマサが褒美としてカレルに要求しているナガモリ文書である。
それはナガマサの使命にかかわる物なので、どうしても欲しい。
だが、未だにそれの閲覧許可も下りない。その癖、診療依頼だけは高圧的にやってくるのだ。
「ナガマサ様、フェーべに戻られるなら、そのリュエルとやらを締め上げてはいかがですか? 御命令下されば私がその医師を捕らえて参ります」
クリスの言う事も一理ある。
ナガマサを狙った敵の正体は不明なのだ。リュエルが関わっている可能性が高いし、その情況から南地区のガイア人だと推測されているだけだ。
つまり、敵の本体は無傷で其処に戻るなら、相手の戦力はしっかり把握しなければならない。何度も聞いたクリスドクトリン。情報収集の重要性は明らかだ。
だが、、、
「えっと、クリスが直接行くの?」
「はい、手加減して生かしまま連れてまいります」
「・・・・・・」
確かにクリスなら可能だろう。
だけど、この異世界では実力行使は是だが、フェーべの城内では話が違う。
クリスならば、隠密に事を運べそうだけど、ナガマサの感性にはガチの荒事は馴染まない。
ナガマサが戻る場所は東地区のアスラ教会の内部だ。
その地区内なら、かなり安全だし、ナガマサはフェーべに永住しようとは思ってないので、そこまでやる気は無いのだ。
「まあ、確かにリュエルに話は聞いてみたいけどな。実力行使までしなくいいよ」
荒事が好きではないイザベラもナガマサを支持する。
「そうですわね。大事になって喧嘩は嫌ですわ。それに、ナガマサ様にはクリスさんがいつも側におりますもの。安全ですわ」
「そうっすよね。クリスさんがナガマサ様から離れるほうが心配っすね。情報ならオイラが聞いてくるっすよ。リュエルさんは、それこそイテルツさんにお願いした方が楽チンすよ」
「そうだな、フェーべに戻るか。東地区なら安全だしな。何より文書が欲しい」
「・・・・・・」
ナガマサの迂闊な発言にヤンスとイザベラは無言で答えた。クリスは元から話さない。
ナガマサは食事で気が緩んでいるのか、アンヌがイテルツ側の人間である事をうっかり忘れている。
彼がナガモリ文書を強く求めている事を仄めかしてしまっていた。
ヤンスがイテルツと交渉する時に、少しやりにくくなるだろう。
ナガマサの考えはフェーべに戻る事に傾いたが思わぬ人が異論を唱えた。
「ナガマサさん、少し話してよいですか?」
「ああ、ごめんね。関係ない話ばかりで」
ナガマサは共に食事をしているアンヌの存在を忘れていた。それは、アンヌが自分の気配を消していたのが大きいのだ。フェーべで育った孤児院育ちの亜人の彼女は、そうやって自分を消して生きるのを当然として生きてきた。
アマトリリア聖堂は彼女達のような亜人にも優しく住みやすいが、一歩出ると亜人特にマオ族に、今のネルトウスは厳しい。
「そんな、こちらこそ差し出がましくてすいません」
そんなアンヌには、このナガマサは不思議な人物だった。ゴブリンの従者を連れているのも珍しいが、そのゴブリンも人間の美女で医師のイザベラも同列に扱う人間なのだ。そんな人間はネルトウスにはいない。
「今、ナガマサの値打ちが凄く上がっています。フェーべに戻ったら必ず引き止められます。争奪戦になるかもしれません」
「いやいや、そもそもイテルツと短期間の約束で滞在してるんだよ。なんだかんだ言ってもイテルツは信用できる男だと思うよ」
あまり気が合わないイテルツだが、その人間性は直感で信用しているナガマサだ。ただ、既に一週間はとっくに過ぎているし、約束のナガモリ文書の音沙汰もまだないが。
「確かにイテルツ様は公平な方です。自分の利益を優先したりしません。ですが、、、」
少し言いよどむアンヌ。こういう心の動きも彼女の育った環境が大きい。
「うん、ですが?」
「はい、ですが、カレル上人は違います。恐れ多い事ですが貪欲な方です。お気に入りのオモチャは絶対に手放しません。そして、イテルツ様はカレル様の命令には絶対服従です」
「・・・・・・」
「ナガマサ様の能力は高く評価されています。カレル様がナガマサ様を手放すはずがありません」
カレルが特別強欲という訳でない。だが、自分の老化を強く意識している老人にとって健康、若さは何にも変えがたい価値だ。それが、権力者であればなりふり構わず権力を私物化して入手しようとしても、さほど驚く話ではない。
「じゃ、いつまで待っても報酬は支払われないのか?」
「ナガマサさんが、カレル上人と契約すればすぐ支払われるかと、、、」
「うーん」
確かに、その話はカレルを治療した直後からあった。
フェーべに定住してカレルの主治医となる話で、かなりの高待遇ではある。
だが、ナガマサにはネルトウスに骨を埋める気など全く無い。当然断っている。
「カレル上人は気風の良い方でもありますから、ナガモリ聖人のようにアスラ教徒になれば大出世も夢ではないです。ですが、外国には行けなくなると思います」
「仮にさ、俺がフェーべに戻って挨拶してから帰国しようとしたら、、、拘束されるかな?」
「・・・・・・分かりません」
だが、そんな無法はしないとは言えない。言いよどんだアンヌさんは言外に言っている。ネルトウスの支配者には憲法の規範は無く、既にタイタニア帝国の掣肘も存在しないのだ。
「そっか、、、」
ナガマサは自らの能力を気前良く披露し過ぎた。カレルに施されたこの異世界最高水準の医療技術につい感動して、自分も全力を出してしまったのだ。
だが、その結果同僚のリュエルに狙われ、カレルの執着を呼ぶことになってしまっていた。
ナガモリ文書には未練が残るが諦めた方が良い。
と、ナガマサも理解できた。彼は理屈では理解できているのだが、どうしても文書も欲しかった。
「ナガマサ様はナガモリ聖人の手記が欲しいのですね?」
「まあな」
「もし、、、もし、それをお渡ししたら私をナガマサ軍団に入れてくれますか?」
「軍団?!」
さっきの冗談をアンヌさんも聞いていたらしい。
だが、それを冗談だと誤魔化すにはアンヌさんの目は真剣だった。
食事中の彼女はマスクを外している。
黒い毛皮の中、エメラルドグリーンの瞳は独特の空気を醸し出している。
その空気は妖しい。アンヌを黒猫に見せる。その効果は生まれ付きのもので、それは彼女がフェーべで生活するのを困難にしていた。だが、孤児である彼女には他に住む場所が無い。他の街に行く術も無い。
「もちろん、歓迎するよ。なんてな、あはは」
不自然な笑いで誤魔化すナガマサだが、それも仕方ない面がある。
アンヌが文書をナガマサに手渡すと言う事は明確な裏切り行為だ。発覚すれば命は無いのは確実なのだ。少し離れた場所にはクランツとマーセラもいる。
ナガマサの冗談めかした答えでもアンヌは満足気に微笑んだ。
ナガマサはまた考え直さなければならなかった。
既に、当初の目的であるクリスのクエストは終わっているし、ナガモリ文書も必須という訳でもない。手がかりがあるかも? というくらいの話だ。
このままネルトウスに軟禁状態になるくらいなら、文書を諦めたほうが良い。
そうナガマサが考えているとヤンスが話しかけてきた。
「あの、一ついいすか?」
「ああ、どうした?」
「いや、アンヌさんの話を聞いてたら、今日あっさり外に出れたのが不思議っすよね。おいら、心配かけないようにアンヌさんを前もって誘ってるっすから、イテルツさんだって今日の外出は知ってたはずっすよ」
「そうだな? まあ、一応俺達の自由だし、じゃないか?」
「いやいや、フェーべに入る時すっごく苦労したっすよ。カレル様がその気になったら門を封鎖なんて簡単にできるっすよ」
ナガマサの感覚には馴染まない所なのだが、基本的に庶民の自由は簡単に制限される世界なのだ。門から出る方は比較的緩いがナガマサ一行は目立つので普通に通ろうとすれば絶対見つかる。
ただ、彼らは特に問題無く外出していた。
確かにおかしいがナガマサに分かる訳が無い。
「あの、昨晩からイテルツ様が不在なんです」
その問いにはアンヌさんが答えた。
「え、そうなの? 俺何も聞いてないけど」
本来なら今日もナガマサはフィオニクス聖堂で診療だった。それには必ずイテルツが付いて来ていた。護衛なのか監視なのかはナガマサは知らないが。
「はい、時折ご不在になります。何処にお出かけか何時までご不在かは私どもは知りません」
「ふーん。じゃ、タイミングがよかったのかな?」
逆に言えば、今がチャンスな気もするナガマサだった。
☆
同時刻、フィオニクス大聖堂のカレルの私室にて、カレルとカルデナルが二人で昼食を取っていた。
「シャルルはそろそろイオに着いたかにゃあ?」
「はい、昨夜人目に付かないように出発しておりますので、そろそろ到着かと思います。ただ、イテルツ浄人に相談せずに良かったのですか?」
「シャルルは武辺者だでの」
「はい」
それはカルデナルも分かっている。イテルツに暗殺を命じるなどドラゴンに玉乗りを仕込むようなものだ。ただの確認である。
何故ならイテルツをわざわざお使いに出しているのだ。それはそれで、長剣で魚を捌くようなものだ。到底、適材適所とは言えない。
「ちいと、無理があったかにゃあ?」
イテルツをフェーべから引き離す為だけの意味の無い命令なのはカレルも分かっている。
「いえ、ディエゴが巧くやってくれるでしょう。カレル様の噂を聞いて猛然と尻尾を振ってきてますから」
「やつなら あんき だわ」
「はい、忠義者ですから」
カルデナルの言葉に、カレルは思わず笑った。
確かにディエゴの出世欲は彼らへの強い忠義となっている。
思わず笑いがこみ上げるのも、彼の体調がすこぶる良いからだ。
ナガマサの治療により彼は10年、いや20年は若返っている気がする。対面に座るカルデナルも、ナガマサによって若返っている。禿頭には髪の毛が数年前ぶりに生え肌がつやつやと潤っているのだ。
「あの たわけも、そろそろのうなった頃かにゃあ」
「はい、ナガマサ殿ですね。討ち手と見届け人も派遣しております」
「ほうか、おぼこい医師だで、ちいと惜しいの」
「惜しいですが、猊下の命の従わない医師はいりません。それに、これ以上王城への往診を引き伸ばせません」
「おそがい事こくがや」
「は、申し訳も。猊下の長年のご苦労を思いますと」
「確かに、あのだちかんには、たいがい苦労したもんで」
若返った主従は声をそろえて笑った。
少し遅く生まれただけで一生下風に甘んじる。
王家では、いや世間でもよくある弟の本音だろう。普通は成人すれば兄弟など大した意味は無くなるのだが、王家だと生涯付きまとう問題だ。
ナガマサの能力は惜しいが、自分が管理利用できなければ危険で厄介なものだ。カレルはナガマサが実質的に不老不死まで可能にしている事を知らない。もし、知っていたら対応も変わっただろう。
彼は20年若返った。いや正確に言うと68歳の彼の肉体は変わっていない。時計の針は逆回転はしない。ナガマサは彼の肉体からリスクを除き磨耗している身体のバランスを整えただけだ。それが若返ったようにカレルには感じられ、彼の主治医はナガマサの手際に驚き『若返った』と彼に報告していた。
ただ、その若返ったと感じる主観はカレルに生来の勇猛さを取り戻させたが、彼は若者になった訳ではない。
時間は戻らないし、彼には残された時間は極めて貴重だ。
その貴重な時間には、もう邪魔者は要らない。
兄王は既に高齢で病勝ちだ。兄より先に死にそうだったカレルはもういない。
ナガマサに自分の手駒の治療は既に終わらせた。
果断なカレルはナガマサが自分に臣従しない時点で決断していたのだ。
人の寿命を左右するような突出した能力は、常に大きな影響力を持つ。それは大きければ大きいほど強く、危険視される事は珍しくない。
ナガマサが持つ魔法技術はその一端を示すだけでネルトウスの政局を左右してしまったのだ。




