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魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第3章 探索
85/110

84. 一途なネメシス


 広大で豊かなガイア平原。

 と言っても、川も森を元来は多い地形で、川があるという事は谷やそれにより丘陵部も生まれる。

 そして、豊かな水量と夏の暑さはこの地を豊饒の大地にしていた。

 人間に住み良いこの地は、当然ながら獣にも亜人にも魔物にも住み良い場所だ。かつては此の地に多数の魔獣が住んでいた。

 普通の獣と魔獣の違いは幾つかあるが、その特徴的な一つに人間を恐れず襲い掛かってくるという点がある。

 人間という獣が弱かった頃は、魔獣たちにとって二本足の猿は鈍くて弱い獲物であった証左である。

 だが、人間が文明と魔法の力を身に付け始めるとその立場は逆転する。まして、此の地に住むガイア人は勇猛な民族だ。特に優れた戦士は衆を圧倒する。

 魔獣は、人を襲う恐怖の存在から、ノコノコ人前に姿を現す間抜けな獲物へとその意味を変えた。日本では、最強の獣ヒグマですら人間を恐れて必死に逃げ隠れるのにだ。

 そして、ガイア人達の活動領域が広まるに連れて、此の地に住んでいた亜人達も住みかを追われることになる。彼らも同じ魔獣を狩り生活の糧にしていたのだ。生活圏が重なり獲物が被れば弱い方がその地を追われる。自主的に去るか抗争の末に去るかが違うだけで結果は同じだ。

 ヤンスの祖先のゴブリン達が生まれ故郷を追われたのと同じであるし、別に亜人でなく人間同士でも他民族を追い払ったり虐殺したりは人類の歴史の普遍的な行為で、珍しい話ではない。

 ただ、一度追われた此の地の亜人達は一度その住処を取り戻した事がある。

 それは、ガイア人がタイタニア帝国に敗北し、この地域の名前がネルトウスというタイタニア風の呼び名に変わった時だ。タイタニアはにその旗に忠誠を誓い、税を支払えば、その人種、民族の自治を認めたからだ。ただ、亜人の場合はその地の事情に即した臨機応変の判断がある。

 これには、扱いにくいガイア人に対抗する地元勢の存在をタイタニア総督が必要とした事情もあった。それにより、此の地の亜人に保護政策が施され、その後の迫害を招くことになった。

 広くルキアノス山脈に多数生活しているゴブリン達の場合、他の亜人と違う事情が有り、各国の利害の対立があった。正確に言うとツェルブルク以外の国はゴブリンを亜人と認めようとしなかったのだ。

 その為、ツェルブルク王家の請願にも関わらず、現在に至るもゴブリンは亜人扱いされていない。ツェルブルクのゴブリン保護区は極めて稀な存在なのだ。


 このガイア平原に広く住んでいる亜人の名はマオ族。猫族とも言われ、猫の様な風貌が特長の民族がマオ族である。所謂、猫耳と称される全身の体毛が少ない人間寄りの個体も存在する。

 タイタニアにより平穏の時代を与えられたマオ族はその能力と愛嬌のある容姿もあって亜人の中ではかなりの繁栄を見せた。彼らの本来の生息地はルカヌス半島辺りの魔力が強い地域であった。タイタニアの保護政策のおかげで、現在彼らはタイタニア全土に住んでいる。

 だが、皮肉にも生まれ故郷のネルトウスにおいてマオ族は迫害を受けている。

 タイタニアの支配を跳ね除けたガイア人はすぐにマオ族が亜人であり、彼らと抗争関係にあった事を思い出した。タイタニアによるマオ族の長年の保護がガイア人とマオ族の関係を完全に悪化させていた。


 そして、現在イオの周辺にしかマオ族の自治が認められた集落はない。だからこそ、街を守る防衛線に多くのマオ族が協力している

 現在被差別民となったマオ族のほとんどがイオ周辺に住んでいる。イオはタイタニア人の入植者が仕切っている街なので、彼らも亜人として生活できるのだ。

 ただ、ネルトウスの大部分を占める他の地域では、彼らが生きる道は少なく、生活は苦しい。その中でアスラ教フィオニクス派は、限られた活躍できる場所であり、彼らが安心して住める場所でもある。その孤児院にはマオ族も多い。

 アンヌさんは、そんなマオ族の一人である。彼女がいつもマスクを身につけているのは衛生観念からだけではないのだ。

 



「進行方向そのままだ。あと500メートルくらい先に一人動きを止めている。シロアシヒドラが群生してて近づけない?そこは頑張ってくれ」

 ナガマサはヤンスと念話で会話している。 


 ゴロツキ共の急襲により誘き出した監視者の包囲に穴が開き、彼らの位置が掴めなくなったのだ。ある程度追い込んでいた為、何処かに潜んでいるらしい。クランツの仲間の冒険者ギルドのメンバーが仲間が追っているが、まだ発見できない。そのため、クランツが冒険者仲間から助けを求められた。彼の亜人の鼻が必要になった為だ。

 ナガマサは自分に関わる事なので、彼らに協力する事にした。亜人の鼻を使うまでもなく、ナガマサの新アイテムは彼らの魂の位置が大体分かる。ヤンスの位置との比較対象でかなり正確に目標の位置を割り出しているのだ。

 オジスが作ってくれたアイテムはナガマサ得意の周辺把握とはその探知範囲が桁違いである。


「おい!動くなお前ら!!」

 ナガマサはゾンビ共を怒鳴りつけた。

 彼は、ゴロツキ共をとりあえずゾンビ化させたが、真名を聞いてガチの魔法契約するのは嫌だった。彼らと強い縁を結びたくなかったので仮の名前を付けて簡易魔法契約を結ぶことにした。アナンケやモロク以下の扱いである。

 ナガマサはゴロツキ共をゾンビ化し、クリスに誅殺された順に並ばせた。そして、その順番に名前を付けていった。

 髭面が一郎、赤毛が次郎と言った具合である。


「一郎お前が依頼を受けて他の仲間を集めたのは分かった。それで、相手は誰だ?何故俺を狙った?」

 ナガマサはヤンス達が帰るまでに、尋問をする事にした。

 せっかく景色の良い所に来たのだから、皆で食事をしてから帰ろうというナガマサの判断で、ヤンス達の帰りを待つ事にしたのだ。死体の山ごときでナガマサは動じない。彼はすっかり此の世界に馴染んできていた。

 いや、少し、ずれているかもしれない。

 マーセラはゾンビ達を気味悪がって一人離れた場所にいるのだ。


「ううう、し、知らない」


「知らないって、お前は知らずに荒事を引き受けるのか? 俺はフェーべじゃ医師として善行しかしてないぞ?」


「あーーー、獲物が、、どんな奴か、関係ない。――金になるか、、金に、、見合うか、だけだ」


「つまり、金次第ってわけか?」


「ぅあたりまえだ! 誰でも、同じだ。 金はたっぷり貰った。魔剣の話も聞いた。こ、断る理由、は、何も、無い」

 金次第で相手の善悪を問わずに仕事を請けた髭面だが、差配する立場の彼は雑な仕事はしていない。

 むしろ髭面は慎重に事を運んでいた。依頼を受けたのは彼で、彼と彼の仲間だけで仕事をしても良かった。だが、髭面は魔剣の情報を餌に顔見知りのならず者に声を掛け、馬車や馬の手配までしている。


「わかった。それはもういい。相手について、何か分からないか?」


「知らない。は、初めて見る女、だ」


「女なあ?」

 ナガマサには心当たりは、全く無い。

 少なくとも彼には殺されるほどの恨みなど有るとは思えないのだ。


「ナガマサさん。少し私も質問していいですか?」

 

「うん? アンヌさんも協力してくれるの?」


「はい、私も巻き込まれてますので、この先も考えると人事じゃありません」

 アンヌさんはゾンビのおぞましさに耐えてナガマサの周囲から離れていない。彼女はイテルツによりナガマサに付けられているので、ナガマサが危険に会うのは困るのだ。

 アンヌさんが手助けしてくれるなら、ナガマサに否やは無い。

「一郎、お前がこの依頼を受けた場所は何処です?地区と場所を言いなさい」


「亜人があぁぁ! 獣!! 命令するなぁ!」


「煩いぞ一郎。質問に答えろ」

 アンヌの質問に拒否反応を見せた一郎は、ナガマサの命令にもグズグズと反抗する。ナガマサとゴロツキ共の間には簡易的な魔法契約しか結ばれていないので、意識は少し曖昧だ。


「ううぅぅ、、、」


「アンヌさんの質問に答えろ!」


「い、嫌だ」

 髭面こと一郎はマオ族が嫌いなのだ。また、半端な魔法契約しかしてないのでナガマサとの関係も半端なのだ。故に命令しても従うとは限らない。


「すいませんが私の質問をナガマサさんが命じてもらえませんか?」

 ガイア人の蔑視に慣れているアンヌさんは知っている。一郎は感情的になっているだけだ。だが、だからこそ、理屈でいう事を聞かないという事を経験している。


「うん? それでいける?」

 マオ族とガイア人の確執を知らないナガマサはよくわからない感覚だが、アンヌさんの忠告に従った。

「依頼を受けた地区と場所を言え!」


「南地区。旗亭リュナス、です」

 

 髭面に情報を吐かせたナガマサはアンヌを見る。

「マジかこいつ。アンヌさんと俺の違いってなんだよ?」

 ナガマサから見ると、双方に対した差は無い。

 此の世界の人間もゾンビのクリスも亜人アンヌさんやハマちゃんもゴブリンのヤンスも大して変わらない。彼の最も信頼する知覚である周辺把握では青白い燐光を放つ生命反応だからだ。


 だが、視覚より周辺把握に頼る人間は滅多に居ない。アンヌさんもナガマサの発言をスルーした。どういう意図であるか、咄嗟に判断できなかった。だから彼女は一郎の情報の解説だけを口にした。

「魚料理で有名な料亭です。特に北海で獲れる鮭は今が旬です」 

 内陸の都市で魚? と思うかもしれないが、ここは異世界では氷くらい魔法で簡単に作れるし、田中商店の魔法のスクロールが普及して以来、魔法技術は広く民間に普及しているので冷凍・解凍の技術だって進んでいるのだ。


「それで?」


「断言はできませんが、地元意識の強い人が集う高級料亭と聞いています」

 このアンヌの言う地元意識に込めた意味をナガマサは理解していない。


「う~ん。それだけじゃ、なんとも言えないな。一郎他に何か知らないか?」

 正直言うと、地元の人に嫌われているらしい という話はヤンスから遠まわしに聞いているがナガマサは東地区以外に足を踏み入れた事は無い。そして、色んな人間を診察したりして会ってはいるが、南地区の住人、それも生粋の地元民とは話した事がない。

 実は、以前に南地区から呼ばれた料理人や給仕とは会っているのだが、お互い一言も口を聞いていない。

 なので、ナガマサには自分が嫌われているという自覚は無い。


「な、何か? って何だ?」


「他に何か情報だ。その料亭に出入りしている人間とかな」


「い、いる。それなら、ラピエールがいた」

 そう言って髭面、いや一郎は一列に並ぶ最後尾。自分と対極の位置に居る剣士を指差した。12番目の最後尾にいるゾンビを。

 クランツに止めを刺されたガイア戦士がラピエールだった。

 ガイア戦士の彼は、生粋の地元民。フェーべの生まれである。




 ようやく潜伏していた追っ手を逆に追い詰め捉えたヤンスとクランツがナガマサ達の許に戻ってきた。


「あれ? なんかご機嫌悪いっすね」

 ヤンスは目聡くナガマサの顔色に気が付いた。


「いや、機嫌が悪いってか、信じられないんだよ」


「どうしたんすか?」


「俺を狙った奴が分かったんだよ」


「誰っすか? どんな大物が?」

 大きな眼を丸くして尋ねるヤンスだが、ナガマサは仏頂面で黙っている。

 彼の機嫌の悪さを見取って、イザベラもクリスもアンヌも口を開こうとしない。


「リュエルですよ、旦那! あの女の顔を俺が忘れるわけがねぇ。いい女なんでさ。昔から狙ってる俺が見たんだ!見間違えるわけないですよ」

 だが、空気を読めないゾンビが意外と流暢に話した。

 ナガマサにダースと名づけられた12番目のガイア剣士である。

 ナガマサは一郎から十郎までは日本風の名前を適当につけたのだが、十一郎と11番目に名づけるのは違和感があった。十一男の日本風の名前なら与一なのだが、ナガマサは思いつかなかったので、11番目をイレブン、12番目をダースと名づけたのだ。


「リュエル? って誰っすか?」


「医療召喚師のリュエルだ。カレルの治療チームの一人だよ」




 フェーべの南地区の一画。この辺りは日当たりの良い好立地で、一軒一軒の区画は広く設定されている閑静な住宅街だ。当然その地に住むのはお金持ちであり、地元の名家が多い。ただ、貴族は中央区に住んでいるので、名家と言っても身分はそれほど高くは無い。

 その高級住宅地の一つに召喚師リュエルの実家はあった。

 医療魔法に生涯を捧げた彼女は結婚せず現在も独身である。

 名家に生まれ、道行く人が皆振り返るほどの美貌を持った彼女なので、結婚しなかったのは100%彼女の意思だ。

 既に婚期は逃しているが、別に結婚などしなくても彼女は生涯生活に困らないし、その気なれば何時でもいくらで相手はいる。

 別に結婚しなくても彼女は名家で資産家の令嬢なので何の問題もない。

 そのリュエルが自室のベットで膝を抱えて苦しんでいた。


 その彼女を励ますように、その周囲を飛び回る愛くるしい小動物。猫ほどの大きさのそれが、リュエルの周囲をフワフワと飛び回り彼女を励まそうとしている。

 リュエルが少女の頃からの親友である。精霊である。

 彼女の周囲の精霊が彼女の魔力とイメージを受けて金色の毛皮を持つふわふわのヌイグルミのような姿で顕現しているのだ。彼女の特殊な才能は幼児から精霊の存在を肌身で感じる事ができた。

 他人の目には一切見えないが、リュエルの特筆すべき希少なスキル『召喚師』は精霊を目視・会話する事ができる。それにより、精霊を使役する事も可能なのだが、リュエルにとって精霊とは大切な友達だ。彼らはいつもリュエルの側にいてくれた心の支えである。

 でも、今日の彼女は大好きな友達の励ましも受け入れられないほど憔悴し後悔していた。


 ナガマサの噂はフェーべ中で知られているが、アマトリリア聖堂の内部に居る彼の詳しい情報はあまり知られていない。カレルの治療以降は一般の患者も診ていないので、今は一般人がナガマサの姿を見るのはかなり難しい。

 そのナガマサの情報を売ったのは、間違いなく彼女だったのだ。

 今頃はナガマサはこの世にいないだろう。そう思うとリュエルに自責の念が襲い掛かる。


 彼女の周囲、南地区の人々はアスラ教フィオニクス派を激しく敵視している人々が多い。正確に言うと余所者や獣の亜人が、此の地にデカイ顔をして住んでいるのが許せないのだ。

 彼らには彼らの正義があり、それに反する人間を悪魔化して憎むのはよくある話である。それはどこにでも、現代日本でもある。

 其処では確たる物は何も無く、ただただ根拠の無い噂や悪意のある讒言が事実として語られている。特に高名は人間はその悪意が異常に集中する傾向がある。

 異世界だけでなく現代日本でもよく行われているので身近な現象である。


 そして、フェーべに置いて今もっとも悪意が集中しているのが医師としての名声が高まっているナガマサだ。彼が癌から救ったカレルも悪意の対象なのだが、彼は勇猛さで知られたガイア戦士で地元の王族だ。そして、地元にも貢献が大きい。故にカレルへの悪意はいつも遠慮がちだ。

 だが、ナガマサは違う。彼は偉そうに若い癖に医者で余所者で異界人で、壁の外の難民や亜人とつるむムカつく男なのだ。

 その嫌な男が、信じられないほどの名医など絶対に認められない。

 悪意で見る人たちからしたら、このナガマサなる男は絶対に詐欺師か地元の名医であるリュエルやブロカの仕事を盗んだ悪人だ。

 ガスパールを治したという実績その物がズルの産物だと決め付ける。

 ちょうど、岩盤規制を打破した政治家を悪意でしか見れず、偏った報道しかできない新聞社と同様である。

 そして、この異世界は自力救済の世界。

 ここは日本のように甘くない。気に入らない奴は自力でぶっ潰す。それに金を出す、また援助する人は少ないないのだ。ナガマサというズルい悪魔を殺害する行為は正義の行いなのだ。


 リュエルは今まで高潔な人生を生きてきた。

 そんな地元の知人とは距離を置いてきたのだ。

 だが、今回だけは許せなかった。

 絶対にナガマサを認められなかった。


 彼女は召喚師として希少なスキルを持っていながら、彼女の魔力の器はガイア人の例に漏れず小さいものだった。

 彼女は幼女の頃から召喚能力が使えたが、最初はカブトムシ程度の大きさにしか精霊を召喚する事ができなかった。

 折角のスキルを生かす事ができなかったのだ。

 もし、彼女がある程度の魔力総量を持って生まれていたら医療召喚師という道だけでなく、幾多の選択肢が有ったろう。それも特殊な才能の見合う選ばれし者、高い身分になれたろう。

 だが、彼女の魔力総量は少ない。それは後天的努力である程度能力の幅を広げる事ができるが、やはり限界は歴然としてある。

 現実に向き合った彼女は血の滲むような努力をして、学問を修め自身の能力を引き上げて一流の医療召喚師となったのだ。

 それはナガマサが驚嘆するほどの技術なのだが、彼女は魔力総量に対する拭い難いコンプレックスを抱え込んでいた。


 そのリュエルは見たのだ。

 膨大な魔力が大気を歪ませ不気味な音が聞こえるほどのナガマサの魔力を。

 あの日、カレルの治療を行った日、ナガマサは医療針すら使わなかった。

 ナガマサが操る魔力はカレルの複数の輝点から同時に体内に侵入し瞬く間にカレルを眠らせながら治療をしつづけていた。

 ナガマサは莫大な魔力を持ちながら、それを繊細に複雑に数十もの輝点で同時に操作していた。その人並み外れた技術を一人で行っていた。

 カレルの体からガスパールが駆逐した日、ナガマサ以外の人間は何もしなかった。ただただ、圧倒的な能力差を見せ付けられただけだ。

 

 魔力の強さと繊細さは二律背反な関係にあり、それは魔力総量の大きさに比例する。魔力を多く持つ人間は強さを持つが繊細な技術は不得手なのだ。だから、繊細な技術が必須となる魔法医は魔力総量が少ない人間が多い。魔力の先天的素質より後天的努力の世界。

 努力して学問を積み技術を学ぶ世界なのだ。だからこそ、リュエルはこの世界を選び懸命に技術を磨いてきた。幼少の頃からの友に恥じない為にも。

 なのに、

 なのに、

 なのにだ。

 ナガマサが見せたチートな能力は彼女に衝撃を与えた。

 彼女の努力など何の意味もない。

 ナガマサの技量は彼女のプライドは打ち砕いたのだ。

 あまりに圧倒的な才能は彼女の心を暗く燃やした。

 リュエルはどうしても、許せない。

 許せなかった。 

 医療召喚師として世代を代表するほどの存在の彼女だからこそ許せない。

 リュエルの生涯を賭けた医学の世界。そこに異界から来た余所者がやってきて、彼女の積み重ねた努力を土足で踏みにじった。


 だから、彼女はナガマサを売った。

 彼女にナガマサに対する悪意は無い。

 ただ、自分の心を守る為の行為だった。


 

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