表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第3章 探索
72/110

71. お使いクエスト1/4


 ネルトウスの王城の外壁南西端にある大きな外郭塔の辺り。その壁の外側では、その塔が間近にある為、王城の威容は全く見えない。

 少し、低地部でもあり、庶民的な家屋が立ち並ぶ下町でもある。

 ちなみにフェーべの西側を南から北に大河ガイア川が流れている。その辺りは低地だという事もあり、沼と湿地帯が多い。その為、ネルトウスの西側の壁の外には民家はほぼない。王城の


 その、町にナガマサ一行は移動していた。

 なんとなくイザベラの作戦に不安を覚えたナガマサが、少しでもクリスのクエストを進める事にしたからだ。

 現在ネルトウスに住んでいるクリスの元仲間の遺族はクリスの娘を入れて4家族。その遺族のうち一人だけわざわざ壁の外に住んでいるのだ。



☆ 

「その木で杖を作るのか? いいけど、ウチは杖は作ってないよ」


「ああ、実際に足が悪くて杖が欲しいわけじゃない。その木となんか相性が良いみたいなんだ。感覚が伸びるっていうか、広がるっていうかさ」


 ナガマサが、細面というか顔の長い男と話している。30歳ほどで顔の造りも細くこじんまりとした男だ。ただ、彼の細いタレ目がこの男の印象をとても柔らかいものにしてた。


「ははぁ。魔法使いの感覚は分からないけど、要するにマジックアイテムとしての杖が欲しいわけだ?」


「そうなるのかな? 感覚が強くなるのは良いんだけど、広がりすぎて困るんだよ。それを何とかして欲しいかな」


「ハハッ。俺は、大工だ。マジックアイテムの職人じゃないぞ」


「それは聞いたけどな。腕の良い職人みたいだからさ」

 ナガマサと男が話しているのは、男の工房兼自宅であり、その軒先だ。さほど広くない敷地には資材が整理して山積みされ、玄関先には何故か、多様なアイテムが置いている。工具に農具、家具に武具まである。


「ただの趣味だよ。オヤジ譲りで手先が器用なもんでな」


 目を細めて笑うこの男の名はルイ・オジス。彼の父親は、ジョセフ・オジス。

 クリスの友人であり共に死んだパーティメンバーの一人だ。かなり多彩な人物で学識と教養があり、情報収集とその分析を得意とし、さらに交渉術に優れた男で息子同様手先もかなり器用な人物だった。

 個性の強いパーティのまとめ役であり、ネルトウスの社会にしたたかに潜り込む才腕があった。クリスの仲間の遺族が壁の中で住んでいるのは、彼の力が大きい。死亡した仲間の中では唯一クリスより歳上の男であり、クリスは、ナガマサの目の前にいる成人男性のルイの幼い頃を見知っている。

 ルイは父親の遺品を届けに来たナガマサに感謝して配達代を払うと言って聞かなかった。だが、ナガマサとしては高額の報酬を受け取る訳にはいかない。

 そこで、話し合った末、ルイに仕事をしてもらう事になったのだ。

 ルイはネルトウスの市民権を持ち壁の内側に住める身分だ。だが、あえて、彼は壁の外に住んでいる。壁の内側よりも、外側の方が仕事が多く、余計なしがらみが無いので動き易いからだ。一言で言うと、外のほうがチャンスが多い。

 だから、才覚に優れた彼は外の町を選択した。


「でもまあ、面白そうだ。是非、やらせてもらうよ。マジックアイテムについては素人だけどよ、魔力に指向性を持たせるアイテムでいいんだよな?」


「そうだな。そんな感じでいいよ」

 ナガマサの方が、アイテムに対するイメージが固まっていない。杖が欲しいと口にしたのも、ゲームなんかの魔法使いのアイテムが杖だからに過ぎない。


「じゃ、その木を載せている牛車に行こう。シイバの木ってのを見たい。ナガマサさんに誂えた杖を作るなら、やっぱ現物を見ないとな」

 ルイは気軽に腰を上げる。

「3日後までに仕上げとくぜ。俺の素人仕事が報酬になるんだからな。魔力の指向性? って事は生木のほうがいいかもな、枝葉も残すか?」


「えっと、任せるよ。魔力のコントロールをし易くしてくれたら、それでいいよ」

 ぶっちゃけナガマサは、質問されてもわからないのだ。


 ルイから見ると、杖の製作は配達の報酬とのトレードなのだ。職人として、ふざけた仕事はできない。

 彼は道具袋を背負って、弟子の小僧に留守番を言い付ける。ナガマサが借りた商人宿はそのままになっている。一見のナガマサは、前払いじゃないと宿を借りる事ができなかったからだ。


「話は変わるんだが、あのローブ着た背の高い人は誰だ? なんか見た事があるような気がするんだよな」

 ルイもまた幼少の頃にクリスの姿を見ている。父の遺品を届けてもらって、その周辺の記憶が蘇っているのだろう。

 だが、ナガマサはクリスの事を問われても、彼との約束で本当の事を答える事ができない。


「護衛かな。腕は良いけど無口な人だからあまり素性を話さない」

 だから詳しくは知らないし話したくないのだ、というナガマサの思いをルイは感じ取ってくれた。

 ともあれ、ナガマサはクリスのお使いクエストの1/4を終わらせた。

 ゲームでもそうだが、意外と簡単そうなクエストほど手間がかかったりする。ナガマサがやり出した試練はまだ続く。



 ナガマサ達が切り落としたばかりの枝は、水分を含んでいるので直に加工するのは難しい。

 ただナガマサが求めている物は実用品としての杖ではなく、魔力を補助するマジックアイテムなのだ。

 ルイはナガマサがシイバの枝を持ったときの魔力の流れを何度か確認して、枝を少し持って帰った。木材としてみると、この枝は乾燥させても良質の素材とはならないというのがルイの感想だった。なので、ナガマサの依頼には彼の工夫が必要になるようだ。


 ルイが帰った後、ナガマサはモロクを冥界に収納して冒険者ギルドに向かう。さすがに3日も放置するのはモロクに悪いし、不審がられるからだ。


「どうしたんすか? 暗い顔してるっすよ」


「わかるか? なんか気が進まないんだよな」

 

「そりゃもう。オイラも同感っすもん」


「いや、さっきの変な感じがな。あのギルドを離れたら無くなったけど、さっきの嫌な感覚を思い出したんだよ」

 それは、勘違いでなければナガマサが探知できない魔法の使い手がいる事を意味している。周辺探知や生命探知などはよく野外で活動する人が使う魔法だ。その中には冒険者もいる。

 別にナガマサの特許でも無いので、それは初めから分かっている。

 ただ、ナガマサに取って自身を感知してくる者を彼自身が感知できないというのは、この世界に来て以来初めての経験だ。彼が最も愛用している魔法技術なのだが、この情況はナガマサ以上の使い手がいる事を示している。

 それは、考えるまでもなく当たり前の話だ。まだ魔法という技術を学び始めて一年にもならないナガマサより上手な術者など幾らでもいる。

 それくらいナガマサだって判っていた。だが、現実にこの世界に来て初めて脅威を受ければ誰でも恐怖心を生まれる。そして、その感覚はナガマサの顔を暗くしていたのである。 



 夕方、ナガマサ達がギルドに行くと、そこは別の場所の様に大勢の人でごった返していた。昼間、ガラガラだった事務棟も食堂も人で溢れており、広すぎると思われた敷地にも人々が各々広がり寛いでいた。


 昼間と違いすぎて戸惑うナガマサ達を、先刻のおじさんの方が発見した。

「おう、来たな。医者ってのはお前か、坊主?」


「ああ、世話になるよ」

 おじさんに挨拶を返しながらも、気もそぞろなナガマサ。彼は昼間の違和感がぬぐえず周囲に探知魔法を使っているのだ。


「おい!無作法だぞ、小僧!」


「――!?」

 無作法って俺か? なんだ? 何の事だ?

 ナガマサは怒られている意味が分からない。


「おじさま、すいません。普段は街中で無遠慮に魔法は使いませんわ。ナガマサ様は少し、神経質になってますの」

 イザベラがナガマサに代わって深く頭を下げたので、おじさんの怒りはすぐ収まった。

 ナガマサは今も何故怒られたのか分からない。が、イザベラの言葉で探知魔法を周囲に広げるのを止めた。


 所変わればルールも変わる。

 ベルム・ホムでは魔法に疎いゴブリン達はナガマサの周辺探知の魔法を受けても気が付かない。もしくは受けても気にしない。

 だから、ベルム・ホムでは何の問題もなかった。

 だが、これをあからさま人間に行えばどうなるか?

 人間も魔法に気が付かない人は多いのだが、この魔法を日常的に使っている冒険者にやれば、確実にイラつかせる事になる。普通は肉眼で確認できない何かを探知する魔法だからだ。

 やるなら気付かれないように細心の注意と技術が必要なのだ。


 そして、ナガマサが街中で派手にこの魔法を使ったのは今日が初めてだ。

 常に自分の周囲に自動的に使ってはいるが、イエソドでは一度も脅威を感じなかったので、街中で周辺探知など使ってなかったのだ。

 ナガマサにそんなルール分かるわけがない。それは、法律ではなくマナーの類なので尚更だ。


「はあ? 昼間に誰かに監視された感じがした? そりゃ、見慣れない人間が居れば見るわい。しかも、こんな美人を連れてりゃ、そりゃ見られるわい」

 しかも、歩きなれてない余所者だ。おじさんから見れば、色んな奴に見られるのが当たり前なのだ。

「それにな、ここが何処だと思ってるんだ? ここで刃傷沙汰なんて絶対許さねぇよ。むしろ、外より安全だ。護衛の仕事だって請けてるぜ?」


「別にビビってるわけじゃない」

 ナガマサが周辺探知を行っていたは違和感からだ。

 そこに自分の怯懦を認めない若いナガマサである。


「ふん。ならいい。少し、待ってろ。ボスを呼んできてやる」


「私なら後ろだ、ラルバル」

 いつの間にか人垣できており、ナガマサと話していたラルバルおじさんの後ろから声が聞こえてきた。

「お前の声は大きすぎる。それこそ視線を集める」


 人垣を割り異相の人物が金髪の少年を連れて出てきた。

 その人物は女性らしい体型と柔らかな印象の衣装を身につけていたので辛うじてナガマサは女性だと判断できた。

 なぜなら、顔面での判別が極めて難しいからだ。

 その人の顔は髭面どころではなく体毛まみれなのだ。

 つまり、田中商会のハマダと同様の亜人だ。だが、彼のような愛嬌は全く無い。

 彼女の不自然に大きな眼はナガマサ達を見据えている。

 

   





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ