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魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第3章 探索
68/110

67. 新手


 シモンが巨大な行人草のテントに近寄ると、長身の剣士に無言で内部に招き入れられた。フタゴカズラの束を両手で持ち上げて入り口を作ってくれる。

 内部に入ると細長く、奥行きのある空間が広がっていた。

 入り口付近に、大きな荷車。その奥、手前の木に繋がれた大きな牛。さらに奥、中央のシイバの巨木の根元に焚き火がある。

 その焚き火の周囲に2名、シイバの大樹にもたれ掛かっている男が、1名。先ほどの剣士を入れてわずか4名。

 こんな巨大なテントは要らないだろう? というのがシモンの最初の感想だったが、それはプリストとノエミも同様だったようだ。


「デカっ」

「ほんと、牛まで中に入れているね」


「静かに、喋るな」

 彼らも不安なので小声が出てしまうのだ。

 その気持ちはわかる。シモンだって気持ち悪いし、何故か怖いのだ。

 間違いなく石だらけの荒地だったのに、中は快適な空間となっている。外へこのテントの明かりが漏れない理由も分かる。風雨除けの行人草の壁が分厚いほど密生しているのである。


「どうぞ、奥に」

 クリスに促されて奥へ進む。


「先ほどはお力になれず申し訳ありませんでした」

 シモンは接近して、ようやくこのテントの主がナガマサである事がわかった。

 先ほどのナガマサと今のナガマサ、かなり印象が変わっているのだ。従者を含めて服装も変わっているが、なにより雰囲気が別人になっているからだ。

 だが、不審者ではなく身元のはっきりした人物であった事はシモンを大いに安心させた。


「ん、まあ座ってくれ。茶でも飲むか?」


 シモンが見ると、何故か既に人数分の敷物を用意されている。

 当然のようにシモンの席は焚き火に側の暖かい席を示された。


「か、監督官!!」

「所長!所長!」


「静かに! 後にしろ」


「いや、だってアレ、アレ!」

 プリストは外聞もなく慌てまくり、ノエミは護衛なのに迷わずシモンの影に隠れている。


「あ、やっぱ、オイラが居たらマズイっすよね」

 そう言った何かが、素早く荷車の陰に移動する。


「――!」


「どうした? 俺の従者がどうかしたか?」


「いえ、申し訳ありません。そこに居た人がまるで、ゴブリンのように、、、いや、ご無礼を」


「ああ、ゴブリンだけど何か? 別に問題ないはずだが」


「ええっ」

「ご、ゴブリンって」

 

「待て! 剣を抜くな!」


「しかし、凶悪なゴブリンです。襲ってきたら、、、」

 外見は凛々しい兵士のプリストだが、中身はチキンハートなのである。さっき自分の眼で大人しく座っていたヤンスを見ているが、怯える心は過敏に反応する。彼は腰の剣に手を掛けている。


「落ち着け! ツェルブルクではゴブリンを保護している。兵士や鉱夫として使役しているんだ」

 それは長壁王ベルトルド以来の方針だが、他国の領民にとってはどうでも良い事なので、知らない者も多い。シモンは役目柄他国の事情に通じているので知っているが、それでも自分の眼でヤンスを見て驚いた。

 だから、小心なプリストが怯えるのも、事情を知らないのも理解できる。それでも抜刀はマズイ。問題になる。というか、招かれた他人のテントでいきなり抜刀したら、喧嘩を売った事になる。

 ナガマサが戦闘行為とみなせば誅殺されても文句は言えないのだ。


「気にするな、俺は怒っていない。よく見ろプリスト、そのゴブリンが凶悪に見えるか?」


「はい! すいませんでした」

 プリストは頭を下げ謝罪をした上、何故か最上級の敬礼をナガマサに行った。


「本当だ、良く見ると怖くはないわね」

 ノエミの方は安心したのか、シモンの背中から出て大胆にヤンスを観察しようとし始めている。


 何か釈然としないものをシモンは感じる。別にプリストにナガマサのように敬意を持って欲しいわけではない。

 シモンは先ほど東門で挨拶しているが、部下たちは初めてでナガマサに名前など教えていない。それにノエミはこれほどテンションが高い女性だったか?


「それでシモン、ゴブリンは入国禁止じゃないんだよな?」

 

「は、はい、そうです。ゴブリンの入国・輸入について特に法律はありません」 

 かってはネルトウスでもゴブリンを使役する事があったのである。ただ、法律が存在しないのは理由は、現在ではゴブリンがネルトウスには、ほぼいないからだ。シモンもプリストもノエミもゴブリンを見たのは今日が初めてである。

 街中にゴブリンが普通に歩けるのはイエソドくらいなのだ。ツェルブルクのほかの町でも、ほぼ街中にゴブリンなどいない。

 ただ、ナガマサの今までの過ごしていた狭い生活域には、常にゴブリンがいたので気にならないのだ。ゴブリンに対しては、シモン達の反応が普通なのである。

 異世界に慣れたようでも、ナガマサの感覚はまだまだ、この異世界に適応していない。

 例えるなら、日本にはヒグマはいるが、北海道にしか生息していないし、北海道在住の人でもヒグマを見るのは熊牧場か動物園がほとんどだ。

 ナガマサは熊牧場に転移してきて、その環境しか知らない異界人のようなものなのだ。

 

「夜分に突然参りまして、重ね重ね失礼しました。実は少しだけお尋ねしたい事がございます」

 

「魔力の件か? 」


「はい、ご推察の通りです」

 何故、用件がわかった? 少し訝るシモンだが、話は早い。

「ただの確認でございます。決して咎めるわけではありません」


「ここは城内でもないし、ましてやネルトウス領かも微妙、だよな?」


「はい」

 その通りだ。シモンが低姿勢なのも、その点も考慮している。

 まして、ナガマサは身分の高い外国人。 にしては、少し妙だがシモンが権柄づくで接するのは、間違っている。それに、そんなやり方はシモンの流儀では無い。


「もし、お利口にしたら頭を撫でてくれるのか?」


「ご冗談を。意味が分かりかねます」

 もちろん、ナガマサが協力的でも彼に便宜を図るような言質は与えるわけにはいかない。

 但し、シモンの権限でナガマサが希望していた彼らを城内に入れる事、は可能ではある。

 いや?何故か、シモンはナガマサ様に喜んで頂きたい。

 そんな気持ちになってきた。ドンドンその気持ちが強くなってくる。

 シモンなら、彼を城内に招く事が可能なのだ。彼に野宿など恐れ多いのでは?

 用件は既に聞いている。ナガマサ様の帰属もはっきりしている。

 調査の件で重要事項は後1つ。

 強大な魔力の危険度だ。まあ、医師である事は知っているが、これほどの魔力だと軍事力への転用も容易なのだが。 


「危険度なあ。魔力が強い分危険だとは思うけど、俺の専門は医学だよ。ほら、そこにいるイザベラが俺の患者だ。って、患者って言い方おかしいか?」


「私でしたら、作品でいかかです?」


「といいますと、美容術の方ですか? あれ? あの、私危険度などと失礼な事を申しましたか?」


「ああ、言ってないよ。気にしないで。そうだね、美容術でもあるかな」


「ですわね。ナガマサ様以外の男性にお見せする事はできませんけど、今の私は芸術作品ですわ」

 イザベラは美貌への絶対の自信を持っている。

 ナガマサの手により再生したイザベラは、ありとあらゆる点で望みを叶えてもらっている。ナガマサはラルンダにより、比べ物にならない注文を受けている事もあり、イザベラの本当の私への拘りを、そんな物かと全て実現させた。

 結果、今、再生されたイザベラは正に生まれ変わったのだ。

 それはイザベラ視点の美の女神。

 生前のがり勉で、男っ気も美容も興味が薄かったイザベラではない。そりゃ、体重だって気にするのだ。

 

 美容は医学の一分野なのだが、美に対して強い拘りを持つ人々は多く、美容の魔法技術はこの異世界では独立した専門分野となっている。

 それを職業としている美容術者はこの異世界では高い尊敬と年収を得られる人気の職業なのだ


「なるほど、専門は美容ですか」

 今のイザベラは先ほどと違って、薄いベージュのチュニックと白地に水色の縦のストライプが入ったスカートいう素朴な格好だが、美しさは損なわれていない。

 イザベラの自信も納得のシモンだが、その素朴な服も実はそれなりに高価である事も、シモンの眼力は見抜いていた。

 それを差し引いても、これだけの美貌を作れるなら、ナガマサの評価が妙手なのも肯ける。

 マキナ公もまだ若い女性だったはず、優秀な美容術者には審査が甘くなっても不思議ではない。


「あれ? イザベラ、お前その服は安物って言ってなかったか?」


「言ってませんわ」


「そうだったか?」


「青いワンピースを買ったら、他の服を安くしてくれたのです。ですから、安物とは言っておりませんわ」


「ああ、そか。話が違うと思っただけだ。怒るな。これからも好きな服を買っていいからな」


「怒ってはおりませんけど、私はナガマサ様の商品見本でもありますのよ。安い服は着れないから、無理してますの」


「ああ、ごめんて。クリスが怒らない範囲で買っていいから、もう怒るな」

 さすがにナガマサも金庫番はクリスに任せている。クリスはクリスで必要な物でも買おうとぜず、できるだけ倹約しようとするのが、困りものなのだが。


 シモンは二人の会話を聞きながら、ナガマサに危険性は無いと判断していた。

 同時に、二つの事を思った。

 それなら、ナガマサ様に尽力したい という思い。

 もう一つは、交易所の所長としての目。あの青いワンピースの鮮やかな青と見事な仕立て、間違いなくエルライン製のケテルブルーだ。タイタニア銀貨500枚はする。そりゃ、他の服くらいサービスでつけるだろう という計算。


「ええ、銀貨500? ケテルブルーってブランドなのか?」

 ナガマサが小声でシモンに囁く。


「はい、ケテルの町でしか作れない商品です」

 エルラインは文化レベルの高い国で、優れた商品も多い とナガマサに説明しながら、また違和感がつのうシモンである。

 ナガマサ様に理解してもらおうと、知っている情報をペラペラ喋るシモン。彼はそんな人間ではない。彼はネルトウス王家に忠誠を誓った身なのだ。

 なんだろう、何かおかしい。それは分かるのに、何がおかしいのか頭が回らない。頭脳明晰のシモンには珍しい事である。


「そうか、参考になったよ。それで、どうだ? 俺達をリュナスに入れてくれるのか?」


「はい、それは」

 とシモンが答えかけた時


「ぎゃあ!」

 

「ノエミか? 今度はどうした?」


 返事をするより速く、ノエミはシモンの左腕に縋りつく。

「あれ! アレ!」

 ノエミは震えながら、指差す。


「何だ?」

 シモンが見ると、彼女が示す先には牛とゴブリンしかいない。

「ゴブリンに噛まれたのか?」


「オイラ、なにもしてないっすよ」

「牛です、牛が変です」


「何がだ?」

 シモンはノエミの言いたい事が良く分からない。

 大きな雄牛は、人間の狂態を見ても動じず口をモゴモゴとさせているだけだ。


「ああ、ゾンビ牛なんだよ。問題あるんだったかな?」


「え!? ええ、屍鬼の類は入城禁止になっております」


 魔力濃度の薄いネルトウスでは、城内での市民の魔法使用に制限があり、当然の如くゾンビ関係はご法度だ。それはナガマサも知っていたので、クリスは目深いローブを被り、モロクは冥界から出さなかったのだ。

 実際のところ、ネルトウスでも死霊術を使える魔術師は必ずいる。首都であるフェーべの地下倉庫の奥には秘められたゾンビ達がいるかもしれない。ゾンビの働き場所はやはり戦場が多いのだ。ツェルブルクのように鉱山というのは稀なケースなのだ。

 為政者たるもの戦の備えは必須のものだ。嫌な話だが、敵への備えとして必ず死霊術師を雇いゾンビ兵も持っている。

 だが、豊かで魔力の弱い国土であるネルトウスでは、死霊術は軍隊など極一部にのみ許されているだけだ。

 市井の人が平和に暮らすには、死霊術は問題が多すぎる。

 多くの国でそれは、普通の人々の目には決して触れない禁忌なのだ。

 ネルトウスでは、死霊術の研究も禁止である。少なくとも表向きは。

 もしも、ゾンビ屋でも経営したければ非合法で営業するしかない。

 ただ、城内に持ち込まない限り部分的に認められいる所がある。

 交易に便利なゾンビ馬やゾンビ牛、クルツ城で製造していたゾンビ騎竜などだ。確かに問題は多いが、水も餌も休息も要せず、必要とあれば昼夜を問わず動き続けられるゾンビ馬などを使っている商人は多い。

 このリュナスでも西門には彼らへ配慮した設備があるのだ。 

  

「お力になれず申し訳ありません」 

 シモンは、ナガマサに深々と頭を下げた。彼の心中では、ナガマサの為に働きたいという思いが渦巻いている。

 が、彼はネルトウスに忠誠を誓った騎士でもある。

 その法を破る事など、シモンにはできない。


「そっか、アルセイスは魔法契約で魂を縛っているものな」


「はい? 今なんと」


「うん? いや、宮仕えは大変だよな。長くつき合わせて悪かったよ。娘さんもう寝ちゃってるかな?」


 シモンはナガマサの言葉にただ頭を下げ、帰途についた。

 ようやく彼の任務は終わったのだ。



 だが、荒地のテントから離れるにつれて、彼の脳裏には不思議な体験が強く心に残る。

 長く付き合わせた? こちらが一方的に訪問したはずだ、彼は何を言っていたのだろう。

 何故私は、ナガマサとやらの為に尽力したがった?

 あの強い気持ちは何だった? 

 それに、何故、彼はプリストの名を知っていた?

 私に娘がいる事を何故知っているのだ?

 何より、彼は私をアルセイスと呼んだ。

 何故だ。何故、私の真名を彼を知る事ができた?


 あの男は不可解すぎる。シモンはナガマサを城内に入れないで済んで心底ホッとしていた。


 そして、翌朝、最後に彼は思い出した。

 彼にしては本当に珍しいミスを犯していた事に。

 ナガマサが異界人であるか、確かめるのを怠っていたのだ。

 優秀な彼にとって有り得ないミスである。確認するように命じられていた最重要事項だったのだ。




「ナガマサ様、さっきどうやったんすか? さっきの人たちナガマサ様の操られてたのに気付いてなかったすよ。しかも、魔法結んでなかったすよね?」


「操るってほどじゃないぞ。まあ、魔法結んで無いけどな。なんかさ、この樹と相性が凄く良いみたいなんだよな。俺が作ったからか?」

 ナガマサはもたれ掛かっているシイバの巨木を指した。


「それで、あの人たち変なテンションだったんすか?」


「みたいだな。ただ、相性が良すぎるのか、樹が大きすぎるのか範囲が広いんだ。俺の感覚も広がるみたいでな。あと、俺と魔法ってか、念話になるのかな?その能力が高い人たちと繋がるな。広がりすぎで使い勝手が悪い」


「あら、何か変だと思いましたわ。どなたかと念話してらしたの?」


「いや、念話てほどじゃない。なんとなく心が繋がる感じだ。そこにいるのが分かる程度かな」


「あら、私が死霊だった時に似てますわね。ナガマサ様の存在がずっと心にかかってましたの。私は亡者と生者両方体験してますから分かりますわ」


「かなぁ? ただ、このシイバの樹があってこそなんだよな。便利だけど持ち運べない。それに、デカ過ぎて扱いにくい」


「それでしたら、明日私が枝を落しましょう。その枝で杖をお作りになっては?」


「ああ、クリスさんそれ名案っすよ。また、ベルム・ホムでチューカさんに相談して作ってもらったら良いっすよね」


「・・・・・・」


「あれ? ダメっすか? 人間の職人に作ってもらうっすか?」


「いやいや、チューカなら良い杖を作ってくれると思う。じゃなくてな」

 ナガマサもよく分かっていない、偶然の新手。さっき彼が使っていた技術を思っていたのだ。

 木属性にこんな魔法は存在しないと思うが、ナガマサは実は医学と死霊術以外の魔法は真面目に勉強していない。

 もう少し、ツェルブルクに残るべきだったかもしれないが、今のナガマサは知っている。あの国の魔法は鉱業に強く、系統でいえば物質変換のレベルは高いが精神系は弱い。医学魔法でさえ外人教授に頼るほど偏っている。

 自分が使ったのが、何なのかもよく分かって無いのだ。

 なぜか、向かい合っているシモンの思考が簡単に読み取れた。

 ちょうどタイミングが良かったので、シモンには色々と実験台になってもらっていたのだ。


 これは木属性の魔法ではない。

 そう断定するのは、これに似た物をナガマサは既に知っているからだ。

 それと比べたら、薄く浅いが。


「それしても、魔法契約って便利だよな。情報の漏洩も阻止できる」


「そうなんすか?」


「ああ、真名まで読めても、魂の鎖がビクともしない」

 魔法契約はこの社会の基盤である。

 幾らナガマサの魔力が強かろうと、その鎖を断ち切る事は簡単ではない。


 そして、それはナガマサ自身の姿でもある。

 彼もがっちりと魔法契約という鎖で結ばれた人間なのだ。



「所長、あのナガマサさん今朝早く出発したそうですよ」

 翌日、会所で会ったノエミがシモンに話しかけてきた。


「そうか」

 実はとっくに報告を受けて、その事実は知っていた。それを聞いて胸を撫で下ろしていたシモンである。

 ナガマサがどうであれ、もう彼と関わる可能性は無いのだ。


「ちょっと、残念ですよね」


「何が? 昨日は怖がっていたろう?」


「えへへ、昨日はすいません」


「いや、ノエミ君のおかげで助かったよ」

 実際、遅くまでつき合わせてしまったのだ。彼女は商会の用人なのだ、シモンに付き合う義理は無い。


「でも、昨日楽しくなかったですか? ゾンビやゴブリンは最初は驚いたけど、どっちも慣れたら可愛いですよね?」


「・・・・・・」

 か、可愛いか? 牛はともかく、ゴブリンが?

 ただ、シモンは思い出していた。彼女が妙にテンションが高かったのを。

「そうだね。何か高揚したね」

 そして、それは彼もである。どう見ても普段の冷静な彼ではなかった。


 それは、普段どおりの日常の中に戻ると良く分かる。

 シモンがナガマサと関わる事は、もう無いだろう。

 それを惜しく思ってる自分がいる事にシモンは気が付いていた。

 ナガマサが帰りに船を使ったとしても、港湾地区への出入りだけなら、シモンは関与しないのだ。


 のはずだったが、その日の夕方、彼を一人の男が訪ねてきた。


「あなたがシモンさんですね? 東門の責任者だと伺っています」


 そう尋ねる男は黒髪である。

 中肉中背で、瞳は茶色だが、その顔は東洋系。

 そして、彼の衣服の意匠は蛇のような細長いドラゴン。


「怪しい者ではありませんよ。シモンさんならご存知でしょう。ツェルブルクのアームズです」

 そう言って、男は旅行許可証と身分証を差し出した。

 それは、シモンがナガマサの出自と誤解したツェルブルクの一級市民の一族。

 王家、特に今は亡き王妃ラルンダに忠誠を誓った王家の黒い腕。

 通称『アームズ』の人間だ。

 セフィロスの王妃の公然の秘密の一つ。彼女の闇の手である。


「ナガマサという男を捜しているのですが、何かご存知ありませんか?」

 




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