表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第3章 探索
60/110

59. 死者の都 2


 マリアという若い女性は、自分の両手を上に掲げ頭上5メートルほどの空間に魔法を結んでいる。

 普通、この世界の魔法使いは自分の両手を前方に突き出し、その前方に魔法を練る。そして、自分と魔法の直線状に標的を置くのが一般的である。それが基本であり魔法で発生したエネルギーの狙いもつけやすい。

 もちろんマリアも同様の教育を受けたのだが、彼女は独特の流儀を身に着けてしまっていた。優秀な異界人の中でも白眉の彼女は特に期待をかけられ、重点的に訓練を組まれいた。それで、この結果なのだ。

 つまり、これはマリアの教育の失敗を意味している。素養にも技術にも問題点は無い。問題があるとすれば精神的な物だ。トルディス家に雇われた教官たちはそう結論付けた。

 日本にいた時は、小さくて可愛い物が好きな女の子であったマリアである。ゴキブリを見れば逃げ出すような女性に戦術兵器のような活躍を期待するのは、かなり酷な話なのだ。

 だが、彼女ほどの才能を放棄する事などできない。教官達にとってもマリアの才能を潰す事はただの失敗ではすまない。彼らだって命懸けなのだ。


 その為、マリアの為の教育プランが作成される事になった。


 それが先ほどのガイツの命令である。とにかく、この実戦でとにかくマリアに魔法を撃たせる事は今日の作戦の任務の一つになっている。

 無理に魔法を使わせても問題が生じる。魔法という技術にも不調やイップスが存在するのである。


 ちなみに、先ほどマリアが放った魔法は、この世界の普通の魔法使いが渾身の魔力を込めて放つものである。練り上げた魔力が炸裂して標的を吹っ飛ばした上に周囲を炎上させるものだ。

 マリアはその膨大な魔力を無数の炸裂弾に変えて、無人の荒野に雨の如く降り注いでいた。



「隊長さん、こっちに向かってくる奴がいます」

 

「うん? 何処からだアラニス。 それと数は?」


「南ですかね。こっちの方角からです」

 男は進行方向を指差す。

「20キロくらい先にある何か、建物か何か、からです」

 このアラニスと呼ばれた男は念話と周辺探知の使い手である。ちなみに40男で戦闘は不得手。索敵と通信の仕事以外は期待されていない。

「数は10、16、、、19です。 速度にかなり差があります。先頭の奴はかなり全速力で走ってきています」


「南か。そいつらは集団なのか?」

 

「一塊だったので、集団だと思います」


「そうか。そろそろ梟を飛ばすか?」


「大丈夫です必要ありません。何の遮蔽物も無いので魂の位置が丸分かりです」


 アラニスはリプレイスという魔法も得意としている。任意の動物にあらかじめ特定の魔道具を添える事で、その動物の知覚を得られるのだ。彼の特性を生かす為に相性の良い魔法を訓練してきている。


「これからゾンビ共が此処に押し寄せてくる。予定通りの陣形を組め!向こうは容赦無く襲ってくるぞ。こっちも遠慮するなよ!ゾンビから見たらお前らの魂は喰いつきたくなるらしいからな。各自目標を見たら魔法で攻撃しろ!」

 

「はい!!」

 ガイツの言葉に新兵たちはマリアとアラニスを中心に二人一組で円陣を組む。

 攻撃力が期待できない二人を中央において互いの背中を守りあう体勢だ。

 ただ正直な話しをすると、今の時点ではこのヒヨコ達の脅威なる敵は予想されていない。 

 一応、警戒させているが後方からこちらに向かっている本隊が到着するまでは先遣隊はあまり前進しない。それまでは異界人達の訓練のようなものなのだ。


 また先ほどのマリアの魔法の余韻で、南方の荒野が燃えている。そちらからゾンビが近づいてきているので夜間でも見落とす可能性は少ない。

 

「昨日も言ったが、此処のゾンビは素早いぞ! 魔法を撃ってくる奴も居るからな、死にたくなければ迷わず撃て!」

 実は魔法を撃ってくるゾンビは滅多にいない。それに幾ら動きが速くても真っ直ぐ向かってくるゾンビは、落ち着いて対処できれば魔法の的にすぎないのだ。

 怖いのは不意打ちくらいだが、夜間とはいえ灯りがありアラニスという探知能力もある。

 ガイツは自分の武芸にも自負を持っている。ヒヨコ達を守り抜く自信があるのだ。つまり、この隊の隊長には実は全く不安は無い。ただ、心配していなくても、部下を緊張させるのも上司の仕事である。


「っと、ジークとランス。お前らは分かれて円陣の左右を守れ」


「え?」

「何故ですか?」


「もちろん、後衛の護衛だ。この隊は俺達以外は魔導師ばかりだからな」


「どうして? 俺達だって魔法得意だぞ!」

「ジークの言う通りだな」

 不満顔の二人だが、彼らにも言い分がある。彼らも優秀な魔導師なのだ。 


 ランスロットとジークフリード。二人の異界人もこの異世界に来て一年経っていない。突然この世界に来て、言葉を覚え、新しい生活習慣に慣れ、新しく貰った名前に馴染もうとし、魔法や武芸の特訓に明け暮れてきた。

 彼らにこの世界の武人としての口の聞き方を覚える暇はなかった。

 彼らの教育もガイツに期待されている役割だ。


「この隊で武器を持っているのは誰だ? そいつは何故武具の携帯を許されているんだ? あ?」


「「・・・・・・」」


「その武具で仲間を守れと若様から直接お言葉を貰わなかったか?」

 ジークの持つ槍、ランスの帯剣、共に彼ら為にロディから下賜された武器であり、彼らの特性に合わせた特注品だ。


「お前達はローディアス様から才有りと期待されているからじゃないのか?」


「わかったよ」

「・・・・・・」

 ジークとランスはガイツの指示通り仲間達守る為に左右に散った。


「さっきも言ったが此処の敵は手強いぞ! 気を引き締めていけ!!」

 ガイツは二人を言い聞かせると、もう一度部下達に気合を入れた。


 そして、ガイツはもう一つの命令を遂行した。

 ジークとランス、彼らを自由にすると他のヒヨコ達の経験の場を奪ってしまうのだ。それに彼ら二人の出番は今ではない。

 彼らはロディ率いる本隊の戦力として考えられているからだ。


 ロディ子飼いの異界人部隊の訓練プログラム。

 マリアのような想定外の伸び悩みもあったが、予想以上の成長を見せる者たちもいた。

 ジークとランスである。彼らは既にトルディス家の主力だと考えられていた。


 そして、この作戦でのトルディス家の役割は陽動である。

 早朝に、メリクリウスの主力の部隊が船団を連ねてアールセンに港から侵入する。それを容易にする為に、トルディス家は首都の北部で夜が明けるまで戦い続けるのだ。

 派手に戦い続ければ、蜜に群がる蟻の様にゾンビが集まってくる。そして、時間が経つほど、本当に手強い敵がやってくる。


 死者の都に篭る魔王軍の生き残り。

 彼らがやって来るのだ。


 





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ