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魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第2章 異世界アランソフ
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49. 黄泉の先の光


「んー、生きている人間?一応聞くけど、それって、事故とかで心臓が止まった人とかを助けたりするやつじゃないよね? 」


「いやいや、それは蘇生っすよ。人命救助とかの話っすよ」

 厳密に言えば、事故などで一度死亡状態になった人が蘇生して元気になる場合も蘇りと言えますが、それは除きます。


「そうだね。それはヤンス君の言う通り。お父さんが目指しているのは完全に死んだ人や肉体を失ったりして魂だけになった人の再生だよ」


「それは、ゾンビとか死霊じゃないのか? 自然に居るよな。それが生きている人間になるのか?」

 まさに、クリスとイザベラのケースである。死霊学ってそれの研究だと思っていたナガマサである。ソニアの言う通りなら、彼らを生きている人間に変化させられるという事になる。


「もちろん、そうだよ。自然発生するゾンビや死霊いるもんね。でもさ、彼らはどちらも肉体を失くしてる。でも、さっきの実験でお兄ちゃんもやったでしょ?」


「・・・・・・なんだっけ?」

 ナガマサはさっきまでやった実験を思い返すが、色々な実験を一度に行っている。その為、ソニアの指摘しているのが、どれを指しているか分からない。


「さっきの実験体は左上肢後ろの脇腹から心臓に槍で突かれた大穴が開いてたでしょ?最初にその穴を修復したよね。それが肉体の再生だよ」


 ソニアに言われてナガマサは思い出した。確かに、最初に破損した騎竜の肉体を修復した。肉体の再生も難しいが、魂に比べれば難易度は低い。さらに言えば、ナガマサが修行してきた医師は生きている人間を相手にする為、ゾンビ屋より遥かに繊細な技術を必要とする。

 ただ、肉体の再生という点では生きている患者への影響を考慮しないで済む分、死者を対象としたほうが大胆に根本的なアプローチが出来る。怪我や病気に対しての処置も容易だ。ただ、あくまで死体なので処置に意味が無いはずだとナガマサは考えていた。



「魂だけの存在になっても、新しく再生した他の肉体と魂をリンクさせる事も可能だよ。つまり、今の技術だと質の良い死体に魂を入れることになるんだ。自分の肉体より他人の肉体とリンクさせる方が何倍も難しいけどね。」


「――、でもさ、この実験を進めてもゾンビはゾンビだろ?最終的に完璧なゾンビっていうか、完全な生きてる死人にしかならないんじゃないか?」


「さすがナガマサのお兄ちゃんはよく分かってるよね!でも、その先どうするかはお父さんしか知らないの。お父さんの研究だとその死者と生者の壁を越えるまでもう少しみたいだよ」


「その壁を越えたら、死んだ人が生まれ変わるのか? というより新しい肉体でやり直せる事になるのか?」


「そだね。永遠の命の完成だよ」


 

 リッチなど死者・人外の者となって永遠に生きる手段はあるが、それが可能なのは強大な魔力を持つ特別な人間だけだ。そして、それでも死者である限り腐り落ちていく肉体を留める事はできない。

 せいぜい、自身の巨大な魔力を使って維持するだけだ。


 ナザリオの理論が実証され、その技術が確立したら、不老不死が確立する。

 理論上誰でも永遠に生きられる事になるのだ。


「すごいな、、、」

 ナガマサは素直に魔法を使える異世界に技術に感心していた。正直、自分の研究の為に娘を差し出したナザリオという男を胡散臭く思っていたが、彼の気持ちも少し分かった気がする。


「凄いでしょ。一度魂の抜いて保持するのに莫大な魔力がかかるんだけど、その間に肉体の修復だけじゃなくて大抵の病気の治療もできるんだって、難病の治療にも利用できるんだよ」

 ソニアは自慢気にナガマサに笑いかける。やはり、実家の高い技術は誇らしいのだろう。


 ナガマサはソニアに微笑みに納得した。死霊学なんて陰気臭いし罰当たりというか後ろ暗い物だと思っていた。そして、それはやたら亡者に好かれる異世界に来た自分自身も同様に思っていたのだ。

 だが、ナザリオぐらい技術を磨けば一周回って、難病の人たちに光を当てる神聖な学問となる事に、少し感動していた。


「でも、凄いっすよね。メッチャ儲かるっすね」


「うふふ、そうでしょ。一人金貨1000枚でもイケルと思わない?」


「イケルっすよ! だって、世界で此処だけっすよ! しかも、死んだらお金なんて意味無いっすしね」


 ん? お金? 

 ナガマサの耳に想像もしていなかった会話が聞こえてくる。

 死霊学でこの世界に貢献したって話じゃないのか?

 ヤンスとソニアの会話に付いていけないナガマサである。


「そんだけお金が儲かるなら、ナザリオさんがミリアさんを差し出してもおかしくないっすよね」


「それは見方が甘いよ。お父さんは結構コスイからね。『成功したら』って言ったんでしょ? それなら、幾らでも難癖つけられるから」


「あ~なるほど。成功か失敗か判定できるのはナザリオさんだけですもんね。細かい点を指摘して娘を渡さないって、ことっすね?」


「かもね。ま、お金とか、他の情報とかで誤魔化すのはありそうだよ」

 

 んん? 誤魔化す?

 ナザリオ先生??

 つい、さっき聖人のごとく評価の上がったナザリオ先生の株が再び暴落しつつあった。

 俺、ミリアにあんだけ嫌われたのは何だったんだろう?

 この世界に生きる人たちの逞しさに触れて空しく自分の失敗を振り返る。

 だが、ナガマサに過去を振り返る暇はない。


「どうしたの?お兄ちゃん」

 ソニアがナガマサの左手をぽんぽんと叩きながら話しかける。

「それでね、今度はお兄ちゃんの話を聞きたいな。 いいよね、お兄ちゃん?」

 可愛く微笑みながらソニアがナガマサに情報の開示を迫る。

 今度はソニアのターンなのだ。




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