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魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第2章 異世界アランソフ
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44. 特訓すべき魔法技術


「ふう」

 アナンケとの契約で想定以上の魔力を消費したナガマサ。

 その対応の為、彼は本気の魔力を纏わざるを得なかった。内心かなり焦ったので、無意識にヤンスに軽口を叩こうと視線を配る。だが、ヤンスはキッカの相手をするために少し離れた位置にいた。

 ナガマサはアナンケとの魔法契約に本気を出したので、いつも側にいるヤンスがいない事さえ頭から飛んでいたのだ。

 しかも、不器用なナガマサは一度本気の魔力を出すと少しの間それを引っ込める事ができない。

 初対面の人たちの前でちょっと恥ずかしいナガマサであった。


「それでは、今度はこのドラゴンを冥界に収容しますね」

 照れ隠しに一人で喋りながら、次の魔法を披露するナガマサ。

 指輪に前の持ち主が入力していた魔法、冥界法である。


「アナンケ、冥界へ行け!」

 ナガマサの短い詠唱で巨大なドラゴンは数瞬で姿を消す。

 この魔法自体はクリスやイザベラを実験台にして何度も実践している。その為、この魔法そのものは自信があるナガマサである。

 そして、この魔法は呼び出す場合には相応の魔力を消費するが収容する分にはほとんど魔力を消費しない。

 それは、巨大な体躯を持つアナンケも例外で無い事がわかった。

 今現在冥界に待機しているクリスが知ったら、自身の技術の性能把握を喜んだ事だろう。


「えっと、ナザリオ先生、俺の魔法はどうでしょうか?」

 自身の装備品ではあるが、指輪の魔法については知らない事だらけのナガマサである。また、クリスもイザベラも冥界法など全くの門外漢であり詳しい情報を持っていない。

 その為、一つ一つ魔法を実地で使用して、その性能を把握していたのである。

 ナザリオが豊富な知識を持つ学者であるなら、教わりたい事は山ほどあるのだ。


「・・・・・・」


「あれ、先生何でそんな所に座っているんですか?」


「うん?いや、何でもないよ。なかなか優秀だね」

 何でもクソも無い。ナザリオはナガマサの莫大な魔力を間近で見て腰を抜かしていたのだ。

 それはナザリオにとって衝撃そのものだった。

 本当に一人の人間の魔力で、ドラゴンゾンビが作成可能だと知ったのだ。

 信じられない能力であり、その可能性の高さと範囲の広さに目が眩む思いなのだ。魔力総量は人間が起こせる魔法という技術の限界を決定付けるものだからだ。


「いや、待てよ。この少年の魔力ならゾンビではなく生体のドラゴンですら使役可能なのでは?」

 おもわず、ボソボソと自分の世界に浸ってしまうナザリオ。

 夢中になると周りが見えなくなる彼の悪い癖である。



「ナガマサ様新しい発見があったっすね」


「だな。ここのゾンビは大丈夫なのかと思ってたけどな」


 ナガマサの本気の魔力の効果は人間だけではなく亡者たちにも強く影響したようだ。このアクィナス家のゾンビはナガマサが現われても近寄って来なかったのだが、ナガマサの纏う魔力が強くなると自然に集ってくるようになる。

 ナガマサの持つ特性の一つ、いや正確に言えば指輪を付けた結果として起きる現象だと言うべきだろう。

 とても迷惑な話だが、亡者達に慕われるようになる。結果、死者がナガマサにまとわり付くようになる。

 ここアクィナス家のゾンビはキチンと管理されている為、ナガマサに勝手にまとわり付くようなゾンビは居なかったのだが、魔力の出力が変わればその影響力にも変化が出るらしい。この事はクリス達と調べた事が無いので始めて判明した効果である。

 つまり、キッカを拘束していた衛兵ゾンビもナガマサに近寄ってきたので、自然にその周囲に居たヤンスもナガマサの側に戻ったのだ。


 そして、そのヤンスのもの言いたげな目線にナガマサは気が付いた。

「俺、やっちまったかな?」


「そっすね。皆さんかなり引いてるっす。それに、、、」


「うん」

 その先はナガマサにも分かる。

 それに『内密にすべき事案』である。

 ナガマサもその事を思い出していた。なら、もう次の行動は決まっている。

「残念だが、お暇しよう」


「それが良いっすよ」

 珍しく礼儀正しくナガマサの言葉に頭を下げるヤンス。まるで、忠実な召使のそれである。

 ヤンスはあえて口にはしないが、クルツ城の人々の様子が変わっているのだ。

 一見ナガマサが滑ったかの様にも見えるが、そんな訳がないのはナガマサもヤンスも分かっている。ナザリオやアーシアも固まってしまっている。

 ついさっきまでナガマサにタメ口であったキッカも怯えている。衛兵に未だに両手を拘束されているので、彼女は否応無しに間近にいる。近眼のナガマサにもさっきまでとの様子の違いは見て取れる。


 その時、工房の研究員達がやってきた。

 彼らも尋常では無い魔力に驚いて駆けつけて来たのだ。

 ガヤガヤと現われた研究者達の影響でようやくアーシア達の呪縛が解けた。

 アーシアは彼らに手を上げて応える。


 だが、やって来たトニーたちも緊張している。


「奥様大丈夫ですか?」

 などと雇用主を気遣っているが、すぐ目の前に莫大な魔力を纏っている男がいたらとても平静ではいられない。

 魔力を纏っている状態は魔法をすぐに使える状態。つまり、抜き身の剣を手に持っているようなものだ。それも信じられないほど巨大な。


 それでも彼らはやはり変わり者の集団である。


「あれドラゴンいないわね」

「なんか、あいつの魔力変じゃないか?」

「左様、私もそう思います。人のソレで無いような」

「然り、何故か上空に巻上げがっているような」

「うん、なんとなくだけど近くで見るとわかるよね」


 彼らの知的好奇心はむしろ活況を呈してしまっている。

 トニーたちはアーシアの周囲に集まり、ヒソヒソと小声で、しかし熱心に観察し議論まで始まってしまった。

 

「ごめんね、ビックリしたよ。ナガマサ凄いよね」

 正気に返ったミリアがナガマサに話しかける。

 さすがミリアは実家の従業員たちが変わり者である事は知っているのである。

 それに、いくらナガマサの魔力が凄くても別に襲い掛かってくるわけではない。特にミリアはナガマサの好意を存分に感じている為に恐怖心など無いのだ。


「こっちこそゴメン。突然でかなり驚かせたみたいだ。お父さん何かに没頭してるっぽいけど大丈夫?」

 もう、この城から帰るつもりだが、いきなりドラゴン出して帰るわけにもいかない。やはり、ナガマサは挨拶してできるだけ和やかに立ち去りたい。

 

「気にしないで。お父さんの癖だから。それにしても凄かったね。あんなの初めて見たよ!」


「いやぁ~それほどでも」

 ミリアに話しかけられると条件反射のようにデレデレしてしまうナガマサである。ゴブリンの美少女美女たちと違って、ミリアの存在はナガマサの心を強く揺さぶり本当に癒してくれていた。

 美少女に褒められる事なんて、滅多に無いので立ち去り難いがナガマサは大望の有る身である。未練があっても帰らなければならない。さっき感じたヤンスの目の色は今が潮時である事を語っていた。

  

 ナガマサはミリアを見る。そして、アーシア、自分の世界にいるナザリオ、研究員達を見渡してから念話でしっかりと意思を伝える。


 まだアナンケと名づける前のドラゴンと必死にコミュニケーションを取った昨日今日でナガマサの念話能力は少し向上していた。それに気が付かないで今目の前に立っているミリアに不躾な事をしてしまった。たまたまミリアが美少女であったので素直な賞賛が漏れただけだったが、悪意だったら最悪の結果になってしまう。

 そして、ナガマサが本気の魔力を纏い続けている状態だと念話の感度はさらに上がっている。今度はそれに気が付いているナガマサは慎重に言葉を選んでいる。

 今日は、新たな仲間アナンケが加わった日であり、彼の習得し向上すべき技術『念話』が新たに追加された日である。


「今日はありがとうございました。一つお願いがあるのですが、僕の事はどうか忘れてください。少し、問題になりますので」

 

 詳しい事情は一切説明しないナガマサのお願いだが、皆の同意とそれぞれの疑問や不満などがナガマサに伝わってくる。

 

 その中で

「畏まりました。決して他言いたしません」

 アーシアが頭を下げ同意を示す。

 このクルツ城ではアーシアの意思は絶対だ。それはナガマサというより、さっきから動揺している夫ナザリオと状況を飲み込めてない研究員達に向けての言葉だ。

 アーシアは突然降って沸いた災厄がようやく去ろうとしているのを感じている。


「それでは失礼します。本当にお世話になりました」


 我に返ったナザリオの困惑した目、アーシアの顔色の読めない微笑、ミリアの真っ直ぐナガマサを見る目、それぞれから意思が伝わってくるがナガマサは返答しない。それは念話によるもの、言葉にしていない気持ちだからだ。

 


「来い!アナンケ!」

 詠唱と呼ぶにはあまりに短い言葉をナガマサは発した。


 それに呼応して白い翼竜アナンケが再び姿を現した。

 ナガマサのイメージ通り、先ほどの兵舎の屋根の上に出現させた。


 やはり、召喚時には相応の魔力を要する。それはクリスやイザベラとの実験で判明していたことだ。そして、新たにドラゴンを召喚すると人間とは比較にならない魔力を消費する事も確認できた。

 ただ、現在ナガマサは本気の魔力を出しっぱなしなので何の問題も無い。

 さっきのナザリオの言い方で言うと、ナガマサの魔力総量から言うと余裕の消費量に過ぎないからだ。


 突然現われたアナンケを目撃した研究員達が腰を抜かすほど驚いているが、もはや誰も突っ込まない。


特にアーシアは、心の底からほっとしてた。先ほどナガマサが自身の事を口止めしていたが、彼が言わなくてもアーシアも同様の事を考えていた。アーシアはナガマサが去った後、全員に強く他言無用を命じるつもりだった。

 招かれざる来訪者とは面識を作りたくない。まして、それが王家の秘密に関係している者なら絶対に関わりたくないのだ。

 それが老舗のゾンビ屋を預かるアーシアの本音だ。




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