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魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第2章 異世界アランソフ
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43. アナンケとの契約


「お騒がせしてすいませんでした。助かりました」


「お気になさらないで下さい。お役に立てて幸いですわ」


 アーシアたちの存在に気が付いたヤンスの指摘でようやくクルツ城の代表と挨拶する事ができたナガマサ。

 最初にドエライ粗相をしてしまったナガマサだが、今はとても穏やかな雰囲気の中で会話できている。


 アーシアが想像していた様々な想定は無駄になった。権力づくの最悪の事態まで考えていたがナガマサの用件はごく他愛の無いものだったからである。


 また、ナガマサも心底ほっとしていた。城の尖塔を吹っ飛ばした事を全く責められなかったからだ。しかも、弁償しなくて良いとの有り難いお言葉までもらってしまったのだ。

 実はそれには、ナガマサの衣装とマキナ公の権威が効いている。だが、まだ若いナガマサは疑うことなく素直にアーシアに感謝していた。

 そして、恋愛経験皆無の彼にとって、今日は美少女と沢山話せて大満足な一日だった。後は手持ちのお金を何といって渡せば良いのか?を考えていた。

 それが終われば帰るだけだ。ラーテルとの約束も果たせるのだ。



 だが、思わぬ人物からの発言でそのスケジュールは修正を余儀なくされる。

「今、娘から聞いたんだが本当にミリアに言ったやり方でこのゾンビを作ったのかね?この巨体の全身にくまなく魔力を注がないと成功しないんだよ?」


 一瞬、戸惑ったナガマサだが話しかけてきた相手を見て丁寧に答える。

「はい、全身の気血を水魔法の魔力で巡らしましたから間違いありません。治療魔法なら何度も訓練してますから」

 

 ナガマサが応えた相手は金髪の巻き毛に190センチ近い長身イケメンでありながら、どこか影の薄い男。ナザリオである。

 ナガマサはミリアから父ナザリオはタイタニアの偉い学者だと聞いていた。


「ほう!君はその歳で治療魔法まで使えるのかね?その水魔法は簡単な回復魔法じゃないだろ?内科で使う高度な魔法技術だ。それを技術を覚えるだけで何年もかかはずなんだがね?!」

 人体への水魔法は緊急時には蘇生や止血、気血の淀みにはサークレイション、体液の浄化にはクリアランスと用法は多岐にわたる。強大な魔力を要するような魔法技術は無いが患者に最適な術を適量、適所に行う必要があるので高度な魔法技術であり習得には時間がかかる。


「あなた!失礼ですよ!」

「お父さん、だってそこでドラゴン動いてるじゃない!」

 珍しく喧嘩腰のナザリオに母娘が制止する。

 穏やかな彼がこんな口調で人に接するのをアーシアでさえ初めて見るのだ。普段の彼は工房の研究員がやらかした時でさえ優しく接する男だ。

それに博学な彼だが宗教への知識は乏しい。彼が死霊学者を志した時から神には背を向けているのだ。

 ナザリオは魂を輪廻の環から引き抜き外道へ導いている。そういう批判を背負って生きる覚悟をしている。故に宗教の権威にも疎かったのである。

 アーシアが持っている危惧には全く気が付いていなかった。

 

「大丈夫!ここはお父さんに任せなさい!」

 ナザリオは普段の彼ではない。

 今日はいつもの優しいパパではないのだ。

 心配していた娘は身体的には無事だった。だが、その上気した浮かれた娘の顔から直感するものがあった。

 妻が来訪者と話している間、彼はミリアから事情を聞いていた。念話達者のセレンもアーシアには念入りに情報を知らせても婿養子の彼には滅多に念話はくれない。だから、詳しい事情がわからなかった。

 そして、ミリアの口から直接聞いたのだ。

 彼の可愛い娘に図々しく口説いてきた失礼な男の存在を。

 今、ナザリオは父親スイッチが入っているのだ。

 さらに言うなら、普段の影の薄い彼と違い今日は男気スイッチも入っている。

 しっかり者の妻がドラゴンに怯えるのを全力で励ましていたからだ。

 ナザリオは、父親は娘と家族を守る為に断固たる決意でナガマサに向かい合っていた。


「ナガマサ君と言ったかな?君のやり方はゾンビというより初歩的な使い魔の作り方だね。だが、使い魔の対象となるのは小動物だ。何故なら、使い魔を造る為にはその動物の魂を書き換えるほどの魔力が必要だからね」


「はあ」


「だから、自分より、つまり人間よりサイズの小さい動物を選ぶ。小鳥などが多いのは人間の持つ魔力総量との兼ね合いの結果なんだ。別に可愛いからではない。時折大魔導師が人間の使い魔を持っているがアレはよほどの天才の仕業だよ」

 自分の専門分野を話しまくるナザリオ。このフィールドならナザリオに勝てる人間は滅多にいない。

 彼は学識を持って目の前の不遜な男を凹ませるつもりだ。ナザリオは理性でなく本能的に父親として娘に近づく男は許せないのだ。


「なるほど、勉強になります」

 ナガマサは思った。そういえば、自身の指輪の能力で不明な点もある。それにどうせアナンケの冥界法の実験はしなければならない。

「ちょっと、先生に見てください。俺は別に嘘を言ってませんから」


「ほう!良いでしょう。拝見しますよ」


 ナガマサは最初の目的を思い出す。それはこのドラゴンと契約して指輪の魔法・冥界法でドラゴンの巨体を冥界に収納することだ。

 ドラゴンの名前はアナンケに決まった。

 後は契約するだけだ。

 動物の場合は特に念話でのイメージ共有を心がける。さっきミリアに聞いたばかりの方法だ。


「アナンケ!俺の仲間になれ!真名を俺に捧げろ!」

 ナガマサの言葉が念話として、イメージとして翼竜アナンケに伝わる。


「キュオオオーン!!」

 アナンケは咆哮でナガマサに応えた。両者の意思疎通が成り契約が成立する。


 そして、また指輪のアレが始まる。

 指輪から何かが出て何かが吸収されていく。その莫大な魔力がアナンケの体内を循環し再構成していく。


「うおっ!ヤバイ!」

 アナンケの巨大な魂はナガマサの纏う魔力を根こそぎ剥ぎ取っても足らない。

 ナガマサは咄嗟に本気を出す。彼の強大な魔力を全開にする。普段着の魔力では身の危険を感じたからだ。 

 アナンケはナガマサからの莫大な魔力を存分に吸収し、同量の多大な魔力を体外に放出する。それによって、白き翼竜はナガマサの3番目の僕、アナンケに生まれ変わった。

 ナガマサとアナンケの間に魔法契約が結ばれたのである。

 指輪は契約の証。

 指輪の魔法だ。

 これでアナンケにも冥界法が使えるはずなのだ。


「ナザリオ先生、どうですか?これでドラゴンに冥界法が使用できるようになりました」


 だがナザリオから返事は無かった。

 ナガマサの巨大な魔力をすぐ隣で目の当たりにして腰を抜かしていたからだ。


 そして、腰を抜かすほど驚いたのはナザリオだけではない。

 この場に居た全ての人間の度肝を抜かれていた。

 少し残念な子ナガマサは、自分の禁忌をうっかり忘れてしまっていたのだ。

 その巨大な魔力は、少なくても一年は人前で表してはいけないものである。



 そして、同じく強い衝撃を受けているアーシアにセレンから念話が入った。

「今の凄い魔力は何ですか?城が震えましたが?それとソニアが犬を連れてそちらに飛び出して行きました。研究員達もそちらに向かっているようです」


「・・・・・・」


「アーシア?大丈夫ですか?それに、稼動している衛兵達が勝手にそちらに向かっています。信じられませんが衛兵達に私の指示が届きません」


「そう、わかったわ。ソニアは此方で迎えるから安心して」

 なんとか正気を保ったアーシアはセレンを安堵させた。

 だが、彼女も平静なわけがない。目の前の来訪者の莫大な魔力を知ったのだ。

 正直、これだけの魔力の持ち主など見た事も無いアーシアである。恐れより驚きの方が遥かに大きい。その衝撃で思考停止している。

 一方でなるほど、これならドラゴンゾンビくらい使い魔にできるだろうと心の片隅では冷静に計算してた。


 というか、これほどの魔力の持ち主など王族にもいない。

 夫ナザリオが披露しだした学識にナガマサが食いついてしまっている。それについて、彼女にできる事は何も無い。

 アーシアはこのまま何事も無くナガマサ達が去るのを祈るばかりであった。

 




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