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魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第2章 異世界アランソフ
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38. 不遜なるも理不尽ならず


「ナガマサ様危ない!!高度上げて!」

 そろそろ着陸する高さになって、唐突にヤンスが叫んだ。

「ナキカズラが並んでるっす!!」


 ナキカズラ?意味は分からないがナガマサは上昇するイメージと

「高く飛べ!」

 大声でイメージでドラゴンに指示した。 


ドラゴンが急上昇すると同時に、城壁の内側に並ぶ樹木が突然泣き喚きだした。その樹が垂れ下がっている長い枝を突然上に振り上げ始めた。街路樹の様に並ぶ木々が次々に枝を伸ばして上方を飛ぶドラゴンを絡め取ろうとしている。


「なんだこれ?」


「ナキカズラっすよ。見境無しで絡んでくるんすよ」


 ナキカズラとはこの世界に広く分布している植物。甘い実で鳥などを誘い可動できる枝を伸ばして生物を絡めとって自らの養分とする。少々危険だが利用価値の高い生物なので古くから人間に利用、栽培されてきた。なお、その枝を動かす時に泣き声のような音を立てるのが名前の由来。

 甘い実は栄養価が高く、この樹の樹皮で編んだロープは術者の魔力で自在で動かせる便利なアイテムになる。また、この城壁の内側のナキカズラは防御設備の一つとして植えられている。

 この世界でも城壁は有効な防御手段だがそれを飛び越える手段、存在が幾つかあるからである。当たり前ではあるが、軍事施設は守りが堅い。上空からあっさり侵入できる訳ないのだ。

 ただ、この城は元軍事施設であり、ナキカズラも引き抜いて持ち去るのが手間なのでアクィナス家に残されただけである。私設の魔法工房としては対空結界とナキカズラがあるのは、かなりの設備である。 



 高速で旋回しながらドラゴンは腹側と翼の下面に反魔法を発生させて急上昇する。ナガマサの視界にクルツ城の城壁が小さくなっていく。


「マジか?でも、このデカさのドラゴンを捕まえたら樹だってダメージ喰らうだろ?」


「木は馬鹿なんすよ。そのくせ結構丈夫だし、何本もナキカズラが並んでるっすから酷い目に合うのはコッチっす」


「うーん、あのデカイ門の所に降りようと思ってたけど、無理っぽいか」

 ナガマサが言っているのは正門の事である。

 工房の脇には羊や牛なので畜舎があり、かなりのスペースがある。正門から放牧場に移動する際に混雑する為だ。

 そこならドラゴンで降りる事が可能だ。だが、正門の周囲の内側はナキカズラが最も密接に生えている。門は城砦のウィークポイントなので当然である。


「それなら南側がいいっすよ。斜面がキツクて狭いっすけど、その分ナキカズラは怖くないっす」


「そだな、最初の変な攻撃ももう来ないしな」

 もちろん、ドラゴンがブレスで尖塔を吹っ飛ばしたからである。

「たださ、確実に俺の印象最悪だろ?どうしたもんかな」

 

「どう?行けるっすよ。ほら、斜面の角度があるから真っ直ぐ降りたらナキカズラに捕まらないっすよ」


 昨日今日で、ナガマサ達はナガマサがオペレーター、ヤンスがナビゲーターの役割が出来上がっている。


「うん。ヤンスの目は信用してるよ。そういう意味じゃなくてさ、ドラゴンゾンビの相談に来たのに、もう何て言って交渉したらいいかわからん」

 

「ナガマサ様面白いっす!」

 ヤンスがウキャウキャと目を細めて笑う。

「ドラゴンで乗り付けて交渉って、何て言うつもりだったんすか?」


 この世界にきて早や一月、ゴブリン達にはかなり慣れたが時々意図しない笑いを取ってしまうのは相変わらずである。

「何って普通にドラゴンゾンビとの契約の仕方だよ。ここはドラゴンゾンビを扱ってるってラーテルが言ってただろ?だから一応お金だって持ってきてるだろ」

 ナガマサはクリスの仲間から貰ったお金、正確に言うと遺体から抜き取ったお金を全部持ってきている。


「なんだ、お金持って来いって言うから何に使うのかと思ったっす。ナガマサ様は魔王並の魔力もってるんすよ。何の心配もないっす」


「なんでよ?この世界には魔力割 とか魔力多い人へのサービスあるのか?」


「ウキャ、ウキャ!何のサービスっすか?こっちはドラゴンがいるんすよ。しかも、家族で住んでるゾンビ屋なんでしょ?いう事聞かないと皆殺しにするぞって交渉したら、タダっすよ」


「家族を人質にするって意味か?なんでだよ?!俺は悪者じゃないぞ」


「悪者っすか?」

 ヤンスはナガマサの言葉に目を丸くする。その目を見たナガマサはヤンスが冗談を言ってるのでは無い事を知った。

 ヤンスの発言は、ゴブリンから見た人間観というだけではない。

 ゴブリンに対する人間とは大体そんな存在だが、人間対人間でも同じような物だとヤンスは思っている。

 人間の王族やら貴族やらは全て、魔力という武力を持つ者たちだ。そして、それは尋常でないくらいの者たちが多い。

 その身分差、生活レベルは王侯貴族と庶民、特に貧民では天と地ほど違う。その違いの訳は魔力という暴力に拠っている。というか、ヤンスの見た感じでは暴力の大きさが全てのように思える。

 

「ね?だから、ナガマサ様が我儘言うのは普通っすよ。ていうか、その為においら達ゴブリンだけじゃなく、この世界の人間だって魔力の強い人たちに遜ってるっすよ。おいらたちは、この国に住んでるっすから人間の世界も少しは知ってるんす」

 ツェルブルクは珍しくゴブリンを保護している国で、人間とゴブリンの関係も他の国よりも断然多く、また良好である。

 

「うーん」

 ナガマサは何て反論していいか、分からなかった。

 ヤンスの言ってるのは、この世界の正論のような気がするのだ。

 いや、日本でも変わらなかったかも?

「ダメだ。そんな脅しは俺はやらない」


「脅しじゃないっすよ。力が強いやつが全て分捕るのが人間の社会じゃないんすか?」


「むむぅ」

 やっぱりヤンスの理屈に反論できないナガマサ。彼はこの異世界に来た瞬間から強者の側の人間となっている。それは、ラーテルにも説教され納得もしていた。


「何かさ、それ気に食わない」

 ナガマサは日本に居る時は、スクールカーストの最下層の住民だった。それが、この世界ではヤンキーのような立場になっている。

 でも、彼が一番嫌いなのがヤンキーのような人種なのだ。そんな真似は絶対したくない。


「やっぱさ、そういう理不尽は嫌いだ。暴力で我儘を通すなんて最低だよ」


「そうなんすか」 

 ヤンスが開いた口が塞がらない。ナガマサの言葉には何か真意があるのか?と疑ったほどだ。

 ヤンスから見ると今のナガマサは理不尽の塊だ。王族だって問題にならないほど強い魔力の塊が服着て歩いているような存在なのだ。


「だが、そうなるとな。どうやって話を持っていくかが、わからない」


 ナガマサは本当に分からない。

 どう考えても『ごめん』で済む様な話ではない。

 ヤンスも本当に分からない。

 どう考えても強者の理屈を押し通せば済む話だ。


「ナガマサ様、それなら、もう一つアイディアが有るっすよ」


「ほう。是非聞かせてくれ」


 ナガマサはヤンスの案を聞くと、クルツ城の上空で旋回させていたドラゴンを再び降下させた。

 今度は真円でなく楕円形をイメージする。

 城の南面に降りるイメージを持ってドラゴンに大声で伝える。



 





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