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魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第2章 異世界アランソフ
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37.クルツ城へ

プレブスの丘の上、クルツ城の居館でアクィナス家は家族で朝食を食べていた。今朝は何の問題も起きなかったので、ミリアも朝食の支度を手伝っている。その為、ミリアが農場から持ってきた新鮮な卵と牛乳を使った料理となっている。

 人手が増えた分、メイドのゾンビにセレンが細かく念話イメージを伝える余裕が生まれたのだ。

 今朝の朝食は焼きたてパンにかぼちゃのスープ、チーズオムレツだ。ソニアは一人だけパンケーキにしてもらっている。


「美味しい。全部ちゃんと出来てる」

 ミリアがオムレツを頬張り、言う。程よい焼き具合でふんわりと仕上がっている。焦げたり生すぎたりしていない。ゾンビが指示しただけで上手く料理をしているのだ。


「パンケーキも美味しい。ふっくらしてる」


 きちんとイメージを伝える事が出来れば、指示通りの料理をゾンビが作れる。

 アクィナス家のゾンビの品質が高度に安定しているのだ。

 そのおかげで朝の食卓は平和で幸せである。ゾンビの調整に失敗すれば食事どころでは無くなるのが、この一家の日常である。



「ねえ、お姉ちゃん。今日、学校に行きたい」 

 甘いカフェオレを飲みながら、ソニアが突然言い出した。


「学校?何しに行くの?」


 まだ13歳のソニアだが、既にゼーフェンの学校では学ぶ物が無いのだ。ミリアのように武術に興味があれば話は別である。また、戦闘用の魔法なら専門の魔導師がいるが、ソニアは攻撃魔法を極める気はない。

 攻撃魔法など専門職以外では全く意味が無いからだ。

 魔法で優秀な結果を出したソニアには、イエソドの魔法大学への入学許可と奨学金の話もあったのだが、父ナザリオがレベルの高いタイタニアの大学に行く事を望んでいる為に断っている。


「うん、、、」


 ソニアが口を濁した事でミリアには分かった。

 昨日、両親に内緒で語り合ったのに、まだ妹が昨日の巨大な魔力の話に納得していないと。

 普段は物分りが良い子なのに、この件に関して何故か妙に熱くなっている。

 何て言うべきか、ミリアが迷っていると突然甲高い鐘の音が響いた。


 その初めて聞く音は、姉妹の会話を終わらせた。彼女達はそれが何であるかも分からないのだ。



「警報だわ、、、」

 無言で娘達の会話に耳を澄ませていたアーシアは、今聞きなれない鐘の音に驚いていた。

 だが、アクィナス家の当主である彼女はそれが何かを知っている。

「セレン!ベルクフリートに報告させなさい!」


 アーシアは念話を得意とするセレンに見張り塔への連絡を命じた。このクルツ城の本来の役目はプレブスの丘からオルス湿原全体からナウル湖までの広い範囲の監視下に置くことにある。現在でも、元兵士のゾンビが見張り塔へ詰めている。

 今は戦略的価値を失ったが、元々軍事施設なので哨戒だけでなく敵襲に対する備えが幾つもある。

 というかあった。

 ツェルブルク政府から父デボルトがこの城を購入した時に、ほとんどの軍事設備は取り外され持ち運ばれた。

 だが、持ち運べ無い物や老朽化していた物は放置されたままだった。

 

 デボルトはそれらを改修して、幾つかを使用している。備えは必要だ、というのが父の考えだった。


 その警報が初めて鳴り響いているのだ。

 それはアーシアが知る限り始めての事である。


「ドラゴンが上空を旋回しているそうです、アーシア様。対空結界を最大にしたいと申しています」


「「ドラゴン?!」」

 ミリアとナザリオは驚きを声に出し、アーシアとソニアは息を呑んだ。


「ドラゴンの大きさは?」

 アーシアは努めて平静に指示を出す。


「15メートルくらいだそうです」


「わかりました。結界を最大にしなさい。それと、工房に連絡して外に出ないように指示しなさい」


 セレンは得意の念話で工房の人たちに事情を説明している。


「参ったわね。あなた達も外に出てはダメよ」


 娘達に指示するアーシアだが、本当は正解がわからない。

 対空結界くらいではドラゴンと伍すことは出来ない。この世界では城壁を越えて悪さしにくる野生動物も珍しくない。それを追い払う為の結界だ。

 本当の軍事施設なら、ドラゴンの対抗策を用意しているが、現在のクルツ城にはそんな設備は無い。地下室に篭って震えるくらいである。


「アーシア。きっと大丈夫!」

 力なく家長の椅子に座り込む妻にナザリオが近づいて肩を抱く。

「できるだけの事をしよう。農場に散っているゾンビ達に指示して彼らと動物達を建物に避難させよう。いいね?」


 ナザリオは不安で落ち込んでいる妻を励まし、打てる手を打った。もっとも、ドラゴンの目に付かないように隠れるくらいであるが。


 巨大なドラゴンはゆっくりと旋回を続けている。

 その巨体が降り立つまで、意外と時間がかかるのである。





「キュオオオオーーーン!!」

 ドラゴンは歓喜の咆哮を上げる。


「うわぁ、これはアカン、アカンで」


「どう見てもダメっすよね。それにしても、こいつブレス吐けたんすね」


「キュオオオオーーーン!!」

 ドラゴンはもう一度の咆哮した。

 それは下界の者共への威圧。

 ナガマサも知っている空の王者としてのプライドの誇示である。

 少し忘れてしまっていたナガマサだが、このドラゴンは誇り高いのだ。



 ナガマサはさっきまでの事を思い返した。

 一晩世話になったウィズル親分の元を去り、彼に教えてもらった場所にようやくクルツ城を発見した。


 当然、ナガマサは其処を目指して降下するドラゴンに伝える。

 だが、地上近くでその城を覆うように展開する魔法があった。

 悠然と旋回するドラゴンにその魔法の帯、結界 は閃光で迎えた。

 

 ナガマサ達が知る由も無いが、ベルクフリートつまり、城の尖塔で感知した飛来物に対して自動的に光弾で迎撃するようになっているのだ。

 

 だが、剽悍なドラゴンは弾速の速い光弾すら全て回避した。そして、激怒したドラゴンはナガマサの指示を待たずに即座に反撃した。

 城の尖塔をブレスの一撃で吹き飛ばしたのだ。

 ナガマサとヤンスは、このドラゴンのブレスが炎でなく衝撃波である事。そして、ブレス攻撃を持っている事をその時初めて知った。

 

 ナガマサはゾンビ屋に頼みごとにやってきた。

 その家屋敷を吹っ飛ばすのはどう考えてマズイ。


 俺のせいじゃない。 そう思いたいナガマサ。

 でも、さすがに分かってる。どう考えてもナガマサの責任である。

  

 ナガマサの仲間で、ナガマサの指示で飛んできたドラゴンゾンビがクルツ城の尖塔を吹っ飛ばしたのだ。

 この世界では、未成年だからといって責任が免除されないらしい。

 というか、17歳のナガマサはこの世界では立派な大人だ。

  

 修理代って、どのくらいの費用なのかな?

 ナガマサの悩みは解決する前にさらに増える事になった。





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