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魔王の指輪と壊れゆく世界  作者: 鶴見丈太郎
第2章 異世界アランソフ
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31. ナガマサ 空へ


「ナガマサ様、動いちゃダメっすよ。落ち着いて欲しいっす」


「俺は落ち着いてるよ。見ればわかるだろうヤンス」

 事実ナガマサは身動き一つしていない。というかできない状況だ。


「ナガマサ様、急な動きはいけません。このドラゴンはナガマサ様を慕っているだけです」


「無茶言うなよクリス。どうやって動くんだよ」

 ナガマサは空中数メートルに浮かんでいる。自分で動きようなど無いのだ。


「ナガマサ様このくらの高さ気持ち良いですよね。空を飛んでる気分ですよう」


「ははは、イザベラ俺は空を飛んでるわけじゃないよ、吊るされてるんだよ」

 ナガマサは服の背中側をドラゴンに噛まれ吊るされている。ドラゴンが立っているので数メートル上空に必然的に浮かんでいるのだ。

 自慢の蜘蛛糸の服はナガマサの体重くらいではビクともしない。蜘蛛糸の引っ張り強度は半端ではないのだ。


「なんでいきなり走り出したんじゃ?意味不明じゃぞ?」


「実験だよ。ラーテル。俺がドラゴンから離れたらどうなるか確かめたかったんだよ」

 俺はアホだと思われているな? と心外なナガマサだがドラゴンに吊るされている姿はアホそのものである。


 そして、予想通りにドラゴンは反応したが、予想以上にその動きは素早かった。これはナガマサの想定の失敗だ。何度もこのドラゴン素早い事は目にしていたのに。ゆったりした動きに見えてもその巨大さ故、かなりのスピードで動いているのである。


 ナガマサとしては、指輪の力でドラゴンゾンビを冥界に収納できない以上、どのくらいナガマサに執着するか見ておきたかったのだ。


 このドラゴンはやたらとナガマサに懐いているがこれは裏を返せば、ナガマサと離れるのを嫌がるという事だ。

 クリスとイザベラもそうだった。最初に会った時の二人は妄執に支配された死人。まさに亡者だった。

 それが改善したのはナガマサと指輪を使った契約をしてからなのだが、それにも真名は必要だ。

 つまり、このドラゴンは妄執に満ちたゾンビの状態だ。ただ、その欲望が満たされた状態にある限りは大人しいのだ。

 下手にナガマサが離れたら暴れ出すかもしれない。そこまでいかなくても、何が何でもナガマサを追って来るだろう。その点もクリスやイザベラも同じだった。この巨体で分別無しで動いたらどんな被害が出るかわからない。

 つまり、真名が分からない限りナガマサはずっとドラゴンと一緒だ。このドラゴンを連れて歩かないといけない。それこそ、寝る時も風呂に入る時もだ。

 でも、真名が分からない。ドラゴンと話せるはずもない。

 ナガマサはクリス・ドクトリンに従って、ドラゴンの限界を把握しようとして吊るされているのである。


  

 ナガマサが吊るされている間にラーテルは事態の打開を図っていた。

 ドラゴン語を話せる者はいないが、死人=ゾンビに詳しいものならいる。

 ラーテルはその者と念話で会話している。

 そして、彼には一つの解決策が浮かんだ。だが、果断な彼でも少し考えなければならなかった。


 彼はナガマサについて、レダから幾つかの指示を受けている。ナガマサを最初は戦力と考えていなかったのはその指示があったからだ。また、ほかにも外部の者との接触を避けるように言われている。特に人間とのそれだ。

 本来、ナガマサが人間相手に臨床経験を積みたがっているなら、ベルム・ホムには村人たちが住んでいるのだ。レダはそれを分かっていながら、ナガマサと人間との接触を禁止している。彼らベルム・ホムの農民たちは外部との接触などできないのにである。

 

 ラーテルが悩んでいる間、ナガマサがどうしようもなく脱力している。

 ドラゴンスレイヤーの件がうやむやになりそうな予感がしているので、ナガマサは少し幸せ気持ちになっている。

 やる事も無いので、ただ風に吹かれて揺れていた。


 そうしていると、ドラゴンは何を思ったかナガマサを首を捻って自分の背中に乗せた。さっきロープを取り付けた時は無理に首の根元に取り付けた。だが、今背中に乗ってみると其処はふわふわの羽毛で思いがけず乗り心地がよかった。

 ロープを上手く使えれば、案外ドラゴンに乗って空を飛べるかもしれない。本音で言うと空など飛びたくないナガマサである。だが、ラーテルのドラゴンに乗って空を飛びたいという夢はそんなに無茶な話ではないかもしれないのだ。


「うわぁ。気持ちよさそうですねぇ」

 今、唯一近くに居るイザベラである。


「うん、意外と癒される。ただ、ドラゴンが座らないと降り難いな。尻尾側から無理やり降りるしかないかも」


「ええ~。無理せずノンビリしましょうよ。なんならドラゴンさんで空を飛べばいいじゃないですか」


「――そだね」

 そういえば怖がるイザベラを無理に空を飛ばしたり、壁抜けさせたのはナガマサ自身である。今更、自分が怖いとは言いにくい。



 と、突然のラーテルからの念話である。

「ナガマサ聞こえるか?」

 大声出しても聞こえそうな距離だがラーテルはわざわざ念話を使ってきている。


「よく聞こえるよ」


「ここから東に140キロほど行ったところに住んでいる双子岩のウィズルというゴブリンを訪ねろ。なにドラゴンで飛べばすぐじゃ。そいつが屍術師の居場所を知っておる」


「屍術師ってゾンビ屋か?てか、俺が行くのか?」


「うむ、お主のドラゴンゾンビをなんとかせねばならん。さすがに姫様が帰ってきた時にドラゴンが居るのも見たら激怒なされる」

ラーテルは既にどう転んでも怒られる事に気が付いて、事態の収拾を図ることにしたようだ。


「確かに、怒られそうな予感がするな。だけどゾンビ屋に行ってなんとかなるのか?」


「わからん!じゃが、今のところそれしか手が無い。お主がなんとかしてこい!」


 雑な命令だと思うナガマサだが、確かに打つ手は無い。

 このまま吊るされているのも厳しい。

「たださ、なんか俺は人前に出るのは、マズイ気がするんだよな。なんか気が進まないっていうかさ」

 それにナガマサは思った。 

 ドラゴンで飛んでいけって命令だろう?はっきり言って怖いしな。


「それも聞いておる。だが安心せい。屍術師は裏稼業じゃ。奴らも人前にウロウロ出れる連中ではないわ。それに、家族経営で仕事をやってとるらしいから人数もおらんじゃろう」 


「家族、だと?」


「そうじゃ、小規模じゃが腕が良くてな幾つかの屍術師を試したんじゃが、一番質の良いゾンビを持ってくるそうじゃ」


「いや、ゾンビの話じゃなくて。家族なんだよな?人間の」


「もちろん人間じゃ」


「娘さん、いた?」


「おったぞ、父親の手伝いに若い娘が来ておった」


「ほう、別にどうでもいいんだが、、、美人だった?」


「さあのう?」

 ラーテルに人間の美醜は判断できない。

「父親は可愛がっておったがのう。ワシより背が高い娘じゃったしのう」


 どうも背の高い女はラーテルの好みでは無いようだ。

 だが、ナガマサは素早く計算する。ラーテルの身長はゴブリンにしてはデカめの165センチほど。それ以上の身長だとすると、小学生とかの可能性は低い。低いはずだ!

 そして、美人の可能性だってある。いや、なんか絶対美人な気がする!


「ラーテル。俺行くよ!俺に参戦許可をくれたお前に迷惑かけたくないんだ」

 ナガマサの心は燃えていた。空を飛ぶ恐怖など彼の心にはもう無い。


「うむ!よくぞ言った!姫様が外出される期間は例年10日ほどじゃ。じゃから、結果がどうあれ、とりあえず10日以内でベルム・ホムに帰って来い」


「わかった!帰ってきたら俺と一緒に空を飛ぼうラーテル」


「うむ!」


 ラーテルの夢。空飛ぶ事を叶える約束をしたナガマサ。

 だが、彼の心にはラーテルの事など一片もない。

 異世界に来て一ヶ月。

 初めて人間と話す事ができる。

 しかも美少女(ナガマサの中では美少女に確定)が待っている。

 ナガマサはまだ見ぬ美少女に胸を躍らせていた。

  

 だが、彼は先にドラゴンを説得して地面に降りなければならない。

 まずは旅支度をしなければならないからだ。









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