料理店のおばちゃん
「ノリで引き受けたはいいがどうしたらいいんだ?」
「そのためのあたしたちよ」
「青の妖精はここから離れた水辺にいるんだ。だから鳥使いの妖精の手を借りるんだ。」
つまり他のところを見せながらそのための手段も教えてくれるお使いということか。
「でもその前に」
「ん?」
「ごはんよ、まだ何も食べてないでしょ?」
思えば好奇心が先走り空腹を置き去りにしていた。
「ほら、ここだよ。あの料理作ってくれるところ」
「よく来たね!ニンゲンは初めてだけどしっかり美味しい料理は食べなきゃ駄目だよ。たんとお食べ」
その樹は中に外にも色々な店があり、樹の中ながら商店街のようでもあった。
そして目当ての料理店に入れば他の妖精とは違う恰幅のいい羽のないおばちゃんが早速料理を出してくれた。
木製の食器の中には見たことのない豆が入った緑色のスープ
そしてこの世界にもあるらしい見慣れた食べ物であるパンが二枚
そして大きな存在感を放つ見たことのない虫の丸焼き
「へえ、あばちゃん張り切ってるね。この虫まで出すなんて」
「いいなー、あたし達はパン一枚とスープだけなのに」
改めて観察する
スープ。湯気が立ち、ややドロリとしてよく食材が煮込まれていて濃厚な味が期待できそうだ。
パン。カットされた二枚の厚切りのパンは外はカリッとしており中はふわりとしている焼きたてパンだ、もちろん美味しいだろう。
そして何かの虫。コンガリと焼け何かのソースをかけられたのか表面は飴色となり身の上に載せられた香料と思わしき草との匂いが香ばしく見た目に反し食欲をそそる。
「この虫はねえ、あまりとれないけど美味しいのよお。それでニンゲンが来たって言うじゃない?そりゃあ張り切るわよ」
「はは、ちょうどよかったんだね。」
「ほらほら、覚めるからあなたも食べてみて!すっごく美味しいんだから」
う………期待の眼差しでハナに見られてるし貴重な食材をわざわざ俺のために使ってくれたのだし食べないのはさすがに悪い。
いや、アリを食べるところもあれば蛇も食べるしクラゲだって調理したら食べられるじゃないか!これも夢見たファンタジーだ!
「いただきます」
なるべく虫全体を見ようとしないで震えるフォークで肉を刺し一息に口に入れる!南無三!
「どうどう?」
「いい食べっぷりでおばちゃん嬉しいよ」
「不思議な味だ」
実は以外にそこそこの歯応えがあるが噛みやすく、やや甘い。
そこに上からかけられたソースの辛味が甘さを程よく締め甘さだけでない味を生み出している。
美味しいかと言われれば美味しいが今まで一度たりとも味わったことのない味には困惑する。
「まあ三日もしたら舌も慣れるよ。あ、ソース余るなら頂戴、パンにつけて食べるから。」
やがて料理は双子にソースを分けたり元の世界と微妙に違うパンの味を楽しんだりしているうちに無くなった。
「けっこう量あったんだな………ご馳走さま」
「「ご馳走さま」」
「はいありがとうね。ほら、これから青の妖精のとこに行くんでしょ?持ってきなさいな」
包みを机に人数分置いてくれるが何だろうこれは?
「携帯食ね、ちゃんと味付けしてくれてるのが嬉しいわ」
「ありがとう、お礼にあっちの水汲んで帰ってくるよ」
「助かるわー、あっちの水は美味しいからねえ」
「それじゃそろそろ行こうか」
「気を付けて行ってくるんだよ!またあたしの故郷に行くときはお願いね」
おばちゃんに見送られて俺達はまた歩き始めた。