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玉城さんのお仕事~不良サンタのトナカイ奪還計画~  作者: 沙槻
第2章・トナカイを探して三千歩
9/31

玉城さんの作戦 ②


午後2時17分


『あ~はっはっは』


「──玉城さん」


『あ~はっはっは』


「玉城さんってば」


『あ~はっはっは』


「玉城さんってば!」


 祐也は先ほどから笑い袋をいじっている玉城さんの肩を叩いた。しかし玉城さんは、火の消えたタバコをくわえたまま、笑い袋を見つめているだけである。祐也はため息をついた。


(これは、重症だな)


 もう玉城さん、魂抜けちゃってるよ。まぁそれも仕方がないことかもしれないが。あれから探しまわったが、なにしろ探し物がトナカイだ。動物園にでも行かない限り、街中にはいない生物である。いや、動物園でも見たことないな。


(まぁ、あのスーツの怖い人達にも奇跡的に会わなかったからいいけど)


 正直、そろそろ何か考えないとやばい。

 休憩がてら座っている公園のベンチで、祐也は玉城さんから笑い袋を強奪した。


「おい、おまっ……返せ、俺の現実逃避の道具を!」

「現実逃避って何ですか! これは、俺のクリスマスプレゼントです! 玉城さんはトナカイ探して下さい、トナカイ!!」

「現実から逃避したい時もあんだろーが! トナカイなんて探さなくとも、いたら一発でわかるわ!」


 確かに。


「でもっ……玉城さんは諦めないで下さい」

「あん?」

「確かに、ヤクザには追いかけられてるし、発信器は玉城さんが踏み潰しちゃうし、トナカイなんて日本にいない動物だし、玉城さんは強引だし人の話聞かないし」

「おい、途中から俺の悪口になってんぞ」

「でも、玉城さんが諦めちゃったら、プレゼントは……」


 祐也は、口をつぐんだ。もし、このままトナカイが取り戻せなかったら、プレゼントはどうなってしまうのだろう。

 祐也だってサンタは信じていたい存在だ。だから、サンタを待ちわびる子供の気持ちというのはよくわかる。そして、サンタに会えずに『サンタなんかいないんじゃないか』と不安になる気持ちも。そうして最後には『サンタなんかいない』と諦めにも似た感情を抱くことも。

 祐也も玉城さんに会うまでは、そんなつらい感情を抱えていた。でも玉城さんは、サンタはいるんだ。ならば『サンタさんはいる』と、信じて待ってる子供達にプレゼントは配らなければ。


『嘘つき』


 もう、信じたものに裏切られるのは、嫌だ。


「おい」


 ガシッと頭をつかまれて、祐也はビクりと肩を震わせた。

 また、ゲンコツでも落とされるのかと思ったのだ、が。玉城さんは、祐也の髪をぐしゃぐしゃに混ぜっ返す。


「ちょ、玉城さ」

「──誰が諦めるっつったよ」

「え?」


 驚いて顔を上げる祐也に、玉城さんは笑っていた。


「俺は諦めるっつーのは嫌いなんだよ。まだ諦めてねぇ。作戦を考えてただけだ」

「玉城さん」


 初めて、玉城さんがマトモかつ頼もしい大人に見える。後光さえ見えた祐也に、玉城さんはぐっと親指を出して言った。


「よく考えたんだが、やっぱり、あのスーツ野郎を捕まえようぜ!」

「は?」


 目が点になった祐也に、玉城さんは楽しそうな顔で説明する。


「スーツ野郎はトナカイの居場所知ってんだろ。都合よく、俺を探してるんだ。適当に一人かっさらって、ボコって、居場所を吐かせよう」

「玉城さん、それサンタさんの発想じゃないですよ?!」


 確かに、それが一番てっとり早い気がするが。子供に夢と希望を与えるサンタさんが、それをやっていいのか。

 しかし、玉城さんは即断即決、即行動型だった。


「よし、工藤。4時だ。4時まで、二手に別れよう。俺はスーツ野郎をハントしてくる」

「ハントって気軽に言わないで下さいよ!」

「お前は、ここら辺の地理に詳しい。トナカイを隠せるような場所を探して、友達にもそれとなく聞き込みしとけ」


 無視された。しかも、なんかまともな指示だし。


「玉城さん、変な物でも食べたんですか」

「食ってねぇよ! 俺は最初からまともだ!」


 誰もマトモじゃないとは、言っていない。

 それに、大事なことを祐也は思い出した。


「でも、玉城さん。相手は拳銃を持っているんですよ。ボコって居場所を吐かせる前に、撃たれたらどうするんですか」

「そこは、心配ねぇ。俺には特殊能力がある」


 新しいタバコに火をつけて、玉城さんは悪い顔で笑んだ。


「理由もなく、まっとうに生きている俺からトナカイさらって、無事で済むと思わせたくねぇからな……返り討ちにしてやるぜ」


 まっとうに生きてる人間の表情と言葉とは思えない。しかし、玉城さんはいきいきとしている。


「4時に、この公園に集合だ。いいな」


 そう念をおして、颯爽と走って行ってしまった。


「よっしゃ、出てこい! 拉致ってやるぜ!」

「────」


 その前に玉城さんが警察に連行されないか、心配になってきてしまった。



 現在の時刻、14時40分ーークリスマスまで、あと9時間半。



☆―…―…―…―…―…―…―…―…―☆



 港の近くにある、一つの倉庫。それは樅ノ木組が数多く所有する倉庫のうちの、一つでもある。中にはダンボールがつまれ、それなりに荷物が置かれていた。広さは体育館並みには広く、屋根も高い。

 その、今は誰もいない倉庫の中に、沢井は独りで立っていた。


「トナカイと鹿じゃ、違うんだけどなぁ」


 若頭が四本足は何でも似たようなもんだと、言っていたけれど。


「鹿は、飛べないし……」


 つぶやくように、小さな声で言った沢井は、倉庫の奥の方へ目を向けた。そこには重厚な鉄のドアがあり、中からは動物の鳴き声がしている。

 トナカイがしきりに鳴いているのだ。その鳴き声と連動するように、携帯が鳴った。


「──はい、沢井」


 電話に出た沢井は、めったに吸わないタバコに火をつける。向こうで通話相手が、何やら苦情を申し立てるように怒鳴るのを、聞き流した。


「あぁ、うん……中身が入れ違っちゃったのは、そっちのミスじゃない?」


 更に、何やらわめく相手に、沢井はなだめるように言う。


「大丈夫だよ。彼のトナカイがここにいるなら、彼は必ずここに取り戻しにくる」


 言って、冷笑を浮かべた。


「騙してなんかいないよ。じゃなきゃ、組を裏切って君たちに警備システムの情報を流した意味がない」

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