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玉城さんのお仕事~不良サンタのトナカイ奪還計画~  作者: 沙槻
第1章・その男、サンタクロース(自称)
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玉城さんの事情 ④


 サンタは、何人もいるらしい。



 あっけに取られる祐也に、玉城さんは呆れた顔をした。


「当たり前だろうが。時速200キロのソリ使っても、世界なんて回れねぇよ。ってか、人間じゃねぇじゃん、それ」


 まぁ確かに、人間じゃないな、それは。サンタクロースがもともと人類に分類していいのかわからないけど。

 ということは。


「全世界にサンタがいるってこと?」

「そうだろ。ちなみにここらへんが、俺の担当だから」


 祐也はへぇーと素直に感嘆の声を上げた。サンタに担当なんてあるんだ。まぁ確かに、担当地区でも決めておかないとムラありそうだし。

 しかし祐也は『あれ?』と首を傾げた。


「玉城さんってサンタのわりにソリ使ってないですよね? トナカイもいないし」


 サンタクロースの定番だが、もしかするとそれも実際は使われていないのだろうか。よく考えたら、ここ日本だしな。

 祐也の指摘に、玉城さんは思いっきり顔をしかめた。ため息をついて、タバコを灰皿へと押し付ける。


「そこなんだよ、問題は」

「へ?」


 問題?

 玉城さんは、新しいタバコの箱に手を伸ばしながら言う。


「トナカイっていうのはな、ちゃんとトナカイを飼育してる機関があって、そこに預けて世話してもらうんだ」

「なんか飼育小屋みたいで、ちゃんとしてるんですね」

「まぁな。呼びたい時は笛を吹くと、その機関が預けたトナカイにソリつけて、飛ばしてくれるんだけど」


 そこで玉城さんは口を閉ざすと、鬼のような形相を浮かべた。ドンッと、テーブルを力任せに叩かれて、びくりとする。玉城さんは、拳を握って声を荒げた。


「トナカイ待ってて、ちょうど来たと思ったら──あのスーツのオッサン達がよぉ!」


 その時のことを思い出したのか、玉城さんはわなわなと拳を震わせる。


「あのオッサン達が来て、訳わかんねぇこと言って勝手に取り上げちまったんだよ、トナカイを! おかげで、こっちはクソ重いプレゼント担がなきゃいけねぇし! 踏んだり蹴ったりだぜ」


 祐也はそこでキョトンとした。あれ、何か今の言い方に違和感があるんだけど。

 祐也はたった今感じた違和感を、玉城さんにぶつけた。


「スーツのオジサンって──玉城さん。もしかして、自分が何で追われてたか、わかってないんですか?」


 何か、今の言い方だと、まるで身に覚えがないみたいなんですけど。

 祐也の言葉に、玉城さんはさも当然のように頷いた。


「当たり前だ。俺はまっとうな道歩いてんだぞ。そんな、スーツのオジサンに追いかけられるようなことをした覚えはねぇ」


 そんな外見でそんなこと言っても、全く説得力がない。

 玉城さんは、何本目かわからないタバコに火をつけながら言う。


「まぁ、最近のサンタはけっこうマナーわりぃからな。誰かと間違えられてんのかもしんねぇ」

「人の家に不法侵入してるサンタにマナーも何もないでしょ」


 玉城さんは、ピクッと口元を引きつらせた。


「サンタは別なんだよ。いいじゃねぇか、不法侵入でも」


 よくないと思う。というか、だ。


「そもそも、サンタってどうやって家に不法侵入してるんですか?」

「不法侵入って言うな」

「それに、家に入っても、まだ子供が起きてたらどうするんです?」


 サンタがそんな毎年総動員しているのなら、見たって人がいてもおかしくない。が、祐也はそんなことを言っている人に会ったためしがなかった。


(第一、そんなにいるんなら俺のところにだって……)


 視線をそらした祐也に気付かず、玉城さんはタバコをふかしながら答える。


「そんなもん、サンタならではの特殊能力で突破するに決まってんだろ。というか、それが突破できるからサンタなんだよ」


 祐也は、全く具体的じゃない玉城さんの言葉に、首を傾げた。


「特殊能力?」


 一気に、話がうさんくさくなってきたよ。

 思わず眉を寄せた祐也に、玉城さんは説明してくれる。


「サンタってのは、サンタが住んでる『サンタの国』ってのがあって、その血筋を引いてるヤツじゃないと現れない能力を持っている」


 サンタの国?


「要するに、家に入るために鍵がかかっていようがいまいがドアノブ回しただけで開いちまったり、姿を見られないように目の前の人間を眠らせたり、高層マンションに入るために空中浮遊とかできちゃうわけだ──後ろ2つはものすごい体力使うがな」


 えっ普通にスゴイ!

 たいして期待もしてなかったので、予想以上の便利能力に、またもや感嘆の声を上げた。


「かなり便利じゃないですか。『サンタの国』なんてあるんですね──玉城さんは、普段はそっちにお住まいなんですか?」


 祐也が聞くと、玉城さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「俺はあくまで“子孫”だ。“住人”じゃねぇ」


 それは一緒じゃないの?

 よくわからなくて、祐也は素直に尋ねた。


「子孫と住人って、違いがあるんですか?」


 しかし、つぶやいた言葉に答えは反ってこない。玉城さんは祐也の郵便物に手をかけて、ガサガサあさっているだけで、祐也の問いに答える気配はなかった。

 って、ちょっと待って!


「なに勝手に人の荷物のぞいてんですか!? それは旅行中の両親からのクリスマスプレゼントですよ!」


 慌てて、祐也は玉城さんに駆け寄った。まだ、祐也だって中身は見ていないのに。しかも、玉城さんは祐也の心の準備も出来ていない内に、中身を引っ張り出した。


「ちょ、まだ心のじゅ……」


『あ~はっはっは』


 機械的な音声の笑い声が、部屋中に響く。二人は目を点にしてそれを見つめた。


『あ~はっはっは』


 それは茶色の小さな袋で『笑い袋』の文字がある。


「…………」


 祐也は絶句すると同時に、ひどく脱力感を覚えた。笑い袋って、どんだけ前に流行ったもんだよ?

 呆然とする祐也に、玉城さんは無言で肩を震わせて爆笑していた。



 午前11時47分ーークリスマスまで、あと12時間。

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