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霜月の僕の財布と置き引き泥棒 ②


 カツアゲといえば、定番のやつがあるな。


(これは、お約束通り『勘弁して下さいよ~先輩』なんて言わなきゃいけないのかな)


 いや、でもこの人達、先輩じゃないしな。

 ならどう反応すれば正解なんだろう。


 考える祐也の目は、地面に置かれた白い袋に向いていた。遠目でもそう思ったが、近くで見ると、ますます似ている。まるっきり、サンタクロースが担いでいる袋だ。しかも、開いた口からのぞく中身は、綺麗に包装された箱や袋が、ぎっしりと詰まっている。

 思わず、自分が絡まれてカツアゲされていることも忘れ、祐也の脳裏にサンタさんがソリに乗る姿が浮かぶ。


 その、態度がいけなかったんだろうか。


「てめぇっ……聞いてんのか!」


 ぐっと祐也の胸ぐらをつかんだ男が、苛立ったようにその白い袋を蹴り飛ばした。


「!」


 横倒しになり、中身がこぼれた袋に祐也の眉が寄る。


「さっきから余裕ぶりやがって! どうせ誰か助けてくれるとか、思ってんのか?」


 激昂した男が、八つ当たりのように足元に転がってきたプレゼント箱を踏み潰した。ぐしゃり、と箱が潰れる音と共に何かが、壊れたような音がする。


「…………」

「あ? なんだ、その目は。睨んだって怖くね──」


 途中で、男は息を呑んだ。ピタリ、と鳩尾に祐也の靴底が当てられている。

 一瞬で、蹴りを寸止めされた。そう男が気付いた時には、拘束から抜け出した祐也の拳が、顔面にヒットしていた。


「ぁがっ……」


 地面に沈んだ男は、ぴくりともしない。


「てめぇっ」


 いきり立った一人の男が祐也に殴りかかるが、あっさりと片手で投げ飛ばされた。同じく、ぴくりとも動かない。

 男二人を瞬殺。その、時間にしては数秒で起こった出来事に、男達は呆然としている。当たり前だろう。先ほどまで、抵抗すらしなかった高校生が、突然反撃してきたのだから。

 良いカモだと思ったのかもしれないが、残念ながら祐也は黙って金を取られる趣味はない。


 それに──


 状況に頭が追いつかない男達に、祐也はうっすらと笑いかけた。


「物は大切に扱いなさいって、教わらなかったの?」


 怒気を秘めた祐也の低い声音に、男達はびくりと肩を揺らす。それに祐也は僅かに口角を上げ、静かに問うた。


「ねぇ、お兄さん、知ってる?」

「は? え……な、なにが」


 目が全く笑っていない、冷笑を浮かべた祐也は、ゆっくりと拳を握った。


「落とし物は、交番に届けなきゃいけないんですよ」



☆―…―…―…―…―…―…―…―…―☆



 うっかりしていた。

 15分前の自分を罵りたい気持ちで、玉城は息を切らせながら足を動かす。クリスマスが近づき、街中のそこかしこでイルミネーション設置作業が行われる中、縫うように走り抜けた。その視線は、目立たない路地裏や柄の悪いチンピラ達に向いている。

 しかし、見覚えのある顔はいない。


「──クソッ」


 会計の間、ほんの少し目を離した隙に、プレゼント袋ごと盗まれた。

 あんな目立つ、大きくて重い白い袋なんて誰も盗らないだろう。そんな考えが甘かったのだ。プレゼント買い物中に、そのプレゼント袋ごと置き引きに遭ったサンタクロースは、きっと日本でも自分だけだろう。

 全然、嬉しくないけど。


「そう遠くへ行っちゃいねぇとは、思うんだが」


 信号で引っ掛からなければ、今頃には捕まえて交番に連行していた。


「見つけたら、まずボコる」


 そう、上がった息をつきながらも、凶悪に笑んだ瞬間。何かが、足にひっかかって、すっ転びそうになった。


「うおっ?!」


 たたらを踏んだ玉城は、何とかその場に踏みとどまる。見れば、路地から人間の足がはみ出していた。これに上手いこと引っかかって、コケそうになったわけか。

 納得した玉城は、舌打ちして足を蹴飛ばした。


「こんなところで、寝てんじゃねぇよ! 人が散々な目に遭ってるっつーのに、寝るなら、自分の家で──」


 言いながら、路地をのぞきこんだ玉城は、言葉を飲んだ。そこには、数人の男達がひっくり返っていた。喧嘩か抗争か、理由は知らないが、ボコボコにされた男達は、かろうじて意識はあるらしく、うんうんとうなっている。

 しかし、そんな光景はこの街ではたいして珍しくもない。玉城が言葉を飲み、足を止めたのは別に理由があった。

 全員の顔に、見覚えがある。


「こいつら」


 ついさっき見た。そう、自分の大事なプレゼントを置き引きした、窃盗犯。

 認識したと同時、玉城は足元にいた男の襟首をつかんで、引き起こした。


「おい、こらぁ!」


 半ば意識のない男を容赦なく、平手打ちし、ぶんぶんと揺さぶる。


「てめぇらっ! 俺のプレゼント袋を、どこにやりやがった!」

「──ひいぃぃぃ!」


 意識が戻るなり、男は情けない悲鳴を上げた。ボコられた上に、気がつけば、見知らぬ男に胸ぐらをつかまれているのだから、無理もない。

 しかも、その男がサングラスにシルバーアクセサリーをじゃらじゃらつけた金髪の、これまた柄の悪い人間なら尚更だ。

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