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玉城さんのお仕事~不良サンタのトナカイ奪還計画~  作者: 沙槻
序・硝煙漂うクリスマスイブ
3/31

玉城さんとの出会い ②


「おい、そこの少年!」


 そんな怒鳴り声と共にグイッと、ふいに引っ張られた。


「うぉっ!」


 あまりにもいきなりなことに思わずバランスを崩しかけたが、なんとか全神経をフル活動させて体勢を立て直した。おぉ、ナイスだ。俺の全神経。

 祐也はホッとすると同時に、引っ張った相手を睨みつける。


「いきなり何す……」


(?!)


 思わず、祐也は途中でフリーズしてしまった。そして、言葉をかけることも忘れて、まじまじと目の前の人物を凝視する。

 なぜかって? それは、その祐也をいきなり勢いよく引っ張った人物の外見のせいだ。


 まず、目についたのは赤い三角帽で真っ赤な色のサンタの衣装。しかし、それは問題ではない。確かに、真夏にそんな服を着ていたら、暑苦しいどころか頭がおかしいんじゃないかと思う。──が、今日はクリスマスイブだし、そんな服を着た人類なら周囲に腐るほどいる。

 では何が問題なのか。

 それは、その男のサンタらしからぬ恰好だった。


 赤い三角帽からのぞく髪は自然な少し長めの金髪で、サングラス、口にくわえているのはタバコだ。そして、チラチラと首や手の袖口から見える大量のシルバーアクセサリーたち。指輪やブレスレットがジャラジャラと、これでもかと言うほど身につけられていた。

 とりあえず、金髪とサングラスとアクセサリーが全くもってサンタの衣装にあっていない。しかも白い袋しょってるし。


「ここら辺で、身を隠せそうな場所とか知らねぇか? なんかあんだろ、秘密基地的な所とか」

「…………は?」


 ろくに答えることも出来ずに、祐也は絶句した。なに、この人。

 さっきのサングラスのサンタといい、何だ? 最近は流行ってんのか、これが。


(今までの俺の常識が間違っていたのか)


 どう見ても、どこかのコンビニ前にたむろする不良かチンピラにしか見えない。そんなチンピラ男を、祐也は呆気にとられて見ているしかなかったのだが、騒々しい足音に一気に現実へと引き戻された。


 数人、いや、十人前後ほどの人数の足音がバタバタとこちらへ向かって近づいてくる。それに目の前のチンピラ男は、苦々しい表情を浮かべて舌打ちした。

 なんだろう。不思議に思って、祐也がそちらへ振り向こうとした時だ。


「仕方ねぇ」


 そうつぶやくと同時に、チンピラ男が素早く背後に回り、後ろから祐也を羽交い締めにした。


「えっ?! ちょっ……」


 祐也が慌てて後ろのチンピラ男を見ると、彼はニヤリとした極悪人の笑顔を浮かべている。何だか知らないがものすごく怖い!

 口元を引きつらせて、祐也はチンピラ男から視線をそらすように前を見る、と。


「あのぅ、どちら様ですか?」


 祐也は目の前の光景に思わず、そうこぼしてしまった。何せ、いかついスーツのオジサン達が鬼気迫る表情で、俺達を睨んでいるのだ。

 何がどうなって何ゆえに今の状況に?

 本気でパニックだ。祐也は困惑しきった表情を浮かべるしかない。

 睨み合いの中、祐也の真後ろでチンピラ男がスーツのおっさん達に高笑いを始めた。


「ハッハッハァ! いくらてめぇらでも、健全な一般市民を巻き込んだりはしねぇだろ?!」


 いや、何か知らないけどあんたに、かなり巻き込まれてるんだけど、俺。


「てめぇ……まさか本気でずらかる気じゃねぇだろうな? あぁ?」


 そのオジサンの声は、殺されそうな勢いと、すさまじい冷気と怒気を含んでいた。


 うわぁーい。 超怖い☆


 祐也が顔を引きつらせていると、1番手前にいるスーツのオジサンが懐に手を入れる。こういうシーンは何度かドラマとか映画で見たことがある。


(テレビだと、銃が出てきちゃうんだよね)


 そして撃ち合いに発展するのがお決まりだ。しかし、ここは現実世界の昼の町中で、オジサン達もただのオジサンであって──


「…………」


 訂正。全然、ただのオジサン達じゃなかった。

 そのオジサンが懐から出したのは紛れもない、黒光りする拳銃。祐也は思わず、二度見してしまった。


(う、嘘だろ。もしかして本物の組合的な方々なのか、この人達……)


 祐也の心を見透かしたように、背後のチンピラ男がささやいた。


「騒ぐなよ。コイツら本物だ。もちろん、あの銃もな……下手に動いたら、風穴あくぜ」


 もう、心に風穴があきそうだった。

 銃口が、チンピラ男に向けられている。それはつまり、必然的に、その前にいる祐也にもばっちり向けられているわけで。

 ヤバい。何か涙がこぼれそうだ。さっきの『ぶらり★街めぐり』気分を返して欲しい。


(お願いだから、引金は引かないでくれ)


 多分、人生で一番真剣に祈った。

 しかし祐也の祈りも虚しく、オジサンは少しのためらいもなく引金を引いた。


(ひいぃぃぃ! 引いちゃったよ!)


 チュイン、とすぐ近くで銃弾が地面に当たる音がする。祐也は思いっきり叫ぼうとしたが、恐怖で声が出なかった。


「っっっ!」


 発見、人間は怖すぎる体験をすると声も出なくなる。こんな時にそんな発見なんて、マジでどうでもいいけど。


「街中だぞ?! 発砲するか、普通!」


 チンピラ男は、焦った様子で軽く身を引く。その意見には、祐也も激しく同意だった。


「チッ……しょうがねぇ」


 何がしょうがないのか、口を挟む暇はない。チンピラ男はすぐさま、祐也の手首をひっつかんで近くの路地へと飛び込んだ。


「待て!」


 後ろからオジサン達が追ってくる靴音がする。


(っひゃー!)


 後ろから銃で撃たれるのではないかと正直、気が気ではなかった。もつれる足をなんとか(心の中で)叱咤激励して、全身全霊で走る。


「な、何がっ……どうなって」


 なんとか声を発しても、それしか言えない祐也を無視し、チンピラ男は近くのゴミ収集所に目を向けた。あ、なんか嫌な予感。

 彼は祐也を見てニッと笑った。




「あいつどこ行きやがったぁ!」

「いねぇぞ! 確かにここに入ったのに!」

「探せ! まだ近くにいるはずだ!」


 そう口々に言いながら、スーツのオジサン達の靴音が近くなる。祐也はキュッと唇を噛んだ。


「あんな赤い服着た金髪なんざ、すぐ見つかるはずだ」


 オジサン達が、キョロキョロと辺りを見回して、俺達を探している。祐也は息を殺して、目をきつくつぶった。


(桐嶋大明神様、御厨みくりや大明神様! どうかこの哀れな僕を助けて下さい!)


 とりあえず、名前だけで効果がありそうな友達の名前を挙げてひたすら祈った。どこかの宗教にでも入って念仏を覚えようかと、本気で思った時だ。

 オジサン達は諦めたのか、ため息が聞こえてきた。


「しゃあない。一旦戻るか……引き上げるぞ!」

「あぁ、若に報告だ」


 男たちは口々に返事をし、次第に靴音が遠のいていく。そして靴音が完全に聞こえなくなると、祐也は勢いよく立ち上がった。


「っ……桐嶋、御厨ありがとう! というか、臭っ! ここすんげー臭い!」


 とりあえず、祈った友達にお礼を言ってから、素直な感想を述べた。変なセリフになったが、助かればこの際もうどうでもいい。

 肩で息をする祐也に、チンピラ男はのどを押さえながらしかめっ面で言う。


「仕方ねぇだろ、ゴミ収集所なんだから。あーぁ、一気に汚くなっちまった。おい、お前風呂かせ」


 なんつー尊大な態度なんだ、この人。


「いきなり人巻き込んどいて何言ってるんすか?」


 半ば呆れて言った祐也に、彼は『あぁ?』と声を荒げた。


「てめぇは仕方なしに助けてやったろ。恩は返せ」

「仕方なしにって……あんたが俺を巻き込まなかったら、こんなことにはならなかったんだよ。自分の行動に責任持って下さい。いい大人が」

「俺はまだ24だ。しかもセリフ長ぇんだよ。年寄りか? 年寄りの説教か何かか?」

「年寄りはあんただ。だいたい、名乗りもしないでいきなり風呂かせっておかしくないすか? というか誰って感じなんですけど!」

「お前こそ誰だよ」


 ガンつけるチンピラ男に負けじと、祐也は言い返す。


「俺は工藤祐也ですっ!」


 あ、ちょっと語尾に力入っちゃった。

 チンピラ男は『ほーそうか、工藤か』とつぶやくと、かなりの仏頂面で名乗る。


「俺は玉城たまきだ。玉城さんと呼べ」


 なんつー偉そうな。

 祐也は唖然として玉城さんを見つめた。




 これが玉城さんと俺の衝撃的すぎる、いやむしろ心臓に悪い出会いだった。

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