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霜月の僕の財布と置き引き泥棒 ①


 11月も終わりかけて、特に寒い日だった。

 盟華学園に通う高校生の工藤祐也は、家路につきながら赤く染まる空を見上げた。真っ赤な夕日は、今にも沈んでしまいそうで、どことなく切ない気持ちに……


「なぁ、祐也。コンビニ弁当で新しく出たロコモコ丼と、定番の焼肉弁当、どっちがいいと思う?」


 全然、切ない気持ちにならなかった。


「……ロコモコ丼かな」


 祐也は、嘆息して隣のクラスメートに目をやる。高遠はクラスでも明るくて陽気で、小さなことは気にしないタイプの少年だ。一緒にいると楽しくて明るくなれるが、感傷に浸るには難しい相手である。

 一気に現実に引き戻された祐也の隣で、高遠はまだ悩んでいる。


「そっか、ロコモコ丼か──つか、ロコモコって、なんだっけ?」


 知らんがな。


「ロコモコは、ロコモコでしょ? あの、なんか……ハンバーグと卵みたいな」


 適当に返して、祐也はふと街並みに目を向ける。クリスマスが近づいた街並みは、早くもイルミネーションの設置を行っている最中だ。それを見ていると、年末とクリスマスを実感してしまい、少しだけ切なさとわくわくがない交ぜになった。


「ハンバーグと卵か。うまそうだな」


 こいつからは、切なさも情緒も感じられないが。

 信号待ちで足を止めた祐也は、近くの木を見上げる。木へのイルミネーション設置作業を眺めつつ、打開策を高遠に提示した。


「じゃ、両方食べれば?」

「俺は、そんなに大食いじゃねぇよ」


 高遠ならいけそうな気がするけど。

 嘆息して──ふと、祐也は近くの路地へ目を向けた。そこでは、数人の男達がしゃがみこみ、輪になって何かを覗いている。


(何してるんだろ?)


 祐也は不審に思い、目を鋭くした。男達の中央にあるのは、白い大きな袋で、サンタクロースが背負ってるあれに似ている。そして、中身を検分している男達は、中のプレゼント箱を手に取って何やら話していた。


「…れ、……だろ……」

「売っ……高…値段」


 どうも、自分達の物では無さそうだ。しかも、落とし物――それにしてはデカいが――を、売り払おうとしているっぽい。これは、見過ごせない。


「いやー、焼肉弁当も捨てがたいんだけど……おい、祐也?」


 男達の元へ歩き出した祐也に、まだ迷っている高遠はギョッとしたように声をあげる。それに、祐也は歩きつつ、手を振って言った。


「ごめん、ちょっと用事出来たから先に行ってて!」

「お?……おぉ」


 高遠が頷いたと同時に、信号が青に変わる。怪訝な顔をしつつも、高遠は信号を渡っていった。


「それじゃ、また明日な!」


 大きく手を振った高遠に、手を振り返して、祐也は再度、男達を見やる――さて。

 気をとり直して、たどり着いた祐也は、一番近くにいた男の肩を叩いた。


「お兄さん、何してるの」

「あぁ?」

「何だ、てめぇ」


 いきなり現れた祐也に、男達は不審感もあらわに威嚇してきた。鋭い目で、じろじろと祐也を睨み付けてくる。それに、祐也はにこりと微笑んだ。

 ここは出来るだけ、穏便に済ませたい。


「お兄さん達、それお兄さん達の物じゃないですよね。落とし物ですか」

「お前には関係ねぇだろ」

「引っ込んでろ」


 思った以上に、当たりが強かった。にべもなく、追い払われそうになり、祐也は戸惑いながらも言葉をつなぐ。


「えっと……でも、落とし物なら、持ち主は探さないと」

「うるせぇな。ガキはとっとと家に帰れよ」


 面倒そうに、しかし苛立った様子で男は嘆息する。


「つかさ、お前、どこ校?」

「……盟華の制服じゃね?」


 『盟華』その名前を聞いた瞬間、男達の目が鋭くなった。いわば、獲物を見つけた猛獣のように。


(あ、こりゃヤバい)


 そう思った時には、たいてい遅い。男達は退路を塞ぐように祐也を囲み、にやにやと人の悪い笑みを浮かべている。


(これは……)


 典型的に、絡まれた。

 僅かに眉を寄せた祐也に、目の前の男が口を開く。


「なぁ、盟華って言ったら天才の集団なんだろ」

「あぁ、俺達みたいなチンピラとは違う、お高くとまったエリート様の学校だよ」


 盟華において『天才の集団』も『エリート』も間違った表現ではないが、祐也を見ながら言うのはやめて欲しい。天才というのは桐嶋や御厨みたいなのをいうのであって、決して祐也は天才ではない。

 しかし、そんなことはどうでもいいのだろう。男達はにやりと笑い、祐也をこづきながら、口々に話す。


「エリート様はいいよなぁ、高みで俺らみたいなのを見下ろしてよ」

「そうだよな。そんな下々の俺らに、金でも分けて欲しいくらいだぜ」

「なぁ、お前、財布出せよ」


 言いながら、ぐっと祐也の腕を掴んでカバンを取り上げる。


「ちょ……」


 抵抗しないように祐也を羽交い締めにし、もう一人の男はカバンをあさった。これまた、典型的なカツアゲだ。

 あまりにも典型的すぎて、羽交い締めにされながら祐也は反応に困る。


 これは、こちらも典型的に「やめて下さいよ~」とか涙目で訴えるべきか。

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