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玉城さんのお仕事~不良サンタのトナカイ奪還計画~  作者: 沙槻
最終章・僕の出会ったサンタクロース
27/31

*Epilogue*


 祐也が目を覚ますと、いつの間にか自宅のベッドにいた。


「なんで、家に……?」


 祐也はハッとして時計をつかんだ。時刻は、朝の8時45分を差している。

 12月25日クリスマスだ。


「玉城さんは……」


 いや、それよりも。

 ハッとして祐也は、勢いよく身を上こした。


「沢井さん、どうなったんだろう」


 あれから、玉城さんの特殊能力で眠らされてしまったので、祐也は沢井さんがどうなったのか知らない。しかし、沢井さんの記憶が無くなっていないことに祐也は安堵する。

 忘れていない、夢でもない。

 けれど、沢井さんは無事なのだろうか。祐也の脳裏を、ある不安がよぎる。


 そんな時だ。


 勢いよく電話が鳴って、祐也は飛び上がった。


「わっ!?」


 動悸のする心臓を押さえて、周囲に目を配る。とっさに携帯を確認するが、鳴っているのは携帯ではなかった。リビングにある固定電話だ。

 祐也は深呼吸して己を落ち着かせると、部屋を出てリビングに向かう。しかし、表示されている番号は携帯のもので、知らない番号だった。


「……イタズラか間違い電話かな?」


 不審に思いながらも、祐也は受話器を取る。


『工藤祐也か?』

「……は?」


 いきなりフルネームを訊かれ、思わず切りかけた。しかし、祐也はすんでのところで思い留まる。その声に覚えがあったからだ。


「ケイさん?」


 恐る恐る尋ねるように言った祐也に、樅ノもみのき組の若頭は肯定を示した。


『おう、無事に家に着いていたか?』

「え、ええ。でも、なんでケイさんが俺の自宅の番号を?」


 そこで佐倉は得意げに答えた。


『俺には、調べてわからねぇことなんてないんだよ』


 それは、一般的に違法行為に当たる気がするのだが。たぶん、突っ込まない方がいいのだろう。

 祐也は、受話器を握りしめた。


「あの、沢井さんは……」


 口ごもって最後まで言えなかった祐也の聞きたいことを、佐倉は察してくれる。ハッと鼻で笑って、言った。


『もちろん、撃ち抜いてやったさ』

「そんな――し、死んだ……んです、か?」


 祐也は、思わず受話器を見つめてしまう。その向こうの相手が見える訳ではないが、佐倉は事務所からかけているのだろう。その事務所に、沢井さんはいないのか。

 呆然とする祐也の耳をついたのは、


『クックッ………っははははは!』


 佐倉の笑い声だった。


「え、あの」


 ショックの上に混乱しまくって上手く声すら出ない祐也に、佐倉は涙声で答えた。泣くほど笑ったらしい。


『いや、悪い悪い。沢井は生きてるよ』

「え? でも、いま撃ち抜いたって」

『そりゃ、肩を撃ったって話だよ──勘違いしたら、面白い程度に考えていたが。まさか、死んだと思われるとは』

「だ、だって、あの時は意識がハッキリしてなかったし──勘違いもしますよ!」


 言って、祐也は長く息をついた。

 心臓に悪い冗談はやめて欲しい。でも、


「よかったぁ」


 その場で膝の力が抜けた祐也に、小さく佐倉が笑う。さっきの馬鹿笑いとは違う、親しみのある自然な笑い声だった。


『よくねぇだろーよ。窃盗団に手を貸したケジメに、腕を撃たれたんだしな』

「今は、どうしているんですか?」

『病院で療養中だよ。お前も、暇だったら来るといい。写真、撮りまくるんだろ』


 年末だが、暇じゃなくとも祐也は行くだろう。病院名と病室をメモしながら、祐也は微笑んだ。入院も、きっと佐倉の『ちょっと休め』という優しさからきているのだろう。


「ケイさん、いい人ですね」

『────』


 笑って言った祐也に、しばし黙った佐倉は、ため息混じりに言った。


『俺は、優しくねぇぞ。退院したら、消滅するまで沢井をこき使ってやるんだからな』


 消滅。

 それに、祐也は顔を曇らせた。沢井さんは消滅が近いと言っていたけれど、それは一体どのくらいの期間なのか。


「沢井さん、サンタとして生きる方を選んだんですね」

『選びたかった背中を突き飛ばしてやったのは、お前だろ』


 それを言うなら“背中を押す”だと思うが。わざとのチョイスだろうか。


『まぁ、俺も出来ることは約束してやったしな』

「出来ること?」

『あぁ──どうしても怖くなったら、俺が終わらせてやるってよ』


 明るく言う佐倉は、まるでそんな時は来ないような口調だった。


『あぁ、それと』

「はい?」


 思い出したような調子の佐倉に、祐也は首を傾げる。


『今回、巻き込んじまって悪かったな。詫びといっちゃなんだが、好きな物をクリスマスプレゼントにしてやるよ──指でも何でも持ってきてやらぁ』


 指!?

 あまりにも物騒な内容に、祐也は慌てた。


「い、いいですから! そんなの、悪いですし。というか、指はいりませんからね?!」

『いいから考えておけ』


 有無を言わさずに、切られた。

 ツーツーと鳴る受話器を見つめて、祐也は黙るしかなかった。佐倉さんも、玉城さんに負けず劣らずの強引さだ。

 というか、だ。

 祐也は大切なことを思い出した。


「玉城さん!」


 沢井さんの件に気をとられて、祐也は玉城さんの存在確認を怠っていた。慌てて、自分の部屋に飛び込む。しかし、玉城さんはどこにもいなかった。


「まさか」


 このまま、お別れなのだろうか。そんなの、あんまりじゃないか。

 周囲を見回した祐也は、ふと、枕元に何かが置いてあることに気がついた。それを確認し、手に取って目を丸くする。


「……プレゼント?」


 それは、赤い包装紙に金のリボンがついた箱だった。紛れもない、クリスマスプレゼントだ。


「もしかして、玉城さんが?」


『サンタクロースはいい子の所に来る。僕は嘘つきじゃないから、サンタさんからのプレゼントがあるはずだ』


 あの時、君は嘘つきじゃないよって肯定して欲しくて。

 毎年、毎年、枕元に見覚えのないプレゼントがあることを期待していた。けれど、プレゼントは一度もなかった。

 それで『いないんだ』って諦められたら、どんなに楽だろう。


 そう、何度も思っていた、のに。


「──参ったなぁ」


 玉城さんったら、無意識にそうやって一番欲しいものをくれるんだから。

 プレゼントを見つめて、祐也は微笑んだ。あの時の自分を肯定してもらえないと前には進めないと、立ち止まっていた。

 けれど、プレゼントをもらった今は許されたような気がして、玉城さんに肯定してもらえたような気がして。

 これで、やっと前に進めるのかもしれない。


 ──過去と、向き合う勇気のカタチを、もらえたから。


 祐也はなるべくキレイに包装紙をはがすと、中身を開ける。それは、光を反射してキラキラと輝いていた。

 銀色のネックレスだ。


『2万? 普通に無理』


 昨日、玉城さんと会う前に、そんなことを言って結局買わなかったネックレスである。祐也は感動してそれを握りしめた。


「玉城さん、ありがとう」


 微笑んでつぶやくと、祐也はさっそくネックレスをつける。そうして朝の光を取り込むために、カーテンを開けた。

 すると、


「………………」


 祐也はベランダを見て、固まった。

 うっすらと雪が積もったベランダには、赤い服を着たサンタさん──もとい、玉城さん!?


「ちょっと、何してんですか!? 外にいると凍死しますよ!」


 慌ててドアを開けると、玉城さんは祐也の言葉にものすごい勢いで頷いた。


「やっぱり、こういうのはサッと消えるのがカッコイいだろ!? そしたら予想以上に寒かったんだよ!」


 言って震える玉城さんに、祐也はため息をつく。

 カッコつけると、ろくなことにならないな。呆れたように笑って、祐也は玉城さんに告げた。




「 Merry Christmas 」


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