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玉城さんのお仕事~不良サンタのトナカイ奪還計画~  作者: 沙槻
最終章・僕の出会ったサンタクロース
21/31

玉城さんのお仕事 ④


 前回の話:玉城「人違いなんだぜ!」(ドヤ顔)


「問題はここからだぜ。なんで、組の人間まで売人の目印を知っていた?」

「──あれ」


 確かに、そうだ。それは、おかしい。

 そもそも、宝石泥棒で窃盗団が出てくるのはわかるが、なぜ樅ノ木組が入ってきたのか、謎である。

 しかし玉城さんはそこの答えもつかんでいるらしい。


「窃盗の被害にあったのは、樅ノ木組のシマだ。そりゃ、組がメンツを潰した窃盗団を探すのは納得できる」

「俺は、何で玉城さんが樅ノ木組のシマまで把握してるのか、納得出来ませんけどね」

「ここは俺の担当区域だぜ。触れちゃマズい物件ぐらい知ってる」


 当然のように返されたが、素直に納得できないのは何故だろう。


「ただ、なぜ窃盗団しか知らない情報を組の人間も知っていて俺を追うのか。答えは簡単だ──組を裏切って、窃盗団に寝返ったやつがいるんだよ」

「…………え?」


 やばい。

 玉城さんが見た目に反して、頭よすぎて何を言っているのか、わかんなくなってきた。


「組に窃盗団とつながってるヤツがいるってことだ。組に売人の目印を流したのは、組総出で探した方が手っ取り早く見つかるからだろ。組が捕まえれば『そいつは俺が預ります』って横から取ってけばいい話だ」


 わかったような、わからないような。


 眉を寄せた祐也に、玉城さんは要約する。


「まぁ要するに、組のヤツらはとにかく、目立つ俺から捕まえて情報を得ようとしてた。もしかしたら、窃盗団とつながってる裏切り者がいるってわかってたのかもな──ただ、ここからが大事だぜ」


 最早、話についていくことを諦めて、ぼんやり話だけ右から左に流していた男達に、玉城さんは悪人の笑みを向ける。やっぱり、まっとうな道を歩んできたようには見えないな。

 祐也の考えを読んだように、蹴りが飛んできた。


「あ痛っ」

「本当に誤算なのは、俺が売人なんかじゃねぇってことだ」

「それはさっきも聞いたぜ」

「たまたま巻き込まれたのは、わかったよ」


 うんざり気味の男達に、玉城さんはトドメを差した。


「なら、わかるよな? 俺達は善良な市民なんだ。後ろ暗い所なんてない。堂々と警察に行って、てめぇらの顔や人数、洗いざらい話せるんだぜ」


 男達が、ハッとして玉城さんと祐也を見た。確かに、このまま関係なかったと逃してしまえば、警察に駆け込まれてしまう。

 ならば、どうしてしまえばいいか。方法は、ある。

 気配の変わった男達に、祐也は焦って玉城さんの髪を引っ張った。


「ちちちょっとぉぉ! 何を煽るようなこと言ってんですか!」

「いだだだだ! ハゲるっ……ハゲるって!」


 今はそんなの気にしてる場合じゃない。

 しかし慌てる祐也に対して、玉城さんは冷静だった。こっそりとつぶやくように告げる。


「時間さえ稼げればいいんだよ。かなり時間が稼げたから問題ねぇ」

「問題大アリな気がするんですけど!」


 殺気立つ男達に、祐也はジリジリと後ずさった。そのまま玉城さんを背中にかばうと、目を見開かれる。


「祐也、お前……」

「玉城さんはまだ、縛られているんです。下手に動かないで下さい」


 言いながら、連中からは見えない角度で背後にいる玉城さんにガラス片を渡す。

 玉城さんは受け取りながらも、ギョッとした。


「なんでこんなもん持ってるんだよ」

「縛られる可能性を考慮して、さっき拾っておいたんです」

「──お前、無駄にこういう場面に慣れすぎてねぇか?」


 主に9割方、桐嶋のせいだ。

 黙って前を向いた祐也の背後で、玉城さんは後ろ手に縛られた縄を切っている。

 倉庫内の緊張感が、一気に高まった。そんな時だ。


「あんまり、荒っぽいことはやめてよね」


 言いながら、奥の方から歩いてきた人物に祐也は目を見開く。

 薄い茶髪に、玉城さんと同じ年頃のスーツ姿の青年。見覚えのあるその姿に、呆然とつぶやいていた。


「……沢井さん」

「お前が、組の裏切り者か」


 目を鋭くした玉城さんをスルーして、沢井さんは祐也に微笑みかける。逃してくれた、あの時と同じ笑顔で。


「だから関わるなって、忠告までしてあげたのに……残念だね」


 にこにこと笑っているだけに、何を考えているのか読みにくい。


「貴方、だったんですね」


 目を伏せた祐也に、玉城さんは沢井さんを睨み付けたまま、言った。


「お前、俺と同じサンタだろ」

「え?」


 玉城さんと同じって……沢井さんが、サンタクロース?

 驚きに目をみはる祐也に、沢井さんは薄く笑んだ。何も言わないということは、肯定と取ってもいいのだろう。


「おかしいと思ってたんだよな。いくら人質だからって、トナカイさらっていこうなんて考えねぇしよ」


 確かに、そうだ。いくらトナカイを連れていったとして、9頭ものトナカイを人質しようとは考えないだろう。


「それに、さっきのトナカイを落ち着かせた笛。あれを吹けてトナカイを従えさせることが出来るのは、サンタだけだ」


 なるほど。


「しかも、袋の中身を入れ換えたのもお前だろ。俺は祐也に預けた以外、袋から一回も手を離してねぇ。箱や袋、閉じられた空間の中身を入れ替えることが出来る……サンタの特殊能力だ」


 そんなことも出来るのか。改めて祐也は感心した。サンタクロースの特殊能力って、すごいな。


「サンタなら、ここの地区が俺の担当だってことも知っている。わざと、売人の目印を俺の見た目に合わせるように指示しやがったな」


 ということは、わざと玉城さんを巻き込んだということか。

 縄を切って自由になった手をぷらぷらさせつつ、玉城さんは凄みのある声を沢井さんにぶつける。


「なぜ、こんなヤツらに手を貸した? 裏切るような真似して、俺どころかこいつまで巻き込んで……何がしたいんだよ」

「それはちょっと違うな。この子を巻き込んだのは、俺じゃない、君だよ」

「っ」


 玉城さんが、言葉を詰まらせた。その隙につけいるように、沢井さんは薄く笑う。


「俺が組織を裏切ろうと、窃盗団に手を貸そうと、この子が巻き込まれることはなかったさ。君が、引き込んだんだよ……むしろ、俺は一回、逃したんだけどね」

「────」


 黙って、玉城さんは唇を噛み締めた。それに眉を寄せて、祐也は呆れた声を上げる。


「確かに、巻き込んだのは玉城さんですし、俺を逃してくれたのは沢井さんですよ。でも、心外です」


 祐也は真っ直ぐに、強い目で沢井さんを見つめた。


「巻き込まれることを選んだのは、俺です。玉城さんのせいにされたくありません」

「祐也」


 玉城さんが驚きに目を見開く。

 祐也は、玉城さんを庇って言っているわけではない。自らの意思で、祐也はここに来たのだ。それを、誤解されたくはない。

 祐也の返答に、沢井さんは薄く笑った。


「そう──じゃあ、このまま撃たれても、自分が選んだ末の結果だから納得しちゃうの?」


 流れるような動作で引き抜かれたのは、拳銃だ。その銃口は、しっかりと祐也を狙っている。けれど、残念ながら銃口を向けられることには慣れている。

 落ち着いた様子で沢井さんの目を見る祐也に、僅かに彼の眉が寄った。ぐっと、引金にかかる指に力がこもる。

 そんな、緊迫した瞬間だった。


「そこまでだ、沢井。そこで撃ったら、もう組には戻れねぇからな」

「?!」


 突如、倉庫に響いた声。それに誰もがハッとして顔を向け、驚愕する。


「ケイさん!」


 佐倉啓次。

 そこには、樅ノ木組の若頭が倉庫の入口に悠然と立っていた。

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