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玉城さんのお仕事~不良サンタのトナカイ奪還計画~  作者: 沙槻
最終章・僕の出会ったサンタクロース
20/31

玉城さんのお仕事 ③


「じゃ、行きますよ。せーのっ」


 ガラッと扉を開け、男達が白い袋を開けた瞬間。


『あ~はっはっは』

『あ~はっはっは』

『あ~はっはっは』


 大音量で、笑い袋の音が響き渡った。


「うわっ!」

「なんだ、こりゃ!」

「……笑い袋?」


 驚き、腰を抜かしたのは男達だけではなかった。トナカイ達も、いきなり響いた大音量に驚いて興奮する。


「あ、やべ」


 つぶやいてから玉城さんは、やはりというか、敏感に察知してハッとした。祐也の考えがわかったらしい。

 玉城さんがニヤリと笑ったと同時に、興奮したトナカイが暴れて走り出した。


「あっ…おい!」

「逃げるぞ、待て!」


 トナカイと一緒に祐也と玉城さんも走り出し、男達は慌てふためく。白い袋の中を見ると、笑い袋があるだけで後は適当な缶やらビンや服が詰まっていたからだ。騙された!

 祐也はトナカイの後を追いながら、計画成功の手応えを感じていた、が。

 現実は、そうも甘くなかった。


 ぴーーーーーっ


 笛のような甲高い音が響いたかと思うと、トナカイ達は突然、落ち着きを取り戻したのだ。唯一、先頭を爆走していたトナカイだけが倉庫から出ていき、他の8頭は倉庫内で足を止めてしまった。


「どうして……っ」


 愕然とした祐也の頬を、衝撃と激痛が襲う。男に殴られたのだとわかる頃には、地面で蹴りをくらっていた。


「このガキ……下手に出てれば調子に乗りやがって!」

「おい! 子供に手を上げんなよ!」


 玉城さんが庇ってくれたのか、バキィッという痛そうな音に反して、痛みはやってこなかった。


「……チッ」


 舌打ちして睨む男達に、玉城さんも負けじと睨み返す。そうして、


「大丈夫か」


 顔を覗き込んだ玉城さんに、祐也は眉尻を下げた。


「……ごめんなさい。玉城さん」


 小さな声で、弱々しく言うしかなかった。逃げろと言われたのに勝手に戻ってきて、作戦まで失敗してしまったのだ。

 状況は最悪だというのに、うなだれた祐也を背に庇って玉城さんはニヤッと笑った。


「いいや。お前にしちゃ、最高のアシストだったぜ」


 『お前にしちゃ』って、どういう意味だ。よほど問いただしたかったが、祐也が口を開くよりも、玉城さんの方が早かった。


「なぁ、その前によ。種明かしといこうぜ」

「はぁ? てめぇら、自分の状況わかってんのか!」

「その前に、荷物を寄越せ」


 いきり立つ男達にも、後ろ手に縛られたままだというのに玉城さんは強気に笑ってみせた。


「まぁ、待て。俺達の間には、どうやら誤解があるみたいだ。荷物は後からでも間に合うが、まずはその誤解をとかないと。後々面倒なことになるぜ?」


 最後に脅すようなセリフを付け足した玉城さんに、男達は迷うようにお互いの顔を見る。リーダーは不在なのか、やがて男達は、それぞれにため息をついて頷いた。


「まぁいい。時間はたっぷりあるんだ──聞いてやろうじゃねぇか」

「まず訂正しておくが、俺は宝石の売人じゃねぇ」


 サラッと出てきた単語に、祐也は反応が遅れた。

 早かったのは男達である。


「えぇ!?」

「マジかよ……」


 ギョッとしたように言った男たちに遅れて、祐也はぽつりと尋ねる。


「玉城さん、売人だったんですか」

「だから違うっつってんだろーが!」


 思いっきり、肘で脇腹を突かれた。縛られてなければゲンコツでも降ってきたのだろうが、どちみち痛いことに変わりはない。


「いっ……」


 痛みにうめく祐也は無視して、玉城さんは口を開く。


「最初から説明した方が早いな。とにかく、俺を追い回してる集団は2つあった。仁義と任侠の世界の黒スーツ拳銃組と、街中の不良を集めたみたいなチンピラ集団」

「だれがチンピラ集団だ、てめぇ!」


 あ、でも自分達がチンピラの方って自覚はあるんだ。

 玉城さんは、抗議をスルーして続ける。


「最初は、マジで意味がわからなかった。何で俺が追いかけられなきゃいけねぇのか。俺はまっとうに生きてきた人間なのに」

「……説得力ねぇな」


 呆れたように男がつぶやいたが、それには祐也も賛成だ。しかし、玉城さんは聞こえない振りでいくらしい。


「でも、途中で気がついた。担いでいる白い袋の重さが違ぇ……覗いたら、宝石がぎっしり詰まってた。いつの間にか、中身が入れ違ってたんだよ。超ビックリ」


 俺は、まず荷物が入れ替わったことに、すぐ気づかない玉城さんに超ビックリ。


「それで、思い出した。何日か前に起こった宝石店の窃盗事件。この宝石は、その盗品に違いねぇと」

「玉城さん、盗品って気づいてて、そのまま盗品しょってたんですか」

「それで合点がいった。あいつらは、この宝石を狙って、俺を追い回しているんだと」


 すごい綺麗になかったことにされた!

 むっとした祐也が睨むと、ふくらはぎを踵で小突いて玉城さんは続ける。──地味に痛い。


「まず、組の人間が窃盗に手を出すはずはねぇ。だから、お前らチンピラ集団が宝石店の窃盗団グループで、宝石目当てに俺を追いかけてんだとわかった」


 なるほど、確かにそうだ。

 でも。


「じゃあ、何で玉城さんは組合的な方々にも拳銃まで使って追い回されていたんですか」

「そこだよ」


 初めて、玉城さんが会話に乗ってくれた。

 普段には見られない、理知的な光を帯びた目で祐也を見る。


「問題はそこだ。なんで俺がヤクザにまで追われなきゃいけない? そこが、全然わかんなかったんだよ」


 だが、と玉城さんはニヤリと笑った。


「お前が街中で偶然、俺みたいに金髪でサングラスにタバコのサンタ服の人間を見たって聞いて、ピンときたね」


 そうか?

 祐也は実際に見たのに、その人物を思い出すだけでも凄く時間がかかったのだが。どうやら玉城さんは違うらしい。


「あんたら窃盗団は、盗んだ宝石を流す売人と約束して、うまいこと大量の宝石を持ち歩くカモフラージュをした。今がクリスマスなのを利用してな」

「カモフラージュ?」

「そうだ。盗品は数千万円以上の宝石だぜ? 量は大してないかもしれないが梱包でかさが増してるだろうし、現金で窃盗団に払う札束の分を入れれば、普通の荷物に入る量でもないだろ。つまり、そんな荷物を持っていれば即アウト、職務質問されるだろうよ」


 確かに、それは祐也でも怪しいと思うかもしれない。


「だが、そんな荷物を持っていても怪しまれず、ちょっとくらい不審でも警官には職務質問を受けない方法がある」

「……まさか」


 ハッとした祐也に、玉城さんはニッと口の端をつり上げた。


「サンタだよ。このクリスマスに、サンタの衣装を着たやつなら腐るほどいる。宝石が大量に入っていても、窃盗団に支払う札束のプレゼントが入っていても、サンタの白い袋だったら誰にも怪しまれない」


 安全に、かつ現品をその場で渡すことが出来るということか。


「でも、それじゃ待ち合わせをしても、誰が売人かはわからない。だからちょっとだけ目印をつけさせたんだ」

「目印?」

「金髪でサングラス、タバコっていう目印をな」


 祐也は目を見開いて、玉城さんを見た。

 普通、サンタの衣装でサングラスはかけないし、ましてやタバコなんて吸わないだろう。それが目印だったわけだ。

 そうして、玉城さんはしっかり間違われてしまったわけか。


「祐也が見たのが、本物の売人だったんだろ。見事に俺と入れ違ったみたいだけどな」

「っそーだよ! 元々宝石を渡してあって、中身を確認したら、その足で俺らに金をくれる手筈だったんだ」


 どういった経緯で中身が入れ替わったかは不明だが、同じ白い袋だ。取り間違える可能性は充分にある。そして、見た目が売人の玉城さんは見事、すっぽかされた窃盗団に宝石を持ち逃げしたと追いかけられたのか。

 なんて不運なんだ。


「玉城さん、一回、厄払いしてもらった方がいいですよ」

「余計なお世話だ」

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