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玉城さんのお仕事~不良サンタのトナカイ奪還計画~  作者: 沙槻
最終章・僕の出会ったサンタクロース
18/31

玉城さんのお仕事 ①

 玉城さんってあんな見た目だけど、意外と優しいんだよね。


 そして意外と頭もキレるんだよ。



 時刻は17時58分ーークリスマスまで、あと6時間。


 だというのに、祐也はいまだに、ふらふらと夕闇に輝くイルミネーションの街中を歩いていた。


『いいか、7時だ。7時までに全部持ってこい』


 玉城さんを連れて行ったチンピラは、そう言っていた。

 けれど。


(俺は、どうすればいいんだろう)


 玉城さんは祐也に、これ以上関わらず、警察へ行くよう言っていたが。

 『今まで、ありがとう』、そういった玉城さんの顔が浮かんで、祐也はぐっと拳を握り眉を寄せた。


「そんなん、出来るわけないだろ……!」


 こぼれた心の声は、わずかに上擦って掠れていた。

 玉城さんを放って、自分だけ安全なところで、のうのうとクリスマスを迎えるなんて、絶対に出来ない。玉城さんは、命の危険を感じて、祐也を逃してくれたのだ。わざわざ、他にも荷物があるから、なんて嘘までついて、自分が捕まって。


「玉城さんが、捕まっちゃったら……っ」


 プレゼント、配れないでしょう?

 祐也を助けるために、袋まで手放して、サンタの仕事も出来なくなって。あの時の、何かを諦めたみたいな、苦いものを飲み込んだみたいな玉城さんの表情は。

 それは、きっとサンタの仕事を諦めた決意の顔だ。


『巻き込んで悪かった』


 そんなの、今更じゃないか。さんざん、振り回したくせに。人のこと、ぶんぶん振り回して、目が回るくらい振り回しても足りないくらい振り回したくせに。

 あれだけ、俺のこと巻き込んでおいて。


『今まで、ありがとう』


 そんなの、ずるい。


「……ずるすぎるよ」


 どうせなら、最後まで付き合わせてよ。

 どうせここまで来たんだから、考えた作戦を俺に実行させるぐらい、させてよ。ここで身の危険を感じたら、パッと手放すなんて。


「カッコよすぎで、ずるいよ」


 玉城さんらしくないじゃないか。

 目元をぬぐった祐也は、空を見上げた。冬の夜空は真っ暗で、黒い雲のせいで星すら見えない。


──本当に、これで玉城さんとはお別れするしかないのかな?


 祐也が必死に、打開策に考えをめぐらせていると。


「あら、祐也くん」


 聞き覚えのある声に呼ばれて、弾かれたように顔を上げる。そこには、赤いミニスカサンタ服のお姉さんが立っていた。


「美咲さん!」


 昼間に会った時と違い、サンタ服に合わせた赤いポンチョを着ている。美咲さんはその名前通り、まるで花が咲いたように笑った。そうして、祐也に駆け寄ってくる。


「久しぶり……でもないわね。元気にしてた?」


 優しく、労るように顔を覗き込んだ美咲さんに、祐也は何故か、涙が出そうになった。そんなに心細かったのだろうか。

 祐也は、じんわり温かくなった目元を押さえて、なんとか頷く。それに、美咲さんは苦笑した。


「全然、元気そうじゃないわよ。どーした? 迷子にでもなった?」

「──ある意味、迷子みたいなもんです」


 これからどうしたらいいのか、全然わからない。

 玉城さんの白い袋にはプレゼントではなく宝石が入っているし。それでも、やはり、祐也は玉城さんが宝石泥棒だとは思えなかった。

 玉城さんは何かを確実につかんでいたようだけれど。全く、そこを理解していない祐也が勝手に動いて、それで玉城さんを助けることは出来るのか疑問が残る。


「あまりにも、自分が無力で、情けなくなっちゃって」


 何とか笑った顔は、きっと泣き笑いのようになっていただろう。美咲さんはそれを突っ込むでもなく、あっさりと『そっか』と頷いてくれた。そうして、力一杯、祐也の肩を叩く。


 バシィンッ


「いっ……!」


 痛い!

 痛みに悶える祐也に、美咲さんはいい笑顔で親指を立てた。


「なんか悩みがあるなら、この美咲さんに相談しな」



☆―…―…―…―…―…―…―…―…―☆



「ねぇ、君ってバカ正直すぎ。お人好しもここまでくると、すごく心配」


 事情を話した祐也への、美咲さんの第一声はそれだった。あまりにも率直な意見すぎる。

 美咲さんは不思議そうに、祐也の顔を覗き込んだ。


「第一、サンタクロースですって言われて、よくあっさりと信じられたわね」

「まぁ、通っている学校が盟華なので」


 盟華学園は、何でもありな学校だ。超能力から幽霊、果ては宇宙人がいても納得できる。しかしながら、信じることと、許容して受け入れることは別らしい。


「普通、疑うんじゃない? しかも袋の中身、結局プレゼントじゃなかったんでしょ」


 玉城さんがいつも担いでいる(今は祐也が持っているが)白い袋の中は、宝石が詰まっていた。しかも、樅ノ木組の沢井さんからは『窃盗団の一味の特徴として金髪にサンタ服、サングラス』という前情報すらあったのだ。

 しかし、祐也はそれでも玉城さんをサンタだと信じている。


「騙されたとは、未だに思っていないのね」

「……はい」


 我ながら、信じやすいにも程がある。

 苦笑を浮かべながらも、祐也はハッキリと断言した。


「俺は、玉城さんを信じています」


 同時に、覚悟も決まる。

 ただの高校生の祐也に、何が出来るかなんて分からないけれど。


 玉城さんを、助けに行こう。


 強い光を帯びた祐也の真っ直ぐな目を見て、美咲さんは苦い笑みを浮かべる。


「君は、何でそんなに信じていられるの」


 ぽつりと、つぶやくように言った美咲さんに、祐也もつぶやくように答えた。


「小さい頃に、ただ信じてほしくて。信じてくれると思った人に打ち明けたら、信じてもらえなかったんです。『嘘つき』って、罵られました」


 信じてもらえない側の気持ちを、祐也はよく知っている。


「人が人に到底信じられないような話をする時って、信じて受け止めてほしいからなんだと思うんです」


 信じて、わかってほしい。そんな、祈りにも似たような気持ちが、きっとある。


「この人なら、言っても信じてくれると思ったから、打ち明けてくれているんです──なら、信じるしかないでしょう?」


 優しく微笑んだ祐也に、美咲さんは少しだけ眉を寄せた。切ないような、涙を我慢するみたいな顔。

 それに、祐也は面食らっていると。


「君は、本当に変わらないなぁ」


 独り言のようにこぼした言葉に、祐也は問うような眼差しを向ける。しかし、美咲さんは通常運転に戻っていた。


「それで? 祐也くんは何に悩んで、迷子になってたんだっけ」

「これから、どうすれば玉城さんを助けられるのか、わからなくて」


 約束の時間だけ、刻々と迫ってくる。

 祐也はぐっと拳を握りしめた。

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