玉城さんとの再会 ②
「待てや、コラァ!」
(ひーっ追いかけてきたよ~)
本気で、祐也は泣きたくなってきた。
「ヤクザの次は、チンピラ集団かよ! 一体どうなってんだ!」
それはこっちが訊きたい。
全速力で走りながら、念仏のように、祐也はもはや定番となった祈りを捧げる。
「桐嶋様、御厨様、桐嶋様、御厨様、どうかこの哀れな僕を助けて下さいっ!」
「っせぇよ! お前、いっつもピンチになるとその呪文唱えるのやめろ、夢に出る。つーか、桐嶋と御厨って誰だ?」
「俺の友人です! 二人とも悪運が強くて、名前だけでも効果がありそうなんで」
「あぁ?」
「特に桐嶋なんかは、人を惑わせて困るのを上から楽しんで、ニヤニヤしながら観察して、つんつんつついて遊ぶのが好きな天上人です」
「……お前の友達すげぇな」
なんか引かれた気がしたが、今はそんなのどうでもいい。
「こっちです」
祐也は、さすがに疲れてきた足を叱咤激励して、玉城さんの手を引いた。わざと角をぐねぐね曲がって、目的地まで玉城さんを引っ張る。
「おい、どこに行くつもりだ」
「かくまってもらえる所ですよ」
言いながら、祐也は最後の角を曲がって、すぐ見えたコンビニに飛び込んだ。
「おわっ!」
背後で、玉城さんがコケたが知らない。コンビニの店員の中に、見知った顔を見つけた祐也は、懇願した。
「すいません! ちょっとだけ匿って下さい!」
「あぁ、工藤じゃん。いいよ」
軽く答えた店員は『好きにどうぞ』とカウンターのドアを開けてくれる。すかさず、祐也は玉城さんの襟首を掴んで、レジの下に滑り込んだ。
「痛っ」
玉城さんが勢い余ってレジの壁に額を激突させている。
その間、約4秒。
遅れて来たチンピラ集団は、コンビニに入るも、祐也と玉城さんの姿を見つけられなかった。
「くそっ……いねぇ!」
舌打ちして、バタバタとコンビニを出ていく。
上がる息を整えつつ、祐也は長いため息をついた。逃げ切れた。
心底、ほっとする祐也に
「おい」
低い声がかけられる。見れば、玉城さんがこめかみに青筋を立てて、祐也を睨んでいた。
最初こそ、祐也を引いて走ってくれた玉城さんだが、最終的には祐也に振り回され、コケた上にレジの壁に頭をぶつける始末。
「あー……」
祐也は頬をかいた後、にっこりと笑った。
「すいません。でも、助かってよかったじゃないですか」
「俺のデコと膝は無事じゃねぇんだよ。お前、せめて行動する前に予告しろよ」
玉城さんには言われたくない。祐也はさらっと流すことにして立ち上がる。匿ってくれたコンビニの店員さんに、丁寧にお辞儀した。
「すいません。ありがとうございました」
「いやいや、いいってことよ。つーか、もう慣れたわ」
言ったのは、祐也の知り合いのコンビニ店員で、制服に身を包んだ黒髪の青年だ。胸の名前プレートを確認すると『山田』となっている。
(今日は山田か)
この店員、自分の名前プレートをなくしたらしく、辞めていったバイトや社員の名前プレートを日替わりで付けている変わったお人である。ちなみに、前は水上だった。
「慣れただぁ?」
祐也とは違うところに引っかかった玉城さん(むしろ、それが正常な反応)に、山田はニッと笑う。
「あぁ、何しろ盟華が近いんでな。今日『かくまってくれ』って逃げ込んできたのは工藤で5人目だ」
「ごにん」
「玉城さん、予想外すぎて言葉が頭に入ってないです──俺達が来る前に4人駆け込んで来たってことですか」
後半のセリフは、山田に向けたものだ。
まだ夕方で4人は、さすがに多い。しかし、山田は慣れたものだ。しれっと指折り数えながら言う。
「あぁ、桐嶋とかな。高遠はチェーンソー持ったヤツに追いかけられてたし」
「……高遠、それ、生きてますか」
「たぶん。死にはしないんじゃないか」
すごく心配になった、いま。
午前中から行方不明の友人の現状に、サッと青ざめた祐也へ山田は思い出したように告げる。
「そういや、御厨も来たぜ」
「御厨が?」
「なんか、イチゴパンツ一丁の男と一緒に、警察から逃げてた」
「…………」
御厨、君は一体なにに巻き込まれてしまったんだ。
「まぁ、変質者じゃないなら、いいですけど」
「いいのか、それで。つか、お前の友達どうなってんだよ」
どうとも言えない。
「まぁ、御厨に関して言えることといえば、すごく変質者に好かれやすいってことですかね」
「あいつ、顔だけは儚い美少年だもんな。中学時代にストーカーとか露出狂に付け狙われたり誘拐されたり、まぁ災難だった」
「…………」
祐也と山田の会話に、玉城さんが黙った。何と言えばいいのか、考えているようだが出てこないらしい。
「まぁ、お前も気を付けろよ」
「大丈夫です。御厨みたいに美人じゃないので」
肩をすくめた祐也は、脱線しまくった話を戻すことにした。
「というか玉城さん、ヤクザだけじゃなくチンピラ集団まで、俺達を追いかけてくるなんて。どうなってるんでしょう?」
「なぁ、俺ちょっと、トイレ行ってくるわ」
空気読めよ。
ため息をつきかけて、ぽいっと白い袋を渡された。
「え、ちょ……」
慌てて、受け取る。
玉城さんがいつも担いでいる白い袋は、意外とずっしりと重かった。
「あ、トイレはそっちの棚右に曲がった突き当たりだから」
「へーい」
山田と玉城さんの会話を聞きながら、祐也はじっと袋を見つめる。
(そういや、高校生助ける時に、袋で頭を殴ったって言ってたよな)
この重量で頭を殴りつけられて、その人は果たして大丈夫だったんだろうか。祐也は思わず、血痕を探してしまった。そうして、血がついていないことに、本気でほっとする。
よかった、玉城さんは殺してない。
『嘘だと思うなら、袋の中身をのぞいてごらん。きっと、盗んだ宝石が入っている』
ハッと祐也は顔を上げた。なんで、いま、それを思い出すんだ。
祐也は玉城さんを信じている。でたらめな嘘をついて、騙すような人じゃない……でも。
祐也は好奇心にかられ、ちらりと袋の中をのぞいてみた。
瞬間、心臓が止まるかと思った。
中身はプレゼントの箱ではなく、梱包された宝石が、たくさん入っていた。
よく祐也がピンチになると度々唱えている呪文(お祈り)ですが、あれは現在連載中の他シリーズ『Black*Hero』の主人公の名前です(御厨)。元々、主人公同士が知り合いで特に『Black*Hero~Xmas番外編~』と今作は内容が同日でリンクしていたりします。
本編が終わってないのでXmas番外編はまだ転載していませんが、その内転載出来たらなーと思います。