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玉城さんのお仕事~不良サンタのトナカイ奪還計画~  作者: 沙槻
第3章・拉致られた俺と、拉致しに行ったサンタさん
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玉城さんとの再会 ①


 玉城さんって、単純そうで明るくて何も考えてないみたいに見えていたけど。


 どうやらそれは、俺の勘違いだったらしい。


前回の話:玉城さんは、窃盗団の人間で、俺は騙されている――と、言われた。けど、俺は……


 果たして、4時の公園に玉城さんはいた。

 噴水の縁に腰を掛けて、ぼーっとしている。その様子を見るに、ボコって居場所を吐かせよう作戦は成功しなかったようだ。


『君は、騙されたんだよ』


 沢井の言葉が脳裏をよぎったが、祐也はそれを無理やり頭から追いやった。玉城さんに限って、そんなことをするはずはない。


(俺は、玉城さんを信じてる)


「玉城さん!」

「おー工藤」


 駆け寄る祐也に、玉城さんは険しい表情を浮かべていた。かと思えば、ため息混じりに言う。


「どうも、俺もヤキが回っちまった」

「は?」

「いや、なんか一人で街をふらふらしてたらよ、男に絡まれてる高校生を見つけちまってさぁ」

「はぁ」


 話が見えなくて、とりあえず相づちを打つ祐也に、玉城さんは憂鬱そうだ。


「それが女子高生なら、すぐ助けてたさ、速攻で。でも男子高生なら、いつもは助けに行くまでしなかったんだけどなぁ」


 つまり、スーツ野郎ハント作戦中に、絡まれた男子高校生を見つけて、普段はしないような人助けをしたらしい。祐也は首を傾げた。


「いいことじゃないですか」

「袋で思いっきり頭殴っちまったしなぁ。何よりよ、そう、お前だお前」

「は?」


 指を差され、祐也は面食らう。


「お前と同じ年頃の高校生で、見たことねぇぐらい美人っつーか美形だったんだよ。絵に描いたような美少年。漫画なら後ろに花をしょってたね、絶対!」

「はぁ」

「だから、つい助けちまった、普段しねぇのに」


 ため息をついて、玉城さんはつぶやいた。


「お前に、感化されちまってんのかなぁ」

「何でそんなに絶望して言うんですか」


 失礼な。いいではないか、人助け。


「それに、つい大勢で追いかけられて逃げ切っちまったし……はぁ」


 ため息が重い。

 祐也は申し訳なく思いながら、成果を報告した。


「あの……俺も、トナカイがいそうな場所は方角くらいしかわかりませんでした」


 ヤクザに拉致されて、玉城さんは宝石泥棒として奴らに追われているということを、言うべきかどうか。悩んで、祐也は言わないでおくことにした。

 結局、肝心のトナカイの居場所はつかめていないのだ。これ以上、マイナスな情報を出しても可哀想だろう。

 玉城さんは、力なく頷いた。


「そうか。方角がわかっただけでもいいんじゃね」


 言葉とは裏腹に、玉城さんの表情は暗い。手で顔を覆って天を仰ぐ。


「──はぁ」


 だから、ため息が重いっつーに。

 作戦が二度も失敗して、玉城さんはブルーになっているらしい。そうなるのも仕方ない気もするが。

 嘆息して、祐也は周囲に目を向けた。周りは、気持ちいいくらいに、平和なクリスマスイブの街並みだ。隣では、ちょうど赤い夕日が玉城さんのサングラスに当たって輝いている。

 祐也はその様子を見て思い出した。そういえば。


「そういえば、玉城さんに会う前に同じような格好の人とすれ違いましたよ。サングラスに白い袋背負った人」


 あの時はなんとなくで済ましたが、よくよく考えると珍しい気がする。

 普通、サンタの衣装を着てサングラスはないだろう。しかも、あの白い袋リアルに何か入ってたし。


(あの人、やっぱりどっかで見たような気がするんだけどなぁ)


 思い出せそうで、思い出せない。うーんと唸り、祐也がモヤモヤしていると。

 ガシッと、思いっきり玉城さんに肩をつかまれた。


「痛っ…とれる! 肩が抜けますって!」


 玉城さんはドスのきいた声で尋ねる。


「工藤、お前今なんつった」

「え? べ、別に何も……ただ、子供達に引っ張られてった人が、玉城さんと同じような格好してたなぁって」


 俺なんかした? 玉城さん、かなり怖いんだけど。

 玉城さんはしばらく祐也を見つめると、ようやく手を離した。


 あーやっと解放されたよ。

 内心ホッとして玉城さんを見た。機嫌の悪い玉城さんに八つ当たりでもされたら相当な、心と体に消えない傷と重度のトラウマが出来そうだ。

 玉城さんは、突然、ニヤリと笑った。


「なるほどな、そういうことか」

「はぁ?」


 隣でつぶやく玉城さんに、祐也は怪訝な表情を向けた。今の俺の言葉で、一体何がわかったと言うのか。全く、わからない。

 祐也の困惑をよそに、玉城さんは笑ったまま、タバコに火をつける。


「だからな、つまり──っ?!」


 ハッとして玉城さんが息を呑んだ。

 同時に祐也の頭をつかみ、そのまま地面に倒れ込むように伏せる。


「っ……うわ!」


 公園の砂利にもろに突っ込んだ祐也と玉城さんの頭上を、何かが勢いよく通過する。

 びゅんっという、風を切る音だけが響き、祐也は視線だけ向けた。そこにはたいそう人相が悪い、ジャージを気崩した、いかにもチンピラですという男達が数人。祐也と玉城さんを睨み付ける男の手には、金属バットが握られていた。

 もしかして、もしかしなくとも、いまそのバットで俺と玉城さんの頭を殴ろうとしてた?

 思わぬ襲撃に、目を見開く祐也の腕を玉城さんが引っつかむ。


「っ工藤! 逃げるぞ!」

「はい!! 言われなくても!」


 かろうじて返事だけして、二人は良いスタートダッシュを切った。

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