玉城さんとの再会 ①
玉城さんって、単純そうで明るくて何も考えてないみたいに見えていたけど。
どうやらそれは、俺の勘違いだったらしい。
前回の話:玉城さんは、窃盗団の人間で、俺は騙されている――と、言われた。けど、俺は……
果たして、4時の公園に玉城さんはいた。
噴水の縁に腰を掛けて、ぼーっとしている。その様子を見るに、ボコって居場所を吐かせよう作戦は成功しなかったようだ。
『君は、騙されたんだよ』
沢井の言葉が脳裏をよぎったが、祐也はそれを無理やり頭から追いやった。玉城さんに限って、そんなことをするはずはない。
(俺は、玉城さんを信じてる)
「玉城さん!」
「おー工藤」
駆け寄る祐也に、玉城さんは険しい表情を浮かべていた。かと思えば、ため息混じりに言う。
「どうも、俺もヤキが回っちまった」
「は?」
「いや、なんか一人で街をふらふらしてたらよ、男に絡まれてる高校生を見つけちまってさぁ」
「はぁ」
話が見えなくて、とりあえず相づちを打つ祐也に、玉城さんは憂鬱そうだ。
「それが女子高生なら、すぐ助けてたさ、速攻で。でも男子高生なら、いつもは助けに行くまでしなかったんだけどなぁ」
つまり、スーツ野郎ハント作戦中に、絡まれた男子高校生を見つけて、普段はしないような人助けをしたらしい。祐也は首を傾げた。
「いいことじゃないですか」
「袋で思いっきり頭殴っちまったしなぁ。何よりよ、そう、お前だお前」
「は?」
指を差され、祐也は面食らう。
「お前と同じ年頃の高校生で、見たことねぇぐらい美人っつーか美形だったんだよ。絵に描いたような美少年。漫画なら後ろに花をしょってたね、絶対!」
「はぁ」
「だから、つい助けちまった、普段しねぇのに」
ため息をついて、玉城さんはつぶやいた。
「お前に、感化されちまってんのかなぁ」
「何でそんなに絶望して言うんですか」
失礼な。いいではないか、人助け。
「それに、つい大勢で追いかけられて逃げ切っちまったし……はぁ」
ため息が重い。
祐也は申し訳なく思いながら、成果を報告した。
「あの……俺も、トナカイがいそうな場所は方角くらいしかわかりませんでした」
ヤクザに拉致されて、玉城さんは宝石泥棒として奴らに追われているということを、言うべきかどうか。悩んで、祐也は言わないでおくことにした。
結局、肝心のトナカイの居場所はつかめていないのだ。これ以上、マイナスな情報を出しても可哀想だろう。
玉城さんは、力なく頷いた。
「そうか。方角がわかっただけでもいいんじゃね」
言葉とは裏腹に、玉城さんの表情は暗い。手で顔を覆って天を仰ぐ。
「──はぁ」
だから、ため息が重いっつーに。
作戦が二度も失敗して、玉城さんはブルーになっているらしい。そうなるのも仕方ない気もするが。
嘆息して、祐也は周囲に目を向けた。周りは、気持ちいいくらいに、平和なクリスマスイブの街並みだ。隣では、ちょうど赤い夕日が玉城さんのサングラスに当たって輝いている。
祐也はその様子を見て思い出した。そういえば。
「そういえば、玉城さんに会う前に同じような格好の人とすれ違いましたよ。サングラスに白い袋背負った人」
あの時はなんとなくで済ましたが、よくよく考えると珍しい気がする。
普通、サンタの衣装を着てサングラスはないだろう。しかも、あの白い袋リアルに何か入ってたし。
(あの人、やっぱりどっかで見たような気がするんだけどなぁ)
思い出せそうで、思い出せない。うーんと唸り、祐也がモヤモヤしていると。
ガシッと、思いっきり玉城さんに肩をつかまれた。
「痛っ…とれる! 肩が抜けますって!」
玉城さんはドスのきいた声で尋ねる。
「工藤、お前今なんつった」
「え? べ、別に何も……ただ、子供達に引っ張られてった人が、玉城さんと同じような格好してたなぁって」
俺なんかした? 玉城さん、かなり怖いんだけど。
玉城さんはしばらく祐也を見つめると、ようやく手を離した。
あーやっと解放されたよ。
内心ホッとして玉城さんを見た。機嫌の悪い玉城さんに八つ当たりでもされたら相当な、心と体に消えない傷と重度のトラウマが出来そうだ。
玉城さんは、突然、ニヤリと笑った。
「なるほどな、そういうことか」
「はぁ?」
隣でつぶやく玉城さんに、祐也は怪訝な表情を向けた。今の俺の言葉で、一体何がわかったと言うのか。全く、わからない。
祐也の困惑をよそに、玉城さんは笑ったまま、タバコに火をつける。
「だからな、つまり──っ?!」
ハッとして玉城さんが息を呑んだ。
同時に祐也の頭をつかみ、そのまま地面に倒れ込むように伏せる。
「っ……うわ!」
公園の砂利にもろに突っ込んだ祐也と玉城さんの頭上を、何かが勢いよく通過する。
びゅんっという、風を切る音だけが響き、祐也は視線だけ向けた。そこにはたいそう人相が悪い、ジャージを気崩した、いかにもチンピラですという男達が数人。祐也と玉城さんを睨み付ける男の手には、金属バットが握られていた。
もしかして、もしかしなくとも、いまそのバットで俺と玉城さんの頭を殴ろうとしてた?
思わぬ襲撃に、目を見開く祐也の腕を玉城さんが引っつかむ。
「っ工藤! 逃げるぞ!」
「はい!! 言われなくても!」
かろうじて返事だけして、二人は良いスタートダッシュを切った。




