玉城さんと別行動 ③
多々良になぜられ、その力の強さに頭がぐらんぐらんする。無理やりその腕から抜け出して、祐也は強引に話を戻すことにした。
「そうじゃなくて、えーっと……ケイさん、トナカイに会わせてくれませんか」
結局、若頭のことを『ケイさん』とやや馴れ馴れしく呼んでしまったが、不満はないらしい。佐倉はため息をついてタバコをくわえた。
「会わせらんねぇな」
「なんでですか?!」
「悪いが、組の人間でもないやつに、強奪品の場所を教えるほど優しくねぇんだ」
それに、と若頭は弱ったように頬をかく。
「ぶっちゃけ、俺が管理してるわけじゃねぇしな。鹿の管理は沢井に任せ──」
「だから、鹿じゃなくてトナカイだって」
すかさず、訂正を入れて入ってきた人物に、祐也は目を向ける。
薄い茶髪に、スーツの玉城さんと同じ年頃の青年だ。呆れたような表情をする彼に、佐倉は顎をしゃくった。
「沢井、こいつを保護しといてくれ」
「あんたね。トナカイといい高校生といい、俺に保護をどんだけ任せれば気が済むの?」
「それで、多々良はチームB班と合流して『玉城さん』とやらを探せ」
沢井の訴えは、華麗にスルーされてしまったようだ。指示をして、にわかに組内が騒がしくなる中、沢井は深く長いため息をついて、祐也を見た。
「まぁ任されたなら仕方ない。とりあえず、こっちに来てもらおうか」
軽く手招きされ、祐也は大人しくついて行くことにした。執務室を出て、廊下を歩く。沢井は、歩きながら大きなため息をついた。
「本当、クリスマスイブだってのに、トナカイの世話はするわ、窃盗の被害には遭うわ、大変だよ」
「……窃盗?」
「そう、窃盗」
にこにこと笑うだけで、沢井はそれ以上は語ろうとはしなかった。
自然と、会話も途切れる。コツコツと、廊下を歩く足音だけが響いた。祐也は、さりげなく周囲を見回す。物珍しそうにきょろきょろ見るふりをして、頭の中では冷静に建物内の地図を組み立てていく、と。
あるドアの前で、沢井が立ち止まった。つられて、祐也も足を止めると、沢井はくるりとこちらを振り向く。
「ねぇ、忠告してあげる」
「え?」
キョトンとする祐也に笑って、沢井はドアを開けた。その先に広がるのは。
「……外?」
薄暗い灰色のビル壁に、せまい路地。勝手口だとわかって、祐也は目を見開いた。
(まさか、逃してくれるのか)
あまりの展開に固まる祐也に、沢井はやはり笑っている。
「悪いことは言わない。あのサンタ服とは、もう関わらない方がいいよ」
「え?」
サンタ服とは、玉城さんのことだろう。しかし、関わるなとはどういうことか。
怪訝な表情を浮かべる祐也に、淡々と沢井は言った。
「三日前、うちのシマで宝石店に窃盗団が入った。かなりの商品が盗られてた」
樅ノ木組のシマというのは初耳だが、窃盗の事件自体は祐也も知っている。
「うちの管轄で窃盗されたんだ。皆、犯人を探している。そこでわかった、その窃盗団の人間の特徴を教えてあげよう」
なんか、嫌な予感がする。
自然と早まる心臓を押さえた祐也に、やはり沢井は笑いながら告げた。
「赤いサンタの恰好に金髪、サングラスをしているんだって」
目の前が、一瞬だけ暗くなった気がした。つまり、この人達が玉城さんを追いかけ回しているのは。
(玉城さんが、窃盗団の一員で、宝石泥棒だから?)
「本当に、サンタクロースだなんて馬鹿げた話を信じたの?」
黙る祐也に、沢井はそっとささやいた。
「嘘だと思うなら、袋の中身をのぞいてごらん。きっと、盗んだ宝石が入っている──君は、騙されたんだよ」
騙された?
何を言っているのか、全然頭に入ってこない。
半ば、放心している祐也の背を軽く押して、沢井は小さく手を振った。
「君は巻き込まれただけだ。まだ間に合う。平和に生きたいなら、もう玉城とは関わらない方がいい」




