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玉城さんのお仕事~不良サンタのトナカイ奪還計画~  作者: 沙槻
第3章・拉致られた俺と、拉致しに行ったサンタさん
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玉城さんと別行動 ②


前回の話:「玉城さんはサンタさんなんですよ!」「え……あ、うん……え?」


 全力でサンタを主張するという失態をやらかした祐也は、今更ながらその沈黙に耐えられなくなってきた頃。若頭が深く長い溜息をついた。祐也の肩に手を置いて、真剣な顔で告げる。


「お前、何か変な物でも食ったんだろ。それとも、疲れてるのか。なんなら、うちのソファで寝ていってもいいぞ」

「食べてないし、妄言を口走るほど疲れてもないですよ! なんですか、その哀れんだモノを見る目は。なんでちょっと優しいんですか」


 置かれた手を払いのけたい衝動にかられたが、なんとか我慢した。若頭は、自信満々にサンタと言い切った祐也に優しい、労るような眼差しを向ける。

 何故か、ほっとしたような顔。


「そう思ってんなら、それでいいさ」


 そうつぶやいた言葉に、何か含みがある気がして。

 祐也は怪訝な顔をした。


「あの、何かあるんですか」


 心配になって思わず訊いた祐也に、なんとも言えない空気が流れる。


(そういえば、そもそも俺を連れてきたのは『保護』する為みたいに言ってたけど)


 保護とは、一体祐也を何から守るためなのだろう。しかも、若頭の意味深なセリフも気になる。


「──玉城さんに、何の用があって追い回しているんですか」

「お前は知らなくていい」


 ズバッと核心に触れた祐也に、返ってきたのはそっけない返事だ。それに、ややむっとして祐也は言い返す。


「玉城さんは身に覚えがないって、言ってましたよ。一般人に銃向けて追い回して、ただの高校生の俺まで拉致ってきて何が目的なんですか。トナカイまで奪って──」


 そこで、祐也はハッと息を呑んだ。

 そうだった、忘れてた。


「そう、トナカイ!」


 よく考えてみなくとも、この人達は玉城さんからトナカイを奪った張本人だ。この機会にそれを訊かずにどうする。

 思わず叫んでいた祐也に、若頭は深いしわを眉間に刻んだ。


「んだよ。文句言い始めたと思ったら、今度はなんだ」

「トナカイです! 玉城さんから奪ったトナカイ!! どこにいるんですか……まさか」


 ある想像が頭をよぎって、祐也はサッと血の気を引かせた。震える手で、若頭を指差す。


「もしかして、食べ……」

「食べるか、んなもん! お前、俺のこと何だと思ってんだ!」


 樅ノ木組の若頭としか思っていないが。

 とりあえずトナカイは存命なようなので、祐也はほっと胸をなでおろした。


「よかったぁ……出来れば居場所とか教えて頂けませんか。えーっと」


 若頭をどう呼べばいいかわからなくて、祐也は言葉を詰まらせる。若頭は、それを敏感に察知したのか、苦々しい表情を浮かべた。


「そういや、まだ名乗ってなかったな」


 何故か、嫌そうに舌打ちして言われる。


「──佐倉 啓次だ」


 さくら けいじ。

 思わず、祐也は吹き出しかけた。そうして、何故あそこまで名乗るのを嫌そうにして舌打ちまでしたのか、理解する。ヤクザの若頭で、桜の大門がトレードマークの警察を連想させる『さくら』を名字に持ち、名前は『けいじ』だ。

 ここまで、職業と一致しない名前もないだろう。


「若って呼べ」


 呼ぶ前から、釘をさすように言った若頭、佐倉に祐也はぶんぶんと首を横に振った。


「いえいえ、俺、ここの組の人間じゃないんで。さすがに『若』呼びはちょっと」


 納得したらしい。

 祐也は提案してみた。


「あ、じゃ名字でもいいんじゃないですか。佐倉さんって」

「却下だ。俺はその『さくら』っていう女の名前みたいな名字が嫌いなんだよ!」

「じゃ啓次さんで」

「刑事みたいだろ。ケンカ売ってんのか、てめぇ!」


 売ってるつもりはないが。名字も名前も嫌いとは、なかなか呼び名が難しい人だ。


「では何て呼べば……」


 困った祐也に、柔らかい声が響いた。


「ワタシは、ケイちゃんって呼んでるけど」


 ふと顔を上げると、薄い茶色の髪を背中に流した美人が立っていた。黒のパンツスーツに、フリルのついた白いブラウスを着ていて、恐ろしいほどの美しい人だった。


「ケイちゃんって呼ぶなと言ってるんだがな、多々良」


 多々良と呼ばれた美人は、にっこり笑って祐也の元まで歩いてくる。そうして、そっと頬に手を伸ばして微笑した。


「可愛いわね、好みだわ。ワタシ、高校生って大好きよ。ねぇ、お姉さんと遊ばない?」


 年上の美人からそう誘われれば、男子校生なら即座に頷くだろう──けれど。


(男、だよな)


 さすが盟華にいるだけあって、完璧な女装でも哀しいかな、祐也は見破ることが出来てしまった。

 丁重に、お断りする。


「あの、お兄さんのお誘いは嬉しいんですが。今回は遠慮します」

「お兄さん?!」


 ギョッとした組の面々に、祐也は自分の勘違いなのかとヒヤリとした。しかし、当の本人は、感心したように肩を叩く。


「すげぇな、お前。一目で俺の性別を見抜くとは、もしかしてソッチの人間かぁ?」


 エラいエラいと頭をなぜられて、祐也は勘違いされているような複雑な気持ちになる。

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