*Prologue*
ひらひら、ひらひら……
ヒラヒラ、ヒラヒラ……
雪が降る。
まるで、春に桜の花びらが舞うみたいに。
ひどく美しいけれど、何故かひどく哀しくて──切ない。
もうろうとする意識の中、目の前ではタバコ片手に笑う青年がいた。
まるで何かをごまかすような、平静を装って笑った顔は苦しみを耐えるように歪んでいる。
その青年の赤い服が、雪の白に映えて……
あぁ、なんで。
なんで、俺こんなことになったんだっけ?
真冬の夜空に、乾いた銃声が響いた。
12月が、好きだった。
「あら、過去形なのね」
公園のベンチで、隣に座る美咲さんが笑いかける。
彼女の真っ赤なミニスカートのサンタ姿に合う、赤い帽子の白いぼんぼりが笑った拍子に揺れた。
「12月って、クリスマスもあって年末で慌しくて。何か、その騒がしさみたいなのは、今でも結構好きですよ」
それに、たまに降る雪は綺麗だ。
ふわふわとした白い雪が舞っているみたいで。まるで、スノードームの中にいるみたいな気分になれる。
特に、夜になって降る雪は、上を見上げると夜空に白い綿が一面に散りばめたようになっていて、無駄に感動した記憶がある。
「でも、クリスマスが──いいえ、サンタクロースが嫌いなのね。違う?」
にやり、と笑いながら指摘した美咲さんに、俺は苦い表情を浮かべる。
「当たりなようで、ハズレです」
「やった! 当たった! 景品はケーキ1個ね」
「ハズレだって言ってるでしょ。景品なんて最初からないです」
苦い思い出を吐き出すように、嘆息して言った。きっと、その表情は眉がハの字になって、情けない顔になっている。
「サンタさんのことを考えると、複雑な気持ちになっちゃうだけなんですよ」
むしろ、小さな頃は純粋に憧れていた。
「子供の頃、12月は寝る前に読む絵本や児童書が、必ず我が家ではサンタクロースの本だったんです」
本の中のサンタさんは、おっちょこちょいだったり、真夏はハンモックで寝ていたり、たまに煙突にはさまったりして、どのサンタさんも読んでいて飽きなかった。
そして憧れもしたし、来ることを期待して待ってもいた。
けれど、それは8歳の冬に大きな変化を迎える。
「本当のことなのに親に信じてもらえなくて、嘘をつくなって大喧嘩になっちゃって……その時、季節柄、思ったんですよね」
サンタさんは、いい子の所に来てくれる。だから、嘘つきじゃない僕の所には来てくれるはずだ。
「だから、サンタさんのプレゼントを見せれば、自分は本当のことを言ったんだって証明になるんじゃないかな、と」
「でも、サンタは来なかった」
それに、苦笑いを浮かべる。
小さな子供が、たまたま季節的にすがったのがサンタクロースで、そのプレゼントが無実の証明代わりだなんて。
「「歪んだ子供時代だなぁ」」
綺麗にハモって、俺は思わず美咲さんと笑ってしまった。
本当、俺ってクリスマスに因縁でもあるのかな。
内心、ため息をついて夕日も落ちた街へ足を踏み出した。
たった今までいた建物を見上げ、ぐっと拳を握って前へ進む。門を越えると、そこに背を預けて待っていた美咲さんが、白い袋を差し出した。
「中身作ってくれて、ありがとうございます」
「まぁね。私が言い出したし」
まるでサンタクロースが担いでいるソレを、同じように肩に担ぎ『行ってきます』と美咲さんに手を振る。
すると、美咲さんは大きく手を振り上げ──思いっきり俺の背中に振り下ろした。
「ぐぇっ」
バシィッと、いい音が頭蓋骨まで響く。
駆け抜ける痛みに悶絶して、涙目で振り返った俺に美咲さんはいい笑顔でサムズアップした。
「行ってきな!」
はい、と返事をして俺は小さく笑う。人差し指を立てて、秘密の告白のように付け足した。
「本当は、まだサンタさんが来るのを待ってるんですよ、俺」
でも、待ってるだけじゃダメみたいだ。
脳裏に、金髪をなびかせタバコをくわえた不機嫌そうなサンタクロースが浮かび、俺は思わず笑った。
「待っても来ないから、今年は俺が迎えに行こうと思います」
傍若無人で不器用で、意外とお人好しかと思えばカッコ悪いところもあるサンタさんを。
現在、12月24日18時39分──事の始まりは、9時間程前に遡る。
ちょっと重いのは最初のこの部分だけなので、後は羽のように軽いギャグコメディが続きます。
気になった方は、是非また読みにきて下さい。