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#1-9

「…アリスねぇ。聞いたことが……あるぞ。おい」

 アリスの名を聞き明らかに驚愕する。

「アリスってまさか。不思議の国のアリス。消えた物語のひとつじゃねかよ」

「えぇ、そうよ。存在していたはずの物語よ」

「そしてその名前ってことは子孫か何かってことだろ。そうすっとだ。お前はプラムケーキ公国の姫様か何かってことだよな」

「私はプラムケーキ公国次期女王よ。つまり今はただの少女よ」

「何がただの少女だ。そんなただの少女が聖剣をふれるかよ」

 嘲り笑うようにボアレは笑う。さっきあんな尋常じゃない速さで聖剣を自分に斬りつけてきた少女だ。ただの少女なわけがない。

 そんな二人の対峙を知ってか知らずかタイミングよくハツセとアロンが仲良くそろってきて、来るなりアリスに目が行くと二人とも不思議そうな目でアリスを見る。

「およよ? そちは誰じゃ」

「ボアレ兄さん。こんなとこでもナンパ。本当に懲りないよね」

 アロンはボアレへハツセは初対面のアリスのもとへと行く。

「そんな余裕なんてあるわけないだろ。アイツは聖剣使いだ。よく右手に持ってるモンを見てみろ」

「右手…って! アレ」

「だから言ってんだろアイツは聖剣使いだって。そんな聖剣使い相手にボクはナンパできるような度胸や勇気なんて生憎と持ち合わせてないもんでね」

「はは。確かにそうだね」

 アロンはそんなボアレの言葉に空笑いで返事をする。自分たち二人の力を合わせてもいくら聖剣使いと同等の力を持つ特異魔法士とは言えど魔法士はテラーと言う魔力が切れたらそこで終了だ。攻撃の手段が完全になくなる。対して聖剣使いは戦う意思や生きる意志が続く限りその身を削ってでも攻撃し続けることができる。しかもそれが聖剣だ。ただの剣士とは雲泥以上の差ある。一人を相手にするだけでも厄介なのにそれが二人にでもなったら……。

 そんなアロンとボアレの内心の焦りを知らずにハツセとアリスはゆったりと話し合う。

「お主は一体誰じゃ? どうやら、童と同じく聖剣を持っているようじゃが」

 そう言って、天之尾羽張と伊都之尾羽張をアリスに見せるハツセ。それに倣うようにアリスも自身の聖剣が見やすいように上げてみせる。

「私はアリス・キャメロット。プラムケーキ公国の次期女王です」

 その異常に綺麗な金色の髪を揺らしながら言うアリス。

「…お主があの。風の噂で聞いてはおったがまさか主のような幼子とは。…年端はシャルルと同じぐらいじゃのう」

「シャルル?」

「何、会えばすぐわかるでの。楽しみにしておれ。それに今は目の前にいる童の名の方が気になるであろう」

 ハツセは聞いてほしげに、ほれほれ。と、アピールをアリスに向かってする。そんなあからさまなアピールをされては気付きたくない物も気付いてしまう。

「えっとー。気になりますわ」

「よし、よかろう! 童の名はハツセ・カンノン。カワチネヤ帝国現國主にしてツボセ藩藩主じゃ」

 ハツセは、フンスと、鼻息をたてドヤ顔をし、聖剣でそのニヤついた口を隠しつつ自慢する。

「じゃ、女王ってことよね」

「他国ではその地位に値するかの」

 アリスは信じられなかった。見た目的な話で言えば下手したら自分の少し年上のお姉さんぐらいの人だ。それなのに女王と騎士団長をやっているとは。

 今のアリスには想像もできなかった。

「…お前ら。もういいか? 一応待ってはいるんだけど」

「およ。すまぬな。しかして、主よ。そんな死に急がなくてよかろうて」

「よし、姫様。今からぶっ殺す」

 中指をたて怒りをあらわにしハツセに向けて今にも襲い掛かりそうなボアレ。そんなボアレの横では不気味に静かに小さく笑うアロン。

「じゃ、ボクはあのアリスを殺ればいいんだね」

「おう。どうせアイツは僕達よりも殺し慣れてないからな。きっと簡単に殺せる」

「わかったよ。ボアレ兄さん」

「主らの話もどうやら終わったようじゃな」

「律儀に待ってくれて、どーも」

「お主も待っておってくれたのじゃ。こちらも待つのが人として当たり前だとおもうのじゃがな」

「そりゃ、どーも」

「…じゃが。油断はしてはいけないと思うのは童だけかの」

「はは。…誰がしてるか」

 聖剣使いの移動速度は基本的に常人のそれとは比較対象にはならないほどに速い。特にハツセは聖剣使いの中では頭ひとつふたつ抜けており光の速さのソレとほぼ同等と言われておりついた通り名が“光姫”。

 そんなハツセは瞬時にボアレとの距離を詰め、まさしく眼前まで迫っていた。

「主よ。なぜそんなに余裕な」

 ハツセが言い切る前に状況は変わった。

 どこからともなくえげつない冷気を感じ取り自身の先程急成長させたあの木々達で身を固める。するとその木々達は急速に凍り始め完全に凍ったと思えばそのまま粉砕する。

「…理由わかりました?」

「なるほど。主等が特異魔法士なのか今ようやく理解したのじゃよ」

 ハツセの表情が一気に戦闘狂のソレとなる。

 そんなハツセを眼前で見てもボアレは何一つ怖気つくことはなくむしろあざ笑うかのように口角を高く上げ楽しんでいる様子だ。

「主等。陣魔法を主とする魔法士かと思っておったのじゃが、詠唱魔法に無詠唱魔法。全ての魔法が使えるのじゃな」

「そうです。すべての種類の魔法が使えるんすよ。僕ら二人は。故に特異なんですよ。突出したテラーを持っているわけでもなく繊細なほどに緻密で丈夫な魔法が使えるわけでもない。…ならどうやって特異の名を得るか。そりゃこの一択しかないでしょ。まだ誰もやったことのない魔法種の全制覇ですよ。それも一つ一つの完成度が限りなく高いね」

「…じゃがのう。そんな魔法も聖剣の前では無意味だと今日知ることになるかもしれんのう」

「常々、嫌になるぜ。聖剣使い、わっ!」

 ボアレが地面を強く一度蹴ると空中に氷が生成されそれがハツセに襲い掛かるが、それを難なく防ぐハツセ。

「なんじゃ? その単調な攻撃は」

「単調も時には悪くないもんですよ」

 ボアレは、してやったりとニヤつく。

 それを見て何かに気付いたハツセは一度地面を見る。するとそこにはかなりデカい冷徹な青の魔法陣が描かれていた。

「主も、ちっとは脳を働かせるのじゃな」

「もちろん。存分に」

 魔法陣がばれたのになぜか物凄く余裕でいられるボアレ。

「なぜ、そんな余裕でいられ」

 ハツセは気付く。自分が完全にはめられていたことに。

 一度、魔法陣から離れるために飛び上がったハツセは今、空中にいる。そんなハツセの真上。そこにはもう一つの透明でよく見なければ見えないほどの魔法陣があった。

「これはちとヤバいかもしれんのう」

「まさかこんな簡単な手に引っかかるとはね。――ボレイム」

 ハツセの上からは刃と化した風が。下からは氷塊が塔をつくるように真っ直ぐと迷いなく襲い掛かってくる。

「流石によけきれんのう。――森羅万象・防」

 空中に生え始めた木はハツセを取り囲むように蚕のように丸く閉じ込める。そしてそんな木の周りを葉や花が装飾するかのように囲む。

 持ち前の速さでその場から逃げればいいだろうと思うのだが、もし仮にその場から動いたとするとハツセに襲い掛かるのはボアレの無詠唱魔法か詠唱魔法だろう。光の速さで移動しようとも学習型自動追尾系の攻撃魔法を使われたらまずその魔法を喰らうほかない。だからハツセはその場にとどまり、聖剣をもってしてでも完全に防げるかわからなかったので先祖の力を使いその場をしのぐことにした。

「やっぱ、それだけじゃあ死にませんよね」

 魔法がやむと木の蚕が崩壊しハツセがニヤニヤと笑いながら出てくる。

「そうじゃな。そのぐらいでは童は殺せぬな」

 ボアレは苦笑いをしつつ次に仕掛ける魔法を発動させるために詠唱を始める。

「しかして神を忌むべきか。しかして人を殺めるべきか。されど我は両者を蹴散らし天に立つ者なり。今、縁のまにまより姿見せし力よ。我に助力を。――ブルオロス!」

「詠唱魔法じゃの。技の威力は陣や無詠唱よりその威力は段違いに上がるが、自動追尾系の魔法もなければただ威力が高いだけの力任せの魔法じゃから避けようがいくらでもあって楽じゃのう」

「ご丁寧に解説どうも」

 ボアレが発動させたブルオロスは空気中の水分の一部を凍らせて部分的にニードルを発生させる小規模ながら連続して出せるので敵を追い詰めるにはうってつけの魔法だった。

 相手が“光姫”であるハツセではなかったら。

「およ。実に簡単じゃ」

 ニードルが発生する場所はボアレが一つ一つリアルタイムに決めている。だから自動追尾系魔法でもないにかかわらず敵を追尾することが可能だ。

 しかし、相手がハツセではニードルが出る場所出る場所、二、三程度テンポが遅れて発生するのでハツセにはかすりもしなかった。

「くっそ。やっぱはえーな」

「童を誰と思っておる」

 余裕な表情のハツセ。それの表情はまるで誰かをからかっているようなそんな楽しげな表情。

「さて、そろそろ童も攻撃をするかのう」

「おいおい、マジっすか」

「大丈夫じゃ。ただの剣撃じゃよ」

 ハツセのその相変わらずの速さは一瞬でまたボアレとの距離を縮め天之尾羽張と伊都之尾羽張を手に舞を見ているかのように艶美に剣技を繰り出す。

「およ。どうしたのじゃ? 逃げてばかりじゃ駄目じゃよ」

「その言葉をっと。今さっきまでの姫様にきかっ、せたいね」

 右腕、左足、両頬。ボアレの体に確実に剣を喰らわせるハツセ。

「それにしてもこんな物騒な時じゃなきゃ、つい見惚れてしまいそうなほどの舞だな」

「…そうじゃろ」

 艶美に笑うハツセ。

「わぁお。ならお礼に僕の本気の魔法をみせてやんよ」

 ボアレは下で上唇を一舐めする。

「およよ。そのお礼はぜひこの戦いが終わった後が良いのじゃが。…さすがにそうともいかんじゃろ」

「んじゃ、礼を早速」

 地面には二つの魔法陣。一つはあの青い魔法陣。そしてもう一つは透明な魔法陣。

「――イツラ」

「今度はどんな魔法なのじゃ?」

「教えるわけないでしょ」

「およ。ケチじゃの」

 ボアレはたしかに魔法名をいったはずだ。しかし待てどその魔法が姿をみせることなどなくハツセは常に警戒をしているだけだった。

「なんじゃ。魔法を発動させたはずじゃ。なのに何故、物質としての姿を現さぬ。主の特性である氷と風の魔法じゃったら」

「…はぁ。姫様。なんですかその偏見は」

「偏見じゃと」

「言ったじゃないですか。僕らは得意の称号を得るために全制覇したって。しかも氷と風ってあくまで先祖の力であって僕本来の力じゃないですから」

「…およ。そう言うことであったか。なら、火、水、雷、風、氷、無、地、自然、治癒。全ての特性と詠唱、無詠唱、陣。これらすべての魔法が使えるんじゃな。とんだ異常じゃよ」

「最初っからそう言っているんだけどね」

「なら、今のこの魔法は。そうじゃのう」

 ハツセは数瞬考えるとすぐに答えに至った。

「…霧かのう。主は全制覇した。ただそれだけを言っておったからのう。決して属性を合わせ、一つの魔法を発動できない。とは言っておらんかったからのう。おそらくは水、火、風を合わせたんじゃろうな。火で水を蒸発させそれをある一定に広げるために風を使う。こんな感じかのう」

「まぁ、正解。でも不正解だ。まさかそこまで考えが行くとは正直思ってもみなかった。けど惜しい。後、一歩及ばずって感じだ」

 ボアレはドヤ顔をして勝ち誇った表情をする。

 その間にも足場は次第に視界が悪くなっていく。突如として霧が見えるようになったのはハツセにばれてしまってはもう隠す必要などないと思ったのだろう。

「だって、考えても見てくださいよ。ただ霧を出しただけでどう戦う? ただの目くらましにしてもいいけどもったいなすぎるでしょ」

「およ。確かにそうじゃな」

 ボアレはすでに勝ちを確信していた。この謎がわかるはずなどないと。自分自身の魔法の出来は素晴らしいと。うぬぼれていた。それこそ状況判断などできないほどに油断しきっていた。

 相手がすべてにおいて常人のそれを凌駕する力を持つ聖剣使いであるということすらもこの瞬間は忘れていたのだろう。

「…およ。わかってしまったのじゃ」

「んなっ!?」

 ハツセのその一言に一気に現実に戻されるボアレ。

「きっと雷じゃろ。自然発生する霧よりも水分を多少じゃが多くして雷を通りやすくしたんじゃろ。それで童を動けなくするかそのまま感電させて殺す。…まぁ、こんな所かのう」

 ボアレの足元で小さな雷がハツセに怯えたように姿を現す。

「ほら、正解じゃ」

 無邪気に笑うそのハツセの笑顔が今のボアレにはとても恐ろしいものに見えた。

「しかしてお主はちと頭が残念なやつじゃろ」

「……はい?」

「考えもしなかったのか。童は先祖の力で木々や草花の創生ができるのじゃよ」

「それがなん」

 ボアレは気付いてしまった。

「木は雷を逃がしてくれるのじゃよ。だからまた木の蚕に入ってしまえば無意味なんじゃよ。雷などな」

 よくよく考えればわかったはずだった。自分は一体何をやっていたのだろう。あんな勝ち誇って。自分の方がよっぽど恥ずかしい。聖剣使い相手になにを油断していたのだろう。ボアレは絶望に満ちたように表情をこわばらせる。

「もう諦めよ。主の負けじゃよ」

 ハツセの言葉が痛いほどに胸に突き刺さる。

 慢心した自分も今の実力のうちだろう。完全なる敗北がボアレの心に打ちこまれる。

「しかし、今回は見逃してやるのじゃ」

「……は?」

 戦場でそんな言葉を聞くとは思わなかったのだろう。ボアレは心底疑問に思う。そして同時にハツセに対するイラつきを覚える。

「だから、主を今回は生かそうと言っておるのじゃよ」

「…いや、あのさ。それってなんだよ。ボクには姫様に負けた挙句に殺される価値もないっての? いくら早く決着がついたからってこっちは特異魔法士だぞ。バカにすんなよ。プライドってもんがあんだよ」

「およ。じゃからのう。童は」

「じゃからじゃからウッセェンだよ。姫様は他人のプライドを簡単に気付つけていいのかよ? 随分とお高い御身分だな。えぇ? 少しはこっちの身の丈を考えろよ。ボクは敗北者としてマジニカルに帰り白い目で見られ迫害を受け特異の称号さえも剥奪され一生、奴隷以下の生活を強いられるんだぞ。一般兵ならまだしもボクらのような分士団長レベルになると敗北は許されないんだよ」

 ボアレのその言葉になんと言っていいのかわからず黙ってしまうハツセ。

 ハツセの治めるカワチネヤ帝国ではまず敗北者に対する仕打ちなどは一切なく、まず自分の命を第一に考えろ。と、教えてある。コレはネア・ストーリー連合も一緒である。

 しかし、ボアレが言ったことが本当のことだとすればハツセが今この場でボアレにしている行為は最大の侮辱であり辱めである。それを考えれば生きる選択肢を与えたのに怒ってしまうボアレのことがよくわかる。

「…おい、なに黙ってんだよ。そっちが黙ってんならよ。……魔法つかわせてもらうぞ。まだ完全に負けたわけじゃないからな」

「……ま、待つの」

「全てを凌駕し天に召されし天神様よ。我に纏いてその力、具現したまえ!」

 天井には虹色に光る大きな魔法陣が一つ。それに詠唱魔法を合わせた双魔法。

 ボアレはこの短時間でテラーを回復させ自らの意思を怒りでたち直した。

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