#1-3
「うにゃ、こんなの、初めて」
「私もよ。また今度させてもらうわ」
「いいわね。若い子たちのは」
「そうねー。いいわねー」
ヴィグレットは表情をトローンとさせとても満足げだった。
「ヴィ、ヴィグレット様、そのあのー」
「……あ! そうだった。ウサギネコさんきゅ」
「い、いえ」
ウサギネコはリリスに助けの視線を送ったがスルーされ、そんな、と言った感じの表情をする。
「アリスにリリス姉。実は、まだ話していない重要なことがあるんだけど」
「なによ。あらたまって」
「なんですか?」
アリスとリリスは先程までの表情がウソだったかのようにヴィグレットの話を聞く。
「実は、今、このプラムケーキは戦争中なの。隣国の白雪姫の子孫が治めるマジカニル神国と」
マジニカル神国と聞いた途端にリリスは顔色を青ざめると同時になぜか焦りだした。
「……そんな! マジニカル神国は少なくとも私が女王をやっていた頃は協定を結んでいた国じゃない! それがなんで」
「リリス姉が消えた後に、全てをみすかしたかのようにマジニカル神国が協定を一方的に破棄して戦争を仕掛けてきたのよ」
「なにそれ」
「しかも、こっちは全てが急なことだったからもちろん完敗。奴隷として約七百人と領土の五分の一を持って行かれたの」
ヴィグレットは一言、一言苦しそうに話す。
「でも、ここに来る途中の人たちは賑やかで笑顔がありましたけど」
「城周辺の町はなんとかね。でもちょっと行けばもうひどい有様よ」
「マジニカル神国はそんな国じゃなかったはずなのに。私が消えた途端になぜ」
「多分だけど、元々マジニカル神国は領土を広げようと様々な国から奪い取って行った。もしかしたら協定を結んだのも後々に領土を奪うためだったのかもしれない。一度、リリス姉に仲間と思わせればそんなの簡単なことだし」
「じゃ、婆やは騙されたってこと?」
「結果的にはそうなるね」
ヴィグレットのその言葉にリリスは衝撃をくらうほかなかった。リリスが何を思いマジニカル神国と協定を結んだのか。自分のせいで国全体に迷惑が掛かってしまった。様々な思考が一気にリリスに襲い掛かる。
「でも、あれですよね。そのマジニカル神国は協定を破棄したのですよね。なら、反撃すればいいだけじゃないですか」
「しているよ。けどね、疲弊しきっちゃっているんだよ。プラムケーキの兵は」
「トランプ騎士団が疲弊するって、そんな」
「マジニカル神国のキスボール騎士団との長い戦争はそれだけってこと」
ヴィグレットはやたらと深く長いため息をつく。その様子からどれだけの苦労と努力をしてきたのかがわかる。
「その、マジニカル神国と言う国は一体どんな国なんですか?」
アリスが重苦しい場の空気を読んだのか知らないがマジニカル神国のことについてヴィグレットに尋ねる。
「私、そのマジニカル神国がどんな国なのか知らないのですが」
「……そうだったね。えっと、マジニカル神国はこのプラムケーキ公国の右隣の国で一年中、寒い国なの。そして、この国と同じで女王の世襲制で白雪姫の子孫である現マジニカル神国女王マリー・フォン・カタリ―ナは、思慮深くとても腹黒い奴よ。そして無駄に社交性があって、そこら辺の貴族なんかはマリーの猫かぶっている性格に騙されて支持ばっかすんのよ。まったくもって困ったやつよ」
ヴィグレットは、今度はどこか呆れたかのようなため息を漏らす。そして、やはりどこか疲れているかのように感じられた。
「貴族からの支持率はこことは違う世界から来た私にもわかるほどに重要ですよね。見栄えがいい」
「そうなのよ。だから、マジニカル神国の近隣諸国の貴族たちはマジニカル神国肯定派なのよ。否定派なのはごく一部の被害国だけ」
「それがこのプラムケーキってことなのね」
「その他にもシンデレラの子孫のメローネ・チェネレントラが治めるアシェンリヨン王国や鉢かつぎ姫の子孫のハツセ・カンノンが治めるカワチネヤ帝国とか、あるわね。今は私たちプラムケーキを中心にして対マジニカルを掲げネア・ストーリー連合をつくったの」
「国って思ったよりあるのね」
「姫の数だけ国はある。それがどんなに小さかろうが城を中心として町が一つでもあればそれは国になるの」
「なんか凄いですね、それ」
「ま、そんな国はすぐに他国に吸収されちゃうけどね」
ヴィグレットは自分自身のその発言に苦笑いをする。そしてそのままの流れでノンブルの歴史を話し出す。
「そんなこんなで今はもうこの世界に国は十しかない。かつてのノンブルには、百はいかないにせよ数多の国が存在して平穏無事に毎日を送っていたらしい。それがある日、この世界にはとても小さな異変が起きた。最初は時間が消えた。次の日に寿命がなくなった。そして最後の日に魔女が現れた」
「……え?」
「ここで登場した魔女が優しい魔女だったらよかったんだけどね。だけど来たのは、ある一人の好奇心の塊のような魔女だったの」
ヴィグレットはなぜかためらいながらもその魔女の名を言う。
「その魔女の名はアリス・ダルク。アリスが生まれ育った世界にいた、現在は聖女と言われているジャンヌ・ダルクの子孫よ。そして、この世界で初めて来た異世界人」
「……アリスって私と一緒」
「そうだね。アリスと同じだ。けど、私は一度会ったことがあるからわかるけど今、目の前にいるアリスとは全く違う性格だった。アレはもう完全なる魔女よ」
「ジャンヌ・ダルクは今となっては聖女として知られてはいますけど、死んだ理由が魔女裁判ですから。けど、この世界に子孫がいるってことは本当に魔女だったのかもしれないわ」
「アリスは強いね。自分の名前と同じ魔女がこの世界に異変をもたらした災厄の魔女として、忌み嫌われているのに」
「会ったことも見たこともない人の名前を嫌う理由なんてありません」
その時のアリスの表情はその場にいる誰よりも平然としていた。
「私はそれよりも魔女がこの世界に来た次の日にどうなったのかが気になるわ」
「あ、あぁ。……そして次の日、魔女はノンブルに生きとし生ける全生物にある誘惑的なことを言ったの。……もし聞いているそなたが世界に緑を創造する者なら私がより良い土地とより良い種をあげよう。もし聞いているそなたが広大な水に住む者ならだれにも邪魔されない空間をあたえよう。もし聞いているそなたが日の下に存在する者なら澄んだ空気を授けよう。もしそなたが大地を踏む者なら永久の安寧を約束しよう。さぁ! 聞いている生きとし生ける者たちよ! 私のもとへ来るのだ! ……ってね」
ヴィグレットは魔女を熱演しつつそう言い、若干息切れしている。かなり、熱演したようだ。
「そしてできた国がウイズム幻国。今もその存在が確認されていないけど確実に存在する国。それを証拠に魔女の言葉を聞いた翌日に世界の半分の生物と植物が消えたの。それを境にこの国は残り少ない資源を奪い合うようになり現在に至るの」
「それで、頭角を現したのがマジニカル神国なのですね」
「そう。マジニカルが始めなければ今もこの世界は表面上とは言え平和だった。打倒ウイズムとか掲げてね」
そう言っているヴィグレットの表情はどこか悲しげで、憎しみが隠しきれていなかった。そんなヴィグレットを見てリリスはどんな言葉をかけていいかわからずに黙ったままでいる。その隣では何かを思い出したウサギネコとネコウサギは苦しそうな表情をしていた。
「……ということは、今はマジニカル神国が何よりの問題なのですね」
アリスがその場の空気を読んだのか何故か笑顔でそうヴィグレットに尋ねる。
「ま、まぁ。ウイズム幻国は身動き何一つとらないし」
「ま、そのおかげで今、僕らはこんな世界に生まれ育ったんですけどね」
さっきまでの表情がウソのようにウサギネコは丹精込めた皮肉を苦笑いしつつ言う。
「…さ、こんな暗い話はとっととやめて今日からアリスが住む部屋を紹介するから。ネコウサギ、案内して」
「はーい! さ、いこー」
「う、うん」
アリスは半ば強引にその重厚な扉に守られた応接間のような部屋からでていく形となった。しかし、アリスと一緒に部屋を出たネコウサギはあんな暗い話をしていたのに相変わらず元気ハツラツと言った様子だ。
「ねぇ、アリス。もしだよ。戦争がこのまま……。ううん、やっぱなんでもなーい」
ネコウサギは一度アリスに話しかけるが何を思ったのか途中でやめて、そのまま無言になる。
ネコウサギとアリスはとん、とん、と、足音だけが響き渡る長く幅のある廊下を歩いていく。あの広間からかなり歩いている気がするが一向にアリスが住む予定となる部屋にはつかない。さすがにアリスが痺れをきらしてネコウサギに話しかける。
「ねぇ、一体いつになったら着くの?」
「にゃ、にゃい!」
急に話しかけられたことに驚きネコウサギはついているネコしっぽがビーンッと綺麗な毛並みごとたつ。
「そ、そんなに驚かなくても」
「にゃはは、ごめんごめん。で、なんだっけ?」
「部屋っていつ着くの?」
「あ、えっと、ねー」
ネコウサギはそのまま前の廊下を見て数分なぜか黙る。
「……どれぐらいだろうね」
あはは、と苦笑いしつつネコウサギは言った。
「なるほど。よくわかったわ」
「ってことで、進もう!」
「それしかないものね」
さっきよりも少し速いペースで歩く二人。廊下に響き渡る足音がとん、とん、からこつこつへと変わっていた。しかし、どんなにペースを少し速めようが部屋につくことはなく幾つもの、これ、部屋じゃないの? と言ったドアを何回もスルーして奥に進んでいく。
「ね、ネコウサギ?」
「うん? にゃにー」
「あ、今度は驚かないのね」
「そりゃ、二回目だしねー。それで?」
「さっきから過ぎているドアって部屋のじゃないの?」
「うーん、違うと思うよ。私が、ヴィグレット様から教えてもらったのはドアが光っているから、そこがアリスの部屋らしいよ?」
「なんで疑問形なのかしら。それに、いつの間に教えてもらっていたのね」
「そこはアレだよ。魔法」
「便利なのね。魔法って」
「そうだねー。でも、その便利さが逆に怖いんだよねー」
「確かにそうかもね。程よく便利がいいのに、人が勝手に進化させちゃって便利すぎるものになって、それを悪用する人が必ず一人出てくるのよね」
「そして、一人がやりだすとそれに便乗した人が何人も出てきて手につかなくなってしまう。まったく、困ったものだよね」
お互い、笑いつつ話して歩いていると先に光っているドアが見えた。
「あ、見えたにゃ! ……って、あそこは私の部屋?」
「自分の部屋の場所位ちゃんと覚えなさいよ。…って、ネコウサギの部屋?」
「そうだよ! あそこは紛れもなく私利私欲の限りをつくし、ふかふかのお姫様ベッドを置いてある私の部屋だよ」
「因みにそのベッドのサイズは幾つかしら?」
「キングサイズだよ!」
「じゃ、問題ないわね。そこに私が住んでも」
「た、確かに! アリスは天才だよ」
「そ、そうかしら」
ネコウサギからの謎のキラキラ目線を浴び、今後の生活に少しの不安がよぎるがいつどんな時でもネコウサギを、なでなで、できる利点がアリスには何よりも重要だったらしくその不安はすぐに消えた。
「ほら、入りましょ」
「あ、ちょっと待って。流石に私でも見られたくないものもあるし汚いし。ぱぱっと掃除しちゃうから本当にちょっと待ってて」
「えぇ。誰しも見られたくない物はあるわよね」
「じゃ、ちょっと掃除してくるねー」
そう言ってネコウサギは先に光るドアを開け一人、入って行く。
「まだ、光り続けるのね。このドア」
アリスは首を横に傾げ、いつまで光っているのかしら? と、ずっと考えていると割かし早めにネコウサギがひょこっと開いたドアから顔をのぞかせる。
「終わったよー」
「意外に早いわね」
「そりゃねー、待たせるわけないよ。大切な同居人を」
ネコウサギが可愛らしく顔だけをのぞかせた状態で、えへへ、と照れ笑う。その表情を見てアリスは思わずキューンとなってしまう。
「アリス―。だいじょーぶー?」
アリスはネコウサギにキューンとなった後にその場でほわわんとなり、周りから見れば急に頬を赤らませ、ある一点を見つめて目が多少曇っているヤバい人になっていた。が、ネコウサギはそれに関してはまったくもって興味がないとかそんな次元ではない、気付いていない状態だった。こんな状態の人を見たらここまで鈍感でなければ避けるべき対象になる部類だ。
「あーりーすー! あーりーすー」
「……はっ!」
ネコウサギはいつのまにか部屋から出てアリスの周りをぐるぐるしながら呼び続けていた。その甲斐あってかどうかはわからないがアリスはネコウサギの大体五十回程度の呼びで現実に戻る。
「あ、大丈夫? なんか反応なかったけど」
「だ、大丈夫よ! さ、部屋に入るわよ」
「うん。はいろっか!」
ネコウサギは率先してしまったドアを開けてそのまま先に入って行く。アリスはネコウサギがドアを自分のためにあけてくれたのかと勘違いをしてそのまま目をつぶって優雅に部屋に入ろうとしたので人知れずドアにガンッとぶつかりデコと鼻先がすこし赤くなるが、ネコウサギにバレまいとそのまま自分でドアを開けて入る。
「ようこそ! それとも、これから住むからただいま? かな。アリス」
「ただいまって気が早いわよ。…でも、なんかこの部屋物凄く懐かしい感じ」
アリスはコツコツと足音を立ててゆっくりと部屋を見るように進む。
その部屋は、とても閑静な雰囲気があった。どことなく甘い香りがしてこの部屋の空気を吸うだけで頬がとろけ落ちてしまいそうなほどだ。部屋に入って右を見ると本棚が二つ有りそこにはびっしりと本が縦に並べられている。左を見ればネコウサギの趣味なのかオルゴールがいくつも棚に並べられていた。そのオルゴールが並べられている棚のすぐ隣にドアがあった。
「ねぇ、このドアって」
「えっとねー。そのドアは寝室になってるよ。ほら、さっき言ったキングサイズのお姫様ベッドがあるの」
ネコウサギは楽しそうにらんらんと話す。
「そのベッド見たいわ」
「うん! いーよー」
元気よくそのドアを開けたネコウサギの後に続いてアリスが開いたドアに入って行く。今度は、ドアにぶつかることなく難なく進めたことに安堵の溜め息をつきそうになり結局ウサギネコにばれていないか焦るアリス。
「じゃじゃじゃ~ん! これが自慢のベッドです」
ネコウサギが満面のドヤ顔で紹介したそのベッドはアリスが想像していたよりもデカく豪華だった。もちろんのことベッドのサイズはキングサイズとは聞いていたが実際みると想像以上にでかかった。そしてなにより目を引いたのはお姫様ベッド特有の天井だった。その天井とベッド本体をつなぐその柱四本には薔薇があしらわれており薔薇特有のトゲまでは再現されておらずただ綺麗な薔薇だった。その柱の先に待っているのはピンクが主になっているレースカーテン。ベッドの白色とその淡いピンクがいい具合にあっていて何とも可愛く綺麗なベッドになっていた。
「想像以上だわ。凄いわね」
「でしょー! 私の一番自慢のベッドだもん」
「なんかこのベッドで寝ていいのか今更だけど考えちゃうわね」
「そんなの考えないでいいよ。そんで、今日から一緒に寝ようね」
「まぁ、そうね。考えても意味はないわよね」
アリスはそう言いながら、あることに気付いた。
「そう言えば、私の衣服や私物こっちにはないわよ」
しかし、それはすでに解決済みだった。
「それっだったら問題ないよ。さっき、ウサギが魔法でもってきたから。ほら」
ウサギネコが指さした先にはアリスの衣服や私物が全て部屋の隅に置いてあった。服は一枚ずつ丁寧に畳まれて、たためない物はクローゼットにハンガーでかけている。ベッドに目がいっていてその存在には気づかなかったアリスだった。
「魔法って本当に便利ね」
「まぁ、使うには向き不向きがあるんだけどね。因みに私は不向き」
ウサギネコはそう言いながら自嘲気味な笑顔をこぼす。
「魔法って適正と才能が必要なのね。なんか、私使えない気がする」
「やってみないとわかんないから明日辺りにウサギに見てもらいながらやってみたらいいよ」
「ウサギネコに見てもらいながらね。何か気に障るけどわかったわ」
アリスは右斜め下を向きつつそう言うので何か妙なリアリティーがあった。いかにもドラマに出てくる犯人のようなリアリティーだ。
「私はまず魔法云々の話している時間があったら、目の前に置かれた衣服以外の私物をどうにかしないとやばいわね」
「触っていいなら私も手伝うよ」
「手伝ってもらえるのはありがたいけれども、ネコウサギにはまずこの私物をどこに置いていいのか教えてほしいわね」
多少呆れの入ったアリスのその言葉に、そうだったー、と、今気付いたの!? とツッコミを入れたくなるような返事をするネコウサギ。
「そうだなー。……そこのクローゼットの下に置けるものは置いて、後はクローゼットの隣にあるそこの物入れ? タンス? に、でも入れればいいよ」
「わかったわ。じゃ、早速」
「れっつ、ごー!」
「一体どこに行く気よ」
アリスはネコウサギのその言葉に思わずツッコむ。
そして、その流れのままにアリスの私物をしまう作業が始まった。初めはクローゼットに入るだけ入れる。すると中々にファンシーな内容になるクロ―ゼット。
「アリスってぬいぐるみが好きだったんだね。しかもアニマルばっかり」
「私からしたらアニマル以外のぬいぐるみを見てみたいわね」
その中身にネコウサギさえ、ほー、となぜか感嘆の声をあげている。
「でさ、アリス」
「何かしら」
「しまったのをいいけど、まだぬいぐるみ大量にあるよね」
「あるわね。しまえたのもせいぜい半分がいいところよ」
「どうするの?」
「……そうね」
「因みに、アリスはきっとタンスにしまえるとか思っていると思うけど、入ったとしても十個程度がいいところだよ」
アリスは考えを見透かされたかのように驚き、しばらくそのまま呆けていたが少しするとまるで、何事もなかったかのように話を再開させる。
「そ、そんなの解っているわ。それを証拠に私には妙案があるの」
「え! なになに」
「ちょっと耳かしなさい」
アリスがちょいちょいと手で招くようにやっていると、ぴょっこ、と出ているネコ耳をアリスに近づける。すると、アリスがネコウサギに向かってごにょごにょとその場にアリスとネコウサギの二人しかいないのになぜか耳打ちでその妙案を伝える。聞き終ると、ネコウサギは目をキラキラさせ、アリスはかなりのドヤ顔だった。
「アリスってやっぱり天才かも!」
そのネコウサギの言葉を皮切りにアリスが多少調子に乗り始めるが二人とも、ぬいぐるみを持ち寝室のいたるところに置いていく。それは一見無造作に部屋中の中にぬいぐるみを置いているように見えるが実はアリスがちゃんと計算して置いていたりする。出窓に仲良くウサギとネコのぬいぐるみを。タンスの上にはトラやクマなどの肉食系を。そしてベッドにはネコウサギとアリスがそれぞれ気にいったぬいぐるみを何個も置いていった。そんな、作業をし始めてかれこれ二十分が経ちようやく作業が終わった。
「ふぅ、終わったわね」
「終わったねー。何気につかれちゃったよ」
「そうね。結構体力使ったわね」
そう言ってアリスとネコウサギはぺたんとだら~っとその場に座る。
「でも、すっごく可愛くなったね。この部屋」
「だから言ったじゃない。妙案があるって」
アリスが、むふん、と、得意げに話す。それもそのはずだ。この部屋にはあのお姫様ベッドとタンスとクローゼットしかなかったのにアリスの私物が部屋をまるで着飾っているかのようにこの部屋をとてつもなくファンシーに仕立てあげている。しかも、ただでさえファンシーでそのベッドを使うにはちょっとした勇気が必要であるお姫様ベッドにも大量のぬいぐるみを置き、そのファンシー感をさらに強力なものへと変貌させていた。さすがの夢見る少女でさえそのお姫様ベッドの前ではただの普通の女子になってしまう。
言ってしまえば暴力的なファンシー感だ。
「今日から寝るのが楽しみだー!」
「そうね。いつもより安心して寝れそう」
それなのに、この二人と言えばそんな暴力的なファンシー感に物怖じ以前に楽しみや安心してしまっている。誰しもがそのお嬢様ベッドの前ではとんでもないファンシー感と恥ずかしさのあまり逃げ出してしまうのにネコウサギとアリスはそのお嬢様ベッドで寝ると言う。なんたる屈強な精神の持ち主。
「動いたしシャワーが浴びたいわね。お風呂はどこかしら?」
「あ、ちょっと待って。私も一緒に入る」