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ハル・アルダートンと大地の王冠  作者: ゆう
第1章 アキト国
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時の大精霊の予言

 スマホの方はちょっと読み辛いかもしれません

 「――ん、・・・朝か」


 窓から差し込んだ光で、ハルは目を覚ました。昨日の夕食の際、セシリアからいくつか気になることを伝えられたが、セシリアのアトリエの上質なベットの寝心地の良さと半月も常闇の大樹海に潜っていた疲労もあり、早々に眠っていた。


 「あら、起きたのね。おはようハル」


 顔を洗ってからリビングに行くとセシリアがハーブティーを飲みながら何か書類に目を通していた。


 「おはようセシリア。流石に忙しそうだね」


 「この程度は慣れてるから大丈夫よ。それより、ハルが起きたなら朝食にしましょう。魔力も回復したようだしその後すぐセントラルまで行くわよ」


 「わかった」


 朝食は白米に、味噌汁、ブラッドサーモンの塩焼きという『和食』だった。勇者様の故郷の料理らしい。




 朝食を食べ終え、片づけを済ませると、ハルとセシリアは転移を使った。


 2人が立っているのはユーヤ国の中央にあたる大都市セントラルにある軍団の本部の建物の前だ。


 「うん?なんだおまえら・・・ってセシリア様!?失礼いたしました!!」


 軍団本部の入口付近に立っていた警備団員らしい獣人族の若い男が目の前に突然現れた人影を見て近付いてきたがそのうちの片方がセシリア・オーディンであることに気が付くと慌てて敬礼した。


 「気にしなくてもいいわ。中に用事があるから通してもらっていいかしら?」


 「は、はい!どうぞお通りください!!」


 獣人族の男は目をキラキラさせている。どうやら彼もセシリアのファンらしい。既にハルは眼中に無いようだった。ハルは思わず苦笑しながらセシリアの後に続く。




 受付で手続きをし、数十分後ハルは受付ロビーの奥にあるかなり広い部屋に通されていた。担当のドワーフ族の男に課題の品の提出を求められ、アイテムボックスから全て取り出して並べていた。


 「無間砂漠の課題、陽炎サボテンの花・砂漠の白バラ・デザートダイヤモンド・スフィンクス・トゥーススネーク・ミラージュカメレオン、暴君の海の課題、大真珠・暴君の翡翠ひすい・竜宮貝・サメゲーター・クラーケン・テンペストイーグル、常闇の大樹海の課題、マンドラゴラ・月光の琥珀・ワイバーンの卵・トロールキング・デビルスパイダー・ソニックラビット、天衝山脈の課題、凍結の花・ミスリル鉱・マボロシ鹿の角・イエティー・アイスゴーレム・シラユキヒョウ・・・うむ、確かに確認した。おめでとう課題は達成だ。これで、辞令が届き次第お前さんは猟兵団から調査団に異動となる。それまでしっかりと体を休めるように」


 「ありがとうございます」


 ドワーフ族の職員に礼を言い部屋を出る。


 ロビーに戻るとセシリアが待っていたのだが、彼女のそばには見覚えのある4つの人影があった。


 「久しぶりだな、ハル」


 「義父とうさん!!それにゼノンにイゴール、ペアーレも!」


 「はぁ~い、ハル~!!」


 「元気そうで何よりじゃ」


 「ふふ、無事に課題は達成したようだな」


 順に犬の獣人族でハルの義父であるレナード・アルダートン、人魚族の若い女性ペアーレ・ハウフル、ドワーフ族の初老の男性イゴール・ロックベル、獅子の獣人族の壮年の男性ゼノン・レオカディオだ。


 「ハル、課題の報告はもう終わったの?」


 「終わったよセシリア。辞令が届き次第調査団に異動だって」


 「そう、それじゃあ改めておめでとうと言わせてもらうわ。本当はこのままお祝いといきたいところだけれど、あまり大精霊様をお待たせする訳にはいかないからすぐに神殿に向かうわよ」


 「そうじゃな。秘境の異変に、時の大精霊様の指名付きでの予言。どちらも異例のことじゃからのう。わしらとしてもこの状況はちと気になるしのう」


 「分かった。神殿って確かここの近くにある国立自然公園の奥にあるんだっけ?」


 「そうよ~。基本的に精霊様は自然が豊かなところで生活されてるからね~」


 「歩いていくの?」


 「いや、この面子で歩いたら少々目立つからな。ここから直接セシリア様の【転移】で神殿まで向かう」


 「そういうことだ。早速だが頼めるかセシリア殿?」


 「ええ、準備は出来てるわ。いくわよ!」




 その場にいた6人が光に包まれた次の瞬間には全員、豊かな自然に囲まれた中に建つ荘厳な神殿の前にいた。


 「皆様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


 神殿から法衣を着たエルフ族の老人が出てきた。彼に連れられ神殿の中に入って行く。礼拝場の横を通り過ぎ、さらに神殿の奥まで進む。そこには1つドアがあった。その奥からはとても大きな力を感じる。エルフ族の老人はドアをノックすると扉の向こうに呼びかけた。


 「失礼いたしますツァイト様。ゼノン・レオカディオ様、ペアーレ・ハウフル様、()()()セシリア・オーディン様、()()()()イゴール・ロックベル様、調レナード・アルダートン様、猟兵団所属ハル・アルダートン様がお越しになりました。


 「お通ししてください」


 扉の向こうから美しい女性の声が聞こえてきた。それを聞いたエルフ族の老人が扉を開けハルたちに入室を促した。



 そこには、見た目はどこか儚げな容姿を持つ美少女がいた。上位の精霊は、人間族に近い姿をしていることが多いらしい。しかし、容姿に騙されそうになるが、彼女の内には膨大な力が秘められているのを感じる。


 「よくいらっしゃいました。ゼノンさん、ペアーレさん、セシリアさん、イゴールさん、レナードさんはお久しぶりですね。そして初めまして、ハル・アルダートン君。私は時の精霊たちの長、ツァイトです。以後よろしくね」


 「よ、よろしくお願いします」


 目の前の少女の姿をした存在はこの国で信仰の対象になっている上位の精霊である。いつになく緊張していたハルだが、目の前の大精霊が思いのほかフレンドリーでどういう態度をとればいいかわからず微妙な表情をしていた。それを見た時の大精霊ツァイトはおかしそうに笑った。


 「そんな顔をしないで。この国の人たちは勇者と共に私たちを信仰の対象としているけど私たちはそんなに立派なものじゃないわ。私たち精霊も人間や亜人族のように時に喜び、時に戸惑い、時に悲しむ。外界の人間たちが信仰している神や女神のような完全な存在じゃない。むしろ私たちが戸惑ってるのよ。あなただって周りの人から崇め、祭り上げられたらどうしたらいいか困ってしまうでしょう?」


 「そ、それはまあそうですが・・・」


 「ふふ、すぐに認識を改めるのが難しいのはわかるわ。けど、きっと君とは長い付き合いになるし徐々に慣れていってくれると嬉しいわ」


 「善処します・・・」


 「うん。それでいいわ。・・・さて、ここからが本題。私が見た予言をあなたたちに伝えるわ」


 その言葉と同時にツァイトの雰囲気が変わる。ハルは思わずごくりと唾を呑みこんだ。


 「まず、最初に言っておくわ。私の予言は時の魔力で見えた未来の結果を告げるもの。ただし、この未来視は完璧なものではない。未来はいくつもの分岐があるあやふやなもの。さらに、時代の大きな分岐点は選択肢が膨大で未来を見通すのがとてつもなく難しい。そして、今回の未来視はほとんど先が見通せなかった。つまり、時代の大きな分岐点が迫っているということよ」


 『時代の大きな分岐点が迫っている』。この言葉を聞きセシリアたちの表情が険しくなった。彼女たちはこの国の中枢に位置する存在。気になるのは当然だろう。


 ツァイトは続ける。


 「私が見えたことは3つ。1つは『外界のどこかの人間の国で何かが始まったこと』。今、秘境だけでなく世界中の魔獣たちが狂暴になっているみたいだけど、魔獣たちはこの人間の国で始まったことが引き起こすであろう何かを恐れている」


 「世界中でじゃと!!?」


 「つまり~、起きようとしている何かは世界規模の影響力を持っているのですね~?」


 ツァイトが頷く。


 「そう、そして2つ目はそのことについて。この部分はほとんど見ることができなかった。ただ分かったことがある。この事態を放置しておいたら世界・ ・()()()、もしくは()()()()()壊滅・ ・()被害・ ・()()


 「「「「「「なっ!!!?」」」」」」


 あまりの内容にその場にいた全員が絶句した。


 「そして、3つ目。これがハル君をこの場に呼んだ理由。ハル・アンダートンが調査団員として外界に出て人間の世界で活動していれば世界の破滅を回避できる可能性があるの」


 「・・・えっ?」


 全員の視線がハルに集まる。


 「私にも事態の解決にあなたがどう係るかは見えなかった。でもあなたがこの件の解決に係ることは間違いない。調査団に入ったら本当は1年ほど研修や特別な訓練を受けるらしいけど事態は既に動き始めている。君には十分な力量もありそうだし近いうちに出発することが望ましいわ」


 「ちょ、ちょっと待ってください!!世界が滅びるとか、オレが外界にいればそれを回避できる可能性があるとか、話が大きすぎて理解が追い付きません!!」


 「予言を告げてる私もあまり事態が呑み込めてないわね。でも私の未来視はそういうものだから」


 ツァイトは困ったように言う。


 「最初に言ったようにより大きな時代の分岐点は私でもほとんど見通せない。見えたものがあっても断片的すぎてそれがどんな意味を持つのか事態が終わるまで私自身分からないことが多いの。私も14年ほど前に見た前回の予言の意味がようやく先ほどわかったくらいだから。ただこれまでの経験から私が言えることは未来視で見えた部分はほぼ確実だということ。今回の件でいえば、ハル君がこの国から出なかった未来は確実に破滅へと進んでいった。外界に出た未来では破滅を避けられたものがあった。私が言えることはこれだけ」


 「ツァイト様、2つほどお聞きしてもよろしいですか?」


 レナードが発言する。


 「いいですよ、どうぞ」


 「では、1つ目。世界の滅亡を避けるためにはハルが外界にいなければならないとのことでしたが・・・、ハルは事態が解決するまでこの国に戻ってこられないということでしょうか?」


 心配そうにレナードが問いかける。


 「いいえ。時々こちらに戻ってくるぐらいは問題ないでしょう。基本的に外界で生活を送っていればいいはずです」


 「しかし、先ほどどのような形でハルが事態の解決に係るかわからないとおっしゃっておられました。となると、ハルがここに戻っている時にその機会がある可能性があるのでは?」


 「そうですね。それが絶対にないとは言いません。ただ、その可能性は限りなく0に近いでしょう。ハル君には大きな運命の力が宿っているのを感じます。彼が事件の解決に係れる環境さえつくっておけば後は運命に導かれ自然とその状況に巻き込まれていくことになると思います。ですからハル君は外の世界で好きなように生活してくれて構わないと思っています。時々こちらに顔を出すくらいならなんの支障もないでしょう」


 「なるほど。安心しました。それでは2つ目ですが、先ほど14年前の予言の意味がようやくわかったとおっしゃいましたが・・・」


 「それに関してはあなたの想像・ ・()だと思いますよ?」


 「・・・なるほど。ありがとうございます。私からお聞きしたかったことは以上です」


 「他に何か質問がある方は・・・いらっしゃらないようですね。それではハル君。君にお願いします。外界に出て人間の世界で生活をしてください。あまり身構える必要はありません。先ほども言いましたが、時々こちらに戻ってきてくれても構いませんし人間の世界での活動も特に指定はしません。君の思うままに過ごしてください。そして、私の予言に関する出来事が起きたと思ったときは調査団の1員として事態の解決に尽力してください。お願いできますか?」


 ハルの目を真っ直ぐ見据えながらツァイトは問いかける。ハルは、その視線を正面から受け止め口を開く。


 「正直まだ時の大精霊であるあなたの予言でも半信半疑です。でも、その予言が真実ならオレがやらないときっとこの国にいる家族や友人たちにまで危険が及ぶんですよね?だったらやります!オレは世界中の人たちの命を背負えるほど立派ではないけれど、大切な人たちを守るためになら戦えます。それにオレはもともと人間の世界に行ってみたいと思ってました。そのために調査団を目指してましたから。これなら思ってたよりものびのびと人間の世界で活動できそうです。割と自由に動くことができて、大切な人たちを守るために戦うことができる。勇者様が遺した言葉でいうなら一石二鳥ってやつですね。謹んでお引き受けいたします」


 「よかった!ありがとう、君の決断に感謝します。他の皆さんも出来る限りハル君ををサポートしてあげてください」


 「「「「「承知しました(~)」」」」」





 聖陽歴816年6月。こうしてハル・アルダートンの外界行きが決まった。


 

 明日の16時頃更新予定です。

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