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ハル・アルダートンと大地の王冠  作者: ゆう
第1章 アキト国
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セシリア・オーディン

 セシリアのアトリエのドアをノックする。しばらく待っていると、少しドアが開かれた。


 「はい?どちら様かしら・・・ってハルじゃない!?」


 驚いた声と共に大きくドアが開かれる。そこに立っていたのは見た者が思わずため息をついてしまうような金髪碧眼の美しいエルフ族の女性だ。エルフ族は長寿で、特に魔力量が多い者はとても寿命が長いので年齢が分かり辛い。セシリアは他の種族でいうと二十代前半くらいに見えるのだが、彼女の実際の年齢をハルは知らない。興味はあるが、決して年齢を聞いてはいけないと過去の経験トラウマが告げている。


 「久しぶり、セシリア。ようやく課題を終えて帰ってこられたから顔を出したん、いだだだだ!?」


 「・・・全身ボロボロだし魔力まですっからかんじゃない。あれほど無茶はするなって言ったわよね?」


 「オレが悪かった反省してるから思いっきり頬をつねるのやめて!!?」


 ご丁寧に身体強化された手で頬をつねりあげられ若干涙目になりながら懇願する。


 「はぁ・・・。もういいわ、とりあえず入りなさい」


 セシリアは呆れたように言うと、踵を返しアトリエの中に入って行く。赤くなった頬をさすりながらハルもその後に続いた。




 来客用の部屋に通され座り心地の良いソファーに座る。セシリアは一旦ハルを残してその場を離れ、少ししてハーブティーを淹れて戻ってきた。


 「精霊草のハーブティーよ。魔力と体力の回復が早まるから飲んでおきなさい」


 「ありがと。・・・ん、美味い」


 さっそくセシリアが淹れてくれたハーブティーに口をつける。ほんのりと甘い精霊草のハーブティーを飲むとすぐに体の中心付近が温かくなると同時に徐々に疲労感が薄れていくのを感じた。


 「そ、良かったわ。それで?その様子だと結構な期間秘境に潜っていたみたいね?」


 「うん、今回は常闇の大樹海に半月程ね」


 「常闇の大樹海の課題は――マンドラゴラと月光の琥珀の採取、ワイバーンの卵の入手、トロールキング、デビルスパイダー、ソニックラビットの討伐だったかしら・・・ハルにしてはやけに時間がかかってる上に魔力も体力も底を尽きかけてるし、何かあったの?」


 「なんだか魔物たちがやけにピリピリしててね。寝ようとしたらすぐに魔物がうようよ寄って来るし、マンドラゴラの群生地の近くではワーマンティスとシャドーウルフの群れが戦争してるし、ワイバーンの卵1つ盗んだらワイバーンたちがどこまでも追いかけてきて結局1つの群れを全滅させる羽目になるし、珍しくトロールが群れをつくってると思ったらトロールキングの他にトロールジェネラルやトロールナイト、トロールマジシャンまでいるし、ただでさえ近付くのが難しいソニックラビットがいつも以上に周囲を警戒してて結局ひたすら待ち伏せをする羽目になったんだ。魔物同士でもあちこちで争ってるみたいだった」


 ハルの報告を聞き、セシリアはその端正な眉を僅かにひそめた。


 「それは・・・ちょっとおかしいわね。今は繁殖期でもないわけだし・・・。その話は他の人にもしたのかしら?」


 「いいや。まだ、セシリアにしか話してないよ。内容が内容だからね。軍団の上層部とゼノン、イゴール、ペアーレ、あと、父さんには話すつもりだったけど」


 「賢明な判断ね。明日セントラルまで転移して課題の報告をするつもりなんでしょ?私も一緒に行くわ。私からゼノンたちにも明日セントラルに来てくれるように頼んでおくから」


 「助かる。それじゃあオレはそろそろ軍団の宿泊所でも借りに行くよ。流石に疲れた。明日の朝にでもまたここに来ればいいの?」


 「そうね・・・」


 セシリアはしばし黙考した後、


 「今日はここに泊まっていきなさい。あそこは、上層部の者以外は個室が使えないからゆっくり休むのには向いてないし、ハルが戻ってることを知ったらあなたの友人たちが押し掛けてきてそれこそ休むことなんてできないでしょう。ここには部屋がたくさんあるし、前にハルが使っていた部屋もそのままにしてるから」


 「いいの?確かにここの方がゆっくり休めるから助かるけど」


 「今更何を遠慮してるのかしら。とりあえずお風呂に入ってきなさい。私は夕飯の支度を始めるから。疲れてるからって湯船の中で寝ないようにね」


 「ありがと。じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」


 ハルは客間を出て風呂場に向かう。軍団の宿泊所との1番の違いはここだろう。週に1度の入浴の日以外、宿泊所ではせいぜいお湯で体を拭くぐらいしかできない。しかし、セシリアのアトリエの風呂場は、2,3人がゆったりとお湯につかれるほど広い檜の浴槽にシャワーも完備されている。体の汚れは魔法で綺麗にできるのだがそれでは味気ない。ゆったりと風呂に入り疲れを取ったりリラックスできるのは秘境帰りのハルにとっては非常にありがたかった。



 風呂から出るとキッチンの方からとてもいい匂いが漂ってきていた。その匂いに釣られるようにハルはキッチンへと向かっていく。キッチンに入るとセシリアが慣れた手つきで調理をしていた。


 「フォグバードの香草焼きと、ほうれん草ときのこのソテーか。何か手伝えることはある?」


 「もう完成するからいいわ。リビングで待ってなさい」


 「わかった」


 リビングで待っているとセシリアが料理の載ったいくつものお皿を魔法で浮かしながら料理を持ってきた。全てが空中でセシリアから一定の距離を完璧に保ち、わずかな傾きさえない。高い感知能力を持つハルに魔法の行使をまったく感じさせない精度の魔力の運用。


 「やっぱりすごいな、セシリアの魔法の制御力は。まだまだ追い付けそうにないよ」


 「そう簡単に弟子に後れを取るわけにはいかないわ。それより、食事が冷えてしまう前にいただきましょう」


 そう言うとセシリアは両手の指を組むようにして手を合わせる。ハルもすぐに同じようにして手を合わせた。


 「「精霊と勇者の加護に感謝を。いただきます」」


 二人で声を合わせて唱える。アキト国では上位の精霊と勇者を信仰しており『精霊と勇者の加護に感謝を』とは食事の前や一日の終わりの時に唱える文句である。『いただきます』は建国の勇者の故郷の食事の際の習慣で、食事に係ってくれた者への感謝と食事になった命への感謝を込めたものらしい。こちらもこの国ではごく一般に広まっている。


 感謝の祈りを終え食事を始める。秘境の素材をふんだんに使った料理は絶品だ。二人ともしばらく食事と会話を楽しんでいたのだが会話の内容が秘境の話になった時、セシリアが声のトーンを落とし、ハルに告げた。


 「そういえば、ハルがお風呂に入っている間にゼノンたちに連絡したんだけど、あっちにも気になる情報が入っていたみたい。なんでも、常闇の大樹海以外の秘境でも魔獣たちの様子がおかしくて、20人程猟兵団に負傷者がでたみたいね」


 「えぇっ!?」


 ハルは思わず声を上げる。


 「安心しなさい。死者は出てないし、負傷者も怪我自体はそれほど重いものじゃない。魔獣の様子がいつもと違うことに気付いて早々に撤退したみたいだから」


 「そっか。それは安心したけど・・・」


 「ええ。やっぱりおかしいわね。天衝山脈でも無間砂漠でも暴君の海でもやけに魔獣たちの気が立っていたみたい。ここの軍団支部からも先ほど報告があったわ。『ひと月前の遠征の時と魔物の様子が違ったので一旦引き返した。これから調査に移る』ですって」


 「魔獣の異常が秘境全体で起きている、か」


 思っていた以上に深刻な事態になっていることに気付きハルは表情を硬くする。


 「ええ。調査団には及ばないとはいえ猟兵団は秘境での活動に慣れた精鋭。秘境での活動に怪我はつきものとはいえ、普段は数日間秘境で狩猟を続ける部隊がたった半日で20人もの負傷者を出して撤退してる。今の秘境はかなり危ないわね。というわけで、ゼノンたちも快く呼び掛けに応えてくれたわ。それと、神殿からも連絡があった。・・・時の大精霊様がこの件で予言をくださるそうよ。ハルの課題の報告が済み次第神殿に向かうわ」


 その言葉にハルは目を丸くした。


 「予言だって!!?前に予言が出たのってオレが義父とうさんに拾われるよりも前じゃなかったっけ?」


 「そうね、前の予言は約14年前。ハルが生まれたくらいかしら」


 「そっか・・・。それで?俺もついて行っていいの?」


 「むしろ、ハルがいないとだめね」


 「えっ?」


 セシリアはそこで一旦言葉を切って、ため息をついた後こう言った。


 「時の大精霊様がハルをご指名よ。あなたに予言を与えるですって」





 明日の16時頃更新予定です。

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