激動の始まり
聖陽歴802年7月某日 シノノメ王国王都トーキョー
剣戟と悲鳴が響き渡り、燃え上がるトーキョーの街の中を一つの人影が駆け抜けていた。頭部に犬の耳が付いた獣人族の若い青年だ。走る青年の腕は真っ白な布に包まれた小さなものを抱いていた。
獣人族の青年は人の気配を避けながら、なんとか街の外へ飛び出した。その直後、獣人の青年は至近距離から人の気配を感じ、慌てて武器を構える。
「待ちなさい。私よ、レナード。あなたがやけに遅かったからここまで来ていたのよ」
聞こえてきた声が知り合いのものだったことに安堵しながら獣人の青年は振り返った。そこにいたのは若く美しいエルフ族の女性。
「セシリア様でしたか。他のみんなは?」
「ゼノンたちを含めて既にほぼ全員戻ってきているわ。私たちも合流地点へ急ぐわよ」
獣人族の青年は、エルフ族の女性と共に走り出す。走りながらエルフ族の女性が獣人の青年に問いかけた
「レナード、あなたが抱いているのが・・・?」
「はい。例の予言の」
獣人族の青年は短く返す。
「そう。国王ご夫妻は?」
「最期まで城に残るとの仰せでした」
「・・・そう。」
それから2人は無言のまま駆けていく。獣人の青年がちらっと振り返った時にはもうトーキョーの街は煙に包まれほとんど見えなくなっていた。