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このホテリアにこの銃を  作者: 懐拳
4/22

4 フランス料理と安うどん


昼どきに

フランス料理に

君を誘った

僕の意図


察しない年でも

あるまいに


やんわり固辞して

代わりに君が

連れ出したのは

5分で客が

入れ替わる

裏通りの

大衆食堂


安うどんが

あっという間に

絶品に早変わりという

食べ方を

伝授しながら

そんじょそこらの

パスタなんか

足元にも及ばないと

口とがらせた


かと思えば


僕が泊まる

ヴィラなんか

贅沢すぎて

ひと月分の給料を

はたいたって

泊まれやしないと


あろうことか

客に向かって

安月給を

愚痴ってみせる


でも

君の言葉尻には

嫌味やねたみの

かけらもなくて


引き合いに

出されたはずの

客本人は

気分を害する

ことすら忘れて

気がつけば

愚痴の聞き役


「何から何まで

客第一の

ホテリア稼業


横柄な金持ち客に

年がら年じゅう

ふり回されて

辛くはないか」と


意地悪く

訊いてみたって

どこ吹く風


「私が生きてる毎日も

ときどき感じる幸せも

ご大層な

ものではないけど

誰にも取ったり

できないでしょ?


日々の

平凡な幸せは

お金持ちが

巨万の富を

積んだからって

買えるものとは

思わない」


卑下もせず

外連味もなく

あまりに

あっけらかんとして


鉄槌食らった

気分だった


1ウォン単位の

相場の上下に

一喜一憂

くりかえしながら

億兆単位で

企業に値をつけ

右から左へ転がして

上前はねる

我が生業(なりわい)


告げてもいない

僕の職業


いつの間に君に

見透かされたろう?


ラスベガスでは

君の言動の

無鉄砲さが

物珍しく


一面識もない君の

僕には未知の

その価値観が

新鮮だった


以来

君のくり出す

次の一手は

やることなすこと

予期に反する

ことだらけ


そのたびに

僕は苦笑い


目が行くたびに

裏切られ

裏切られると

わかってるのに

耳傾ける


今では君に

裏切られること

そのことじたいが

心地よく

内心次が

気になる始末


僕が馴染んだ

常識とは

君はあまりに

相容れなくて


僕が住んでた

世界には

まずまちがいなく

いなかった人種


「もう昼休みが

終わっちゃう」と


血相変えて

走り去る

黒子の背中を

見送る僕は

今にも転ぶと

気が気じゃないのに


当の黒子は

小走りの

足も止めずに

ふりむきざま


「ごちそうさま!」と

声張り上げた


大好物の

給食終えて

ご満悦の

子どもみたいに

元気よく

お辞儀しながら


おごったなんて

気が引けるほどの

安うどん1杯に

礼を叫んだ


猫もかぶらず

シナひとつ

作るでもないのに


目が

君から離れない


何でだろう



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