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このホテリアにこの銃を  作者: 懐拳
3/22

3 再会


バーで待つと

ことづけたきり

ゆうに2時間


すっぽかされたと

あきらめて

あてもなく

戻ったヴィラ


日づけも変わる

頃だった


その玄関の

ドアに向かって

ポーチの明かり

1つを頼りに

客を迎える口上を

ためつすがめつ

繰り返す

ホテリアひとり


「ソウルホテルへ

ようこそ

どうぞごゆっくり…」


今年入った

新米よろしく

直立不動で

唱えては

首をかしげて

飽かずに何度も

やり直す


その当人に

すっぽかされた

鬱憤を

今の今まで

持て余してた

ほろ酔い客は


それでも

リハーサルの

邪魔をすまいと

かなり遠くで

気配を殺した


ラスベガスの

初対面から

1週間も

たってない


なのにもう

懐かしかった

君の声


大の男に

食ってかかって

客サービスの

何たるかを

理路整然と

まくしたて

我を忘れて

金切り声も

張り上げる

誰かさんの

一人舞台


目に耳に

焼きついてる


透き通って強く

でも温かく

人に寄り添う

その声は

ホテリアという

職ならではかと

腑に落ちたけど


その声を

いつまでも

聞いていたいと

いう欲は

君の顔見たさの欲に

あっさり負けた


ごめん

驚かせたね


ふりむいた君は

僕だと認めて

照れながら

バーの不義理を

早速詫びた


すっきりと

束ねた髪

漆黒の

タイトなスーツ

いっそ

“黒子”とでも呼ぶのが

ふさわしいほど


制服と言えば

それまでだろう

どこのホテルも

似たり寄ったりと

言えばそれまで


でも

良く似合ってる

想像以上に


余分な飾りも

華美な色柄も

何一つない

ホテリアの正装が

いっそ君らしい


「もしも

韓国にいらしたら

是非一度

うちのホテルへ」


ラスべガスで

君は言ったね


子どもでも

社交辞令と

わかる言葉を

決して

真に受けた

わけじゃない


でも君を

追いかけると

決めた以上


20年来の

鬼門の祖国に

今さら足を

踏み入れてでも

君を追いかけると

決めた以上


韓国での

僕の居場所は

ここ

ソウルホテルしか

ありえない


また逢えてよかった


よろしく

黒子のホテリアさん



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