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このホテリアにこの銃を  作者: 懐拳
19/22

19 これを持つべき人へ


本来持つべき

人の手に

もうそろそろ

返したかった


僕から君への

たぶん最後の

ルームサービス


受け取って

くれるかどうか

半信半疑で

届けたそれが


今 目の前に

立つ人の

その胸元に

以前とかわらず

楚々としてある


それを

この目で

見ている不思議


金にあかした

服や小物を

ぴしゃりと

一蹴する君を

どうにかこうにか

なだめすかして

渡しおおせた

唯一の

誕生日プレゼント


そして

あに図らんや

日をおかず


僕を睨んで

出て行った君と

引きかえに

舞い戻ってきた

そのネックレス


以来片時も

肌身離さなかった

いや

離せなかった

悪夢の主役


もはや君を

失ったも同然と

視界もぼやける

絶望の淵で

何十回 何百回

眺めたかしれない

この数カ月


それでもなお

君がどんなに

遠ざかろうと

死ぬまで

諦めきれないと

何十回 何百回

拳の中に

握りしめたか


そのプラチナの

悪夢の主役が

今日この日まで

傍らで

僕の全てを

見届けた


独りよがりの

狩人が

愚行に

猛進するさまも


いいかげん

恥という恥を

さらし尽くして

憑き物が

落ちたみたいに

一転

兜を脱ぐさまも


ミイラ取りが

ミイラになったと

揶揄されながら

全財産を

投げ打って

今度は

株を買い戻し

ソウルホテルの

買収阻止に

死に物狂いに

なるさまも


全て残らず

見届けた

その来し方の証人が

夢かうつつか

今また

君の胸元にある


面映ゆくもあり

ほろ苦くもあり


ただ1人君を

得たいがために

君以外の人

君以外の物の全てを

疎んじて

軽んじつづけた

大馬鹿者が

するべくして

させられた

遠回り


気が遠くなるほどの

時を費やした

回り道


決して

無駄ではなかったと

思いたい


その胸元の

清楚な光を

目に焼き付けて

そう信じたい


株券という

紙切れ以外

ほぼ無一文と

なり果てた

今初めて


心穏やかに

胸を張って

君に言える


ジニョン


「僕と結婚してほしい」


手元で開けた

小箱の指輪に


はにかみながら

黙ってそっと

差し出してくれた

左手を

承諾の意志と

受け取るよ


薬指の

澄んだ光を見届けて

下ろしかかった

僕の手を


素早く強く

握り返した

その左手が

望外の

返事をくれた


君がその手に

込めた力に


「死ぬまで

あなたの半身でいる」と


天にも昇る

返事を聞いた


信じるに値しないと

頭がどんなに

否定しても

心がひたすら

信じてしまう

それが

心底信じることだと


はるか昔に

大風呂敷を

広げた男が


いつになろうと

いつまで待とうと

必ずや君をと

馬鹿の一つ覚え

そのままに

信じつづけて


今やっと

叶った望み

授かった半身


生涯の

たった1人と

豪語して

求め続けた

君だから


何があっても

離したくない


抱きすくめても

抱きすくめても

足りないくらい

そう思う





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