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このホテリアにこの銃を  作者: 懐拳
15/22

15 宣戦布告


マティーニ煽った

くらいでは

酔ってもくれない

冷めた頭で

あざ笑ってた

己の滑稽


当直を選ぶか

僕を選ぶか

君に

両天秤に

かけさせて


僕を選ぶと

期待していた

自惚れを

思う存分

あざ笑うしか


砂噛むような

やり場のなさの

紛らしようなど

浮かばなかった

ヴィラへの帰り


通りかかった外苑で

目にした事実は

呆れるほどに

笑止千万


これはこれは


誰かと思えば

当直のはずの

ジニョン

君かな?


となりは

総支配人と

お見受けするが


帰りの遅い

傷心の客を

2人揃って直々に

お出迎えとは

痛み入る


しかも

よりによって

今の今


腕まで組んで

仲睦まじく

お出ましとは

何とも皮肉な

目の保養


ジニョン


慌てて腕を

解かなくていい

弁解も

要らないよ


微笑ましい

その光景が

100の弁解

聞くよりも

はるかに雄弁


教会なんか

来られないのも

道理だったね


当直の

真っ最中で

時計に目をやる

暇もないほど

てんてこ舞いに

ちがいないと


盗難か

急病人か

さすがの君でも

手に負えないほど

緊急事態の

夜なんだろうと


頭では

納得しようと

懸命なのに


ぽつねんと待った

教会で

姿の見えない

君を恨んで

ひとり

いきり立ってた僕を

笑ってくれ


1度くらい

騙されたつもりで

僕を信じて

来てほしかった

それだけなのに


最初も今も

僕の望みは

君だけなのに

何一つ

変わらないのに


待ちぼうけでも

まだ足りない?


こんな惨めな光景を

これ見よがしに

見せつけられなきゃ

ならないほど


僕は

忌むべき極悪人?

信頼にもとる

人でなし?


「信じてたのに

信じられなく

したのはあなた」


今にも涙が

落ちそうなほど

その目は

うるんで赤いのに

反論は

いつになく

冷静だね


ジニョン


君の言い分は

至極もっとも


だけど僕には

100歩譲っても

通りいっぺんの

抗弁だ

他人ごとみたいに

酷くて冷たい

言い訳だ


信じられなく

なったから

信じないのか?


信じられなく

なったら最後

2度と再び

信じないのか?


ジニョン


心底信じるって

どういうことだか

君は知ってる?


何かを心底

信じるって

どういうことだか

知ってるのかと

訊いてるんだ


およそ

信じるに値しないと

頭は笑って

否定するのに

心が勝手に

信じたがること


心がひたすら

言うこと聞かずに

信じつづけて

しまうこと


僕は

そういうことだと

思ってる


風防室で

口づけた日に


僕の想いは

1つ残らず

君に渡した

そして

君の想いも

僕はもらった


少なくとも

あのとき以来

僕はそう

信じてる


君たち2人を

目の前にして

これほど惨めな

今でさえなお

疑いもせず

そう信じてる


ジニョン

前言撤回だ


君が迷わず

その男の

側に立つ今

君たちと僕が

2対1で

相対する今


どうしてもひとつ

勝手な意地を

張りたくなった


君を求める

代償ならと

喜んで

手を引く気でいた

ホテルの買収


手を引くのは

やめにする

成し遂げて

みたくなった


ソウルホテルは

必ずや僕が

手に入れる


僕を疑い

僕を拒んで

ホテルという

隠れ家に

君があくまで

身を潜めるなら


奴との過去を

懐かしんで

今なお後ろを

向こうとするなら


その隠れ家も

その男も

もちろん君も

全部残らず

ひっくるめて


僕のものに

してみせる

約束する


決して

本意では

なかったけど

今こそ

ゲームの始まりだ


ルール?

そんなものは

存在しない


勝ってみせる

ただそれだけ


お先に行くよ


おやすみ

ジニョン



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