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このホテリアにこの銃を  作者: 懐拳
14/22

14 待ちぼうけ


たかが買収

されど買収


買収という

足枷ゆえに

君を永遠に

敵に回して

望みもしない

対峙をつづける

くらいなら


それならいっそ

賭けてみよう

そう思った


今夜

ここで

君に逢えたら


約束どおり

君が来るなら


この買収から

僕は一切

手を引こう


僕が仕掛ける

買収ゆえに

ホテルの前途に

君が無用に

心を痛める

くらいなら


僕が目論む

買収ゆえに

君が

ホテルの行く末に

涙を流す

くらいなら


夜が明けたら即

依頼主に

買収の

契約破棄を

通告しよう

そう思ってた


真夜中12時

約束の場所

待ちこがれても

人影はなく


10分過ぎ

20分過ぎても

教会の

はるか後ろの

重い扉は

コトリと動く

気配もなかった


判ってる


君が来るまで

このまま待てば

それで済む


義理堅さが

服着て歩く

君のこと

何時間遅れようが

必ずや現れる


待たせたことを

詫びながら

気の毒なほど

息せききって

駆け込んで来る


判ってる


でもジニョン

それは

今の僕には

来ないに等しい


冷酷

狭量

如何ようにでも

言ってくれ


1年365日

ホテルが

恋人みたいな君に

いや

ホテルの

人質みたいな君に

そうと承知で

強いた約束


しそびれた

あの痛恨の

懺悔をここで

この教会で

もう一度

やり遂げたかった


君を見初めた

顛末も

他でもない

この買収劇の

顛末も

すべて残らず

打ち明けたかった


だから逢いたい

真夜中でいい

せめて最後に

チャンスが欲しいと


一縷の望みで

半ば無理やり

強いた約束


「心が

信じたがってる」と


涙にくれて

うつむいた君を

諦めたくは

なかったから


1度くらい

ホテルも仕事も

かなぐり捨てて

僕のところに

来てほしかった


今日という

今日くらい

他のことは

全て忘れて

約束の時間

きっかりに

目の前に

立ってほしかった


ホテルよりも

僕を

選んでほしかった


まだそう

遠くない昔

この教会で


僕の肩

枕代わりに

まどろんで

帰る間際に

おもむろに

君が笑って

言ったっけ


「懺悔とやらは

もう終わり?

居眠りしてて

聞きそびれちゃった

いつかまた今度

必ずね」


もう忘れた?


それともあれは

あの場限りの

冗談だった?



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