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戦鋼のガナード  作者: ゼナード
第一章 少年達の戦場
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第三話 サンダーフォール要塞攻略戦

サンダーフォール要塞。

我が帝国軍が連合軍より奪取し、現在連合の実質的トップであるラシェード王国攻略の要とも言える場所である。

無論そんな要所をいつまでも敵に持たせては居れまいと、連合側も幾度となく奪還作戦を敢行してきたが、その全てをこの要塞は迎撃してきた。

それも全て、要塞の入り口に配置された200mmガトリング砲を装備したガナード、GES-P006のお陰であろう。

形式番号しかないのは、他に同型機が居ないプロトタイプ故であろう。

この場所の守り神にも等しき機体に、名の一つすら無いのを不憫に思ったのか、この基地ではアイギスと呼ばれている様だ。

そのアイギスは、以前来た時と変わらず、今日も連合側に砲口を向けて鎮座している。


「ここは以前と何も変わらんな」


私の漏らした言葉に、先導していた駐屯兵が振り向いた。


「アイギスのご加護があればこそ、ですけどね。あいつのお陰で幾度と無く激戦を制しました」

「ふむ。だがその盾も、いつまでも通用する訳ではあるまい」

「いいや、あれがある限り、ここは安全だよ。故に君の部隊、確かストライカー隊だったか?それの庇護を受ける必要はない」


私の言葉に答えたのは、ここの司令、ローム中将だ。


「要塞司令のローム中将自らお出迎えとは、恐縮です」

「君は相変わらず堅苦しいな、マクスハルト中佐」


よもや中将が、格納庫を出たところで出迎えるとは微塵も思ってはいなかったが、そのまま司令室まで中将と行く事になった。


「我が隊が必要無いとは、中々自信がお有りなのですね、中将は」

「君こそ何も解っとらん。この要塞は既に何度も連合を返り討ちにしているのだ。今更連合がここを取り返せる筈も無かろう?」

「ですが、最近この要塞近辺の野営地が尽く破壊されたと聞きましたが?」


そう、連合はこの数週間、要塞近隣に展開する我が軍の野営地を、全て破壊し尽くした。

これはどう考えても、要塞奪還へ向けた露払いと見るべきだ。


「仮に連合が奪還を企てた所で、あのアイギスは破れん」

「連合も馬鹿ではない、何度も挑めば突破口も見出すでしょう」

「ふん、貴官は心配しすぎなのだ。誰が200mm砲弾の雨を突破できる?貴官の小隊ではあれを突破する事ができると?」


確かに200mm砲弾の雨を正面から突破するのは不可能だ。

だが今度こそ、アイギスの盾も突破されるのではないか。

根拠はないが、嫌な予感が尽きない。


「敵の襲撃が終るまで、我が隊はここに駐留します。突破されぬなら良し、我らはそのまま去るだけです。しかし万が一突破された時は、我らが死力を尽くしてここをお守り致します」

「万が一?そんな弱腰でどうする。とにかく貴官の援助など要らぬ。私が指揮官なのだ、例え貴官の父親が――」

「ええ、理解しています。私は父親の名を使う様な真似はしません」


そう、例え偉大な父親が居ようとも、私はその力を借りない。

正真正銘、自身の力で成り上がり、自分の力で父の後を継ぐと決めたのだから。


「なら結構。指揮官として命ずる、マクスハルト中佐以下ストライカー隊の面々は、明日中にこの要塞より退去せよ」

「……了解しました」


その言葉を最後に私は中将と別れ、部下にこの事を伝えるべく、来た道を引き返した。


「杞憂…だと良いのだがな…」




一夜明けて、正式に少佐から作戦発表の旨が伝えられた。

一同がブリーフィングルームへと呼び集められ、少佐が作戦の詳細を説明する。


「我々は本日、サンダーフォール要塞攻略作戦を開始する」


噂で広まっていたとはいえ、室内は少佐の言葉にざわめいた。


「要塞攻略は三段階で行う。まず私が敵要塞に鎮座する、巨砲持ちの注意を引き付ける」


少佐が囮をするという事に、室内の者は動揺を隠し切れない様子だった。

俺も最初聞いたときは同じ反応だったので、無理も無いだろう。


「第二段階はシオン中尉とセオルング少尉の二名による電撃作戦だ。二名は高速で敵要塞に接近し、巨砲持ちを速やかに破壊する」


ヴィネットには昨日、食事の後で軽く説明したが、改めて少佐の発言を聞き、緊張の面持ちをしている。

俺はといえば、特に緊張はしていない。

任せられた役目をこなすだけだ。


「巨砲持ちが破壊され、敵の防備が薄くなった所で待機していたその他の人員で要塞に攻め入り、制圧する。簡単に聞こえるかもしれないが、第二段階に全てが掛かっている。シオン中尉、セオルング少尉、頼んだぞ」

「了解」

「お任せください!」

「では、ブリーフィングは以上、これより攻略作戦を開始する」


ハンガーへ向かう途中、他の人員達の視線を嫌でも感じた。

期待、尊敬、羨望、卑下。

込められた意思は様々だが、いちいち反応する気は無い。

俺はそれら全てを無視し、自分の機体の元へと真っ直ぐに向かう。


「シオン」


自分の機体の前に着いた所で、すぐ側に居たヴィネットに呼び止められた。

同じ隊なのだから、すぐ近くに居て当たり前だが、随分早くにここに到着していた様だ。


「シオン…、俺…今凄く緊張してるんだ…。万が一俺たちが失敗したら…」

「失敗時の事を考えるのは俺達兵隊の仕事じゃない、それは指揮官たる少佐の仕事だ」

「でも!俺達がミスをすればその少佐だって死ぬかもしれないんだぞ!」


ヴィネットは俺の肩を掴み、激しく叫んだ。

その腕はかすかに震えている様に感じられた。

人を、仲間を目の前で失うかもしれないという恐怖。

実際に失った俺には痛いほど理解できる。

だからこそ、ここで重責について悩むのは間違いだと知っている。


「だからこそだ。少佐はその事については熟考し結論を出したのだろう。少佐がそこまでのリスクを承知で戦うというなら、俺達は下らない悩みで戦場での判断を鈍らせる訳にはいかない」

「……そうだね、シオンの言う通りかもしれない」

「行くぞ」


表情を引き締めるヴィネットを見て、俺は一言だけ発して機体のコックピットへと向かう。

閉まるハッチの隙間から、先程とは打って変わって決意に満ちた表情のヴィネットが、同じく機体のコックピットに入っていく姿が見えた。

ハッチが閉まり、機体は起動シークエンスに入る。

OSが自動的に立ち上がり、システムチェックと各部の動作チェックが手早く実行される。


「相変わらず、良い整備だな」


チェックの内容を見ながら、改めて整備スタッフの腕前には驚かされる。

俺の弾丸斬りは、整備スタッフの素晴らしい機体整備あってこそ、彼らには感謝してもしきれない。


「シオン、そっちの機体は?」

「問題無い」


ヴィネットも機体の起動が終った様だ。

俺達はそのまま、高高度突入の為に輸送機へと乗り込む。


「追加ブースターを施したB型か…、一気に進入して叩く…って事だよね」

「そうだ。ヴィネット、ブースターは焼ききれても構わない、敵がこちらに砲口を向ける前に死角に入り込むんだ。間に合わなければ…死ぬだけだ」

「そうだね…」


話している内に、輸送機が動き出した様だ。

いよいよ作戦が始まるのだ。




「聞こえるか、こちら基地司令のショーン・マクゲイルだ。これより作戦を開始する。…死ぬなよ」

「「了解」」


少佐の短い号令の後、俺とヴィネットの間には沈黙が訪れた。

お互い、これ以上語るべき事はない。

後は出番が来るまで集中力を高めるのみだ。

と思った所で、その沈黙は引き裂かれた。


「第一遊撃小隊のお二方ですね。私は今回の作戦オペレーターを勤めるリリィ・アーネルン少尉です。既に作戦概要は説明されていますが、今後戦況報告や指示などは私から伝達します」

「了解した、よろしく頼む」

「よろしく!リリィ少尉!」


彼女の存在が良くも悪くもヴィネットの緊張を完全に取り払った様だ。


「ヴィネット、鼻の下を伸ばしている状況じゃない。気を抜いてると死ぬぞ」

「わ、解ってるよ!」

「クスッ。仲が宜しいのですね」

「それは認めよう。それで?現在の状況は?」

「現在、第一遊撃小隊の乗る輸送機は敵要塞の射程ギリギリの地点に向けて飛行中です。ショーン少佐と制圧部隊は間も無く予定地点に到達します。少佐が予定地点に到達次第陽動を慣行、当機はその後射程外にて第一遊撃小隊を降下させ離脱します」

「解った、この輸送機が予定地点に到達するまで何分掛かる?」

「およそ1分です」

「了解、何か変化があれば教えてくれ」

「解りました」


一分。

少なくとも少佐は一分以上敵の砲弾の雨に晒される事になる。

俺達が被弾しない事は当然大事だが、少佐に被弾されても困る。

俺達が一秒でも早く死角に入れば少佐に掛かる負担は減る、逆に少佐が被弾する様な事になれば、俺達も同じく迎撃される可能性が高い。

いわば俺達と少佐は一蓮托生なのだ。


「少佐が陽動開始しました!シオン中尉とセオルング少尉は降下準備に入ってください!」

「「了解」」


準備、と言っても元々機体は稼動状態にある上に、降下体勢のまま固定されているのだからやる事はない。

強いて言えば、心の準備をすると言った所だろうか。


「いよいよだね、シオン」

「ああ、死ぬなよ」

「シオンこそ、こんな所で死ねないだろ?」


ヴィネットの言葉に答える前に、リリィ少尉の声が俺達の会話を断ち切った。


「後部ハッチオープン、ドロップシークエンススタンバイ!一番機、シオン中尉どうぞ!」

「了解、一番機降下開始」


後部ハッチから機体が飛びだした瞬間、重力の影響を受けて猛スピードで降下が始まる。

本来ならこのまま特定高度まで降下するのだが、今回はあまり高度を下げる訳にはいかない。

すぐさま追加ブースターをフル稼働させて要塞目掛けて飛行を開始する。


「続いて二番機、セオルング少尉どうぞ!」

「了解、行きます!ところでリリィ?なんで俺はファミリーネームなの?」

「うるさいぞヴィネット、集中しろ」

「はいはい」


後方を見るとヴィネットの機体が同様に降下してきたのが見えた。

リリィ少尉は見事にヴィネットの戯言を流し、任務に専念している。


改めて機体のサブモニターをチェックすると、徐々にだが俺とヴィネットの距離が開いてきている。

あまり時間がない、というよりも早ければ早いほど良い。俺はヴィネットを急かす。


「ヴィネット急げ!少しの遅れが命に関る!」

「解ってる!!」

「リリィ少尉!少佐の方はどうなってる!?」

「現在少佐は陽動任務続行中です。被弾はありません」

「よし」


少佐の無事を確認した後、ブースターの出力を最大にする。


「おいシオン!ブースターが持たないぞ!」

「死角に入りさえすればいい!」


凄まじい加速で体の各所に強烈なGによる負担が掛かる。

呻き声を上げそうになるが、尚も歯を食いしばり加速を止める事はしない。

ブースターの出力限界を軽く超えてはいるが、ブースター一個使い捨てにした所で基地司令の命とは比べるべくも無い程些細な損害だ。


「シオン機、敵死角内まで残り18000!」

「敵機の様子は!?」

「未だ少佐が引き付けています!」


これ以上スピードは出ない。

まだ死角内まで16km程残っている。

近づけば近づくほど敵の砲弾の威力は増す。

しかもこちらのスピードは現在1000km/h。

万が一被弾した時のダメージは計り知れない。

しかし、例えこちらが静止していようが、200mm砲弾など当たればパイロットは即死だ。

後は機体がどの程度原型を残すかどうかの世界だろうが。


「シオン機、残り9000!」

「くっ!ブースターが限界か!」

「シオン!速度を落とせ!焼き切れるぞ!」


残り9kmを切った所で、ブースターが悲鳴を上げ始めた。

残りおよそ数十秒で死角に入れるが、それまで持つかどうか。

しかし、今はそんな事を考えても仕方が無い。

ヴィネットは俺より遥かに遅れているし、俺がなんとしても巨砲を仕留めるしかない。


「距離はっ!?」

「残り3000を切りました!」

「了解!ブースターをパージする!!」

「そんな!?」

「この勢いなら間に合う!」


パージされ、落下していくブースターが爆発したのはそれからほんの少し後だった。

もしブースターをパージせずそのまま飛行していたら、今頃俺自身も爆発していただろう。


「シオン機!死角に入りました!!」

「このまま仕留める!!」


減速中とはいえ、未だ凄まじいスピードで飛行する中、まだ些か距離のある敵のガナードを狙い撃つ事は難しい。

だが、この速度だからこそ、当たった時は容易く敵の装甲を穿つ筈だ。


「今だ!」


激しくぶれる照準が、一瞬だけ敵の機体と重なった瞬間、俺はトリガーを引いた。

現在の速度が加算された弾は、真っ直ぐ要塞まで飛んでいった。

だが、僅かに照準がずれたのか、弾は敵ガナードの足元にヒットし、地面に大穴を穿った。


「上出来!さすがシオン!」

「砲撃止みました!少佐も無事です!」


そう、十分だった。

足元に大穴を穿たれ、敵のガナードは大きく体勢を崩した。

元々無理矢理巨砲を載せた機体、動きはそれ程良くは無い。

穴から抜け出し、体勢を立て直す前に、俺は要塞内部へと侵入した。


「ここは返してもらう!」


射撃後に持ち替えていたブレードで、未だ穴から脱出せんともがき続ける敵のガナードを斬り捨てる。

この瞬間、帝国の敗北は決したのだ。


「作戦、成功だな」


爆発四散する最強の盾を目の当たりにし、帝国は迎撃部隊を出す事も無かった。


「お見事です中尉!今少佐が制圧部隊を連れて要塞へ向かっています!我々の勝利ですよ!」

「俺、何しに来たんだろう」


ヴィネットが寂しく呟いてはいたが、今はそれどころではなかった。

作戦の成功はほぼ確定だが、要塞ごと自爆、などという事態もあり得るかもしれない。

俺は引き続き警戒を続けた。

続けたのだが――。


「私はサンダーフォール要塞司令、ローム中将だ。当要塞は武力を放棄し、降伏する!」


オープン通信に入ったこの無線で、一気に緊張が解けた。

そこに遅れてヴィネットが要塞に到着した。


「無茶しすぎだよ、シオン」

「結果的には成功した、何も文句など無いだろう」

「いいや、絶対後で怒られるね」


すっかり気を抜いた俺とヴィネットは、迫る敵機に気付くのが遅れてしまった。


「ヴィネット!後ろだ!!」

「え!?」


咄嗟にヴィネットは機体を屈めたが、少し遅かった。

敵の機体はヴィネットの機体のブースターを切り裂いた。

当然、ブースターには燃料が残っているので、引火し――。


「ヴィネット!!!」


爆発した。

敵機のみならず、ヴィネットを乗せた機体を巻き込んで。

何故命令に従わず、抗戦を続ける敵が現れる事を予期しなかったのか。

自責の念に囚われそうになるが、すぐさま俺は今すべき事を整理した。


「リリィ少尉!救護班に連絡を!俺は安全確保とヴィネットの救出をする!」

「りょ、了解しました!」


先程の敵機は、爆発に巻き込まれて大破した様だ。

俺は続いて出てくる敵機がいないか警戒しつつ、ヴィネットの機体へと急ぐ。

当然だが、機体後部は爆発により殆ど残っていない。

俺はコックピットハッチを無理矢理こじ開け、中のヴィネットの元へと向かう。


「シオン中尉!私だ!状況を報告しろ!」

「少佐!降伏を無視した敵機の攻撃を受け、ヴィネット機が大破!現在ヴィネットの生存を確認中!」

「了解した、こちらも急ぎ現場に向かい、制圧を開始する!シオン中尉も警戒を怠るなよ!」

「了解…!」


警戒を怠るな、その言葉が俺の胸に突き刺さった。

俺は周囲に敵機が存在しない事を確認し、ハッチを開けてヴィネットの機体に直接乗り込む。


「シオ……無事…だった……」

「ヴィネット!しっかりしろ!」


生きていた。

生きてはいたが、爆発でコックピット内は滅茶苦茶で、パイロットスーツのお陰で何とか生き延びたといった感じだ。


「血が…こん……に…やばい…か……」

「頭を切ってる。頭は血が出やすいだけだ、やばくはない」


実際、俺には大事かどうかはわからない。

だが今は、勇気付けてやらねばならない。


「もう喋るな、今少佐達が向かってる。お前は助かる。諦めるなよ」


頷こうとしたのか、頭が少しだけ動いた様に見えた。

その後、少佐と共に制圧部隊が到着し、周囲の安全が確保された所で救護班も到着した。

ヴィネットは救護班の手でコックピットから移動され、基地へと移送されていった。

俺は自機のコックピットに戻り、呆然とするしかなかった。

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