序話 災厄の種
かつて、古代戦争と呼ばれる世界規模の大戦争が起きた。
当時存在していた西暦世界は、高度な文明を有していたが、その戦乱の最中にテクノロジーを含め、多くの物を失った。
失った代償の中で最大の物が、人類が安全に住める環境である。
戦争による傷跡は深刻で、大地は抉れて海になり、残された大地には黒き大地と呼ばれる生命の根付かぬ不毛の地が残された。
人々はその様な状況で、残された僅かな安住の地と、失われた文明の欠片を集めて暮らし、新世界と呼ばれる新たな時代へと移っていった。
その時、中心となった人物が後に新世界最大の大国となるグレイン帝国初代皇帝、シェゴール・エルディーユ・グレインである。
世紀末的状況であった最初期の新世界で、略奪団などの無法集団をシェゴール率いる一派が厳しく取り締まった。
次第にシェゴールの周りには人が集まり、街ができ、次第にグレイン帝国と呼ばれる国家としての基盤が完成していった。
そんな偉大な指導者も、人類の例に漏れず時の流れに没する。
偉大な指導者は新世界暦49年に72歳で死去した。
二代目皇帝にシェゴールの実子が即位するが、影響力の低下は免れず、新世界暦52年には多くの地方が独立していった。
それから数百年、国こそ別れはしたが、人々は協力してかつての文明、今では旧世界と呼ばれる西暦世界の技術の欠片を集めては復元し、緩やかではあるが、文明は再びかつての勢いを取り戻し始めた。
しかし、新世界暦707年。
時のグレイン帝国皇帝、ウィリアム・エルディーユ・グレインは全世界に向けて宣戦を布告した。
「このまま文明が復興していけば、再びかつての惨劇を繰り返し、今度こそ人類は滅亡する。滅亡を回避する手段として、今再び帝国が世界を統一し、支配下に置くことで平和を実現する」と。
如何に世界一の大国と言えど、世界全てを相手にするなど不可能だと思われていた中、技術復興の中心拠点であったグランディアが、僅か3ヶ月で完全制圧され、世界は震撼に包まれた。
帝国は、今まで各国が見た事も無い様な、全く新しい兵器を導入していたのだ。
それはガナードと呼ばれる、全長10m程度の人型兵器である。
戦車の如き重武装でありながら、歩兵の如き身軽さを発揮するその兵器に、既存兵器は全く太刀打ちできなかった。
しかし各国には幸いな事に、帝国は皇帝のやり方に反発する一派との内乱に陥り、新世界暦712年まで国土を二分する戦いを繰り広げる事となった。
各国はこの機に帝国を制圧する事を考えたが、力不足を感じた代表者たちはこの間に連合を組み、共同でガナード開発を行う事を決定した。
反乱軍を鎮圧した帝国は再び侵略行動へと移るが、5年という歳月はあまりに長く、各国にガナードの配備を許す結果となり、戦況は泥沼化を辿っていった。
それから1年が経過した新世界暦713年、経験の差からジワジワと帝国に押されていた連合は、ついに連合の中核とも言える新世界第二位の大国、ラシェード王国の国境目前まで追い詰められていた…。