第一話 1
15.2.2 ルビ編集
【最東の街・アズメル】
ラウルとセヴァンは、街に到着すると真っ直ぐ光の大神殿に向かう。
「……そういえば、ラウル様。確かフィリー様もここにお務めなのでは?」
「ああ。うん、そうだよ」
今、フィリーは神官になる為の修行をアズメルの光の大神殿で行なっている。
ニコニコしながらラウルはしゃべり出す。
「六年前に修行に出て、三年前に一度カンティオに戻って来て光の大神殿に行くと言ってたね。会うのはそれ以来なんだ。ずっと手紙でのやり取りはしてたけどね」
「……嬉しそうですなぁ、ラウル様。大神殿に到着したら、先にフィリー様に会われて来てもよろしいのですよ?」
セヴァンはラウルをからかうようにニヤニヤ笑いながらそう言った。
「な、何言ってるんだっ……光の聖者様に会う方が、さ、先だろ!?」
「左様でございますね。我々の任務は、これから帝都に赴かれる光の聖者様の護衛です。
まさか皇帝陛下から直々にこのような命令がラウル様に下るとは思いも寄りませんでしたが……、カンティオ領はアズメルから遠く離れておりますしね……
しかし、今後の計画会議までは時間がありますよ?」
「まだ言ってる……
同任務に加わる人帝国軍の兵達やセヴァンの部下の皆を待たせる訳にはいかないじゃないか」
とうとう目を据わらせてセヴァンを睨むラウル。
この任務にはセヴァンの部下、カンティオ領軍の兵士も参加することになっている。
ラウルを怒らせたセヴァンは大袈裟に頭を下げる。しかし、あまり懲りてはいないようで……、
「も、申し訳ございません。文通していたと聞いて、思わず顔が緩んでしまいまして……。
ふふっ……」
「緩んだ顔を隠す為に頭を下げないでよっ! 吹き出してるの聞こえてるし、全く……
あ……でも、そんなこと言うならセヴァンだって、奥さんと娘さんの写真を肌身離さず持ってるじゃないか。それも相当顔が緩んじゃうけど?」
ラウルが負けじとニヤニヤしながらセヴァンの秘密を暴露する。するとビクッと反応して勢いよく頭を上げるセヴァン。
「なな、何故それをっ……」
「この前たまたま見ちゃってね。セヴァンにも可愛いところがあるんだなって……
あ! 神殿の入り口。出迎えの人が待ってるよ!」
話の途中で駆け出すラウル。セヴァンも顔面を蒼白させながら一足遅れて駆け出した。
「お、お待ちを! ラウル様! 今の話はどうかご内密にっ――」
――ばれると恥ずかしいらしい。
こうして主従関係と言うより友人関係と言う方がしっくりくるほど仲が良いラウルとセヴァンは、光の大神殿の入り口に到着した。
入り口には二人を出迎えるように、数人の神官と立派な鎧で身を固めた男が立っていた。
「お待ちしておりました。カンティオ公公子“ラクシェン”様でございますね。
私はこの度の計画の総指揮を任されております、アグルス・バークゼントであります」
立派な鎧の男、アグルスが敬礼しながらラウルにそう言う。ラクシェンと呼ばれたラウルは一瞬戸惑いつつ、自己紹介を始める。
「えっと……ラクシェン・ウルト・デュオス・カンティオ。皇帝陛下の勅命を受け、参りました。
これからよろしくお願いします。バークゼント将軍」
ラクシェン・ウルト・デュオス・カンティオ。それがラウルの本名だ。
普通は自己紹介する時は本名で名乗るのだが、カンティオ領では公式の場でしか本名で名乗ることはなく、カンティオ領外の風習に疎いラウルは一瞬戸惑ってしまったのだ。
因みに、ラクシェン・ウルトまでが名前で、ラクシェンが上名、ウルトが間名という。上名と間名があるのは貴族のみである。
カンティオ領外では上名で呼ぶのが常識で、“ラウル”のような上名と間名をくっつけた愛称で呼べるのは貴族同士に限られる。
「私は、ラクシェン様の侍従であります。カンティオ領軍近衛師団所属、セヴァン・ガルディオと申します」
続けてセヴァンが敬礼した。
直後、アグルスの後ろから女性の声があがる。
「ラウル様!」
「えっ……フィリー!?」
ラウルの前に現れたのは、他でもない幼なじみのフィリーだった。
変わらず綺麗な桃色の長い髪をなびかせ、彼女は明るく微笑む。
「お久し振りです! ラウル様!」
「……う、うん。お久し振り。
まさか君から出迎えてくれるなんて思ってもいなかったよ」
「私も反対したのですがね……」
と、何故か呆れ顔のアグルス。
しかし、ラウルはフィリーとの再会を喜んでいる場合ではない。セヴァンが小声でラウルにそのことを伝える。
「……ラウル様。今はまず光の聖者様にお会いせねば……」
「……そ、そうだね。
ごめん、フィリー。募る話はあると思うけど、僕らは今から光の聖者様にお会いしないといけなくて」
ラウルのその言葉に返事をしたのは、さっきから呆れ顔のアグルスだった。
「もうお会いしていますよ……」
「――え?」
アグルスの言った言葉の意味がわからず、ラウルは眉をひそめた。すると、フィリーが間髪を容れず、満面に笑みをたたえて答える。
「わたくしが光の聖者なんです」
『…………』
ますます意味がわからず――いや、わかってはいたが、あまりに衝撃的な事実を知って、揃って呆けるラウルとセヴァン。
そして、思い出したかのように驚くラウル。
「えぇっ!? だ、だって、手紙には何も……」
「驚かせようと黙ってたんです」
――とんだお茶目である。
「フィリー。そういうことはもっと早く教えてよ……」
「うふふ。驚きました?」
「いや、誠に驚きました。まさか、フィリー様が光の聖者様であらせられるとは……」
「そんなに堅苦しくならないで下さい。セヴァンさん。わたくし、別に偉くなった訳ではありませんから」
恐縮しているセヴァンにニコニコしながらそう言うフィリー。しかし、真面目なセヴァン、そこは手を抜かずに……、
「滅相もございません。光の聖者様は我が人帝国の希望なのですから」
「そうでありますよ。フィリー様。もう少し光の聖者としての自覚をお持ち下さい。
光の聖者として慎んだ行動をお願いしますよ」
アグルスがセヴァンにそう続いた。フィリーがラウルを出迎えるのを反対していたアグルス。何か今の発言に関係しているのか……。
「そうですけど。ラウル様達と会うのは本当に久し振りだったので……
あ! アグルス様。まだ会議までには時間がありますよね? わたくし、ラウル様にエンブレムをお見せしたいのですが……」
「また言っているそばから……」
「……駄目、ですか?」
「いいえ。どうぞ、ご案内して差し上げなさい」
「はいっ!
じゃあ、ラウル様! 行きましょう! こちらですよ」
フィリーはラウルの手を取り、半ば無理矢理引っ張っていく。
「あっ……、ちょっ、フィリー!? 待ってよっ!
ごめん、セヴァン! 僕、行って来るから!」
「いってらっしゃいませ。ラウル様」
フィリーに引っ張られて神殿の中に見えなくなっていくラウルを、セヴァンは笑顔で見送った。
「……全く、フィリー様には困ったものだ……」
「まあ、そう仰られず。
あのお二方は幼い頃からの親友です。久方振りの再会に、はしゃいでしまっても仕方ありませんよ」
そう言って笑うセヴァンに聞こえるか聞こえないかほどの小声でアグルスが漏らす。
「……公爵家公子と平民の娘が親友……これだから“カンティオの田舎者”は……」
「――将軍閣下? 今、何か……?」
目の色が変わったアグルスを不審に思うセヴァン。しかし、アグルスは首を横に振る。
「――いいえ。
ところで、セヴァン殿。会議の前に少しお話があるのですが」
「私に、ですか?」
「ええ。とりあえず、そなたからラクシェン様を“説得”して頂きたい」
「……説得?」
セヴァンにはアグルスの発言の意図が理解出来なかった……。




