第六話 3
16.2.23 本文修正
後退したフィリーとデュラン。前を見ればラウルとミリアが獣魔と対峙している。
アゼルドもミスティもラウル達の相手をするだけで、デュラン達の方へ向かってくる様子はない。
「こっちには来ないな。ラッキー!」
「喜んでいる場合ではありません! お二人を助けないと!」
狙われているのは自分なのに、じっとしていられない様子のフィリーをデュランがなだめる。
「待って待って! 変に挑発してこっちに来られても、おじさんの武器はナイフしかないのよね」
と、腰のベルトに付けられた鞘に収まっている八本のナイフを見せるデュラン。ナイフと呼ぶよりは、忍者が使いそうな“クナイ”の形に似ている。
「つまり、接近戦はからっきし駄目。フィリーちゃんも武器になりそうなのは杖だけでしょ?」
「そうですが……」
フィリーの杖でも殴られたら痛そうだが、剣の相手を出来るようなものではない。
「魔道士の正攻法としては、ここから魔法だね」
「相手は獣魔。光魔法……
ディバイン・ブレイドですね!」
「うんにゃ。ありゃ呪文が長過ぎるから避けられたらお仕舞いよ。それよりもいい作戦があるんだけど……、耳を貸してくれる?」
「え……?
あ、はい!」
デュランは耳打ちをしてフィリーに作戦の内容を告げた。
一方、ミリアとミスティの戦いは続いていた。
滑降と上昇を繰り返し、ミスティは執拗にミリアを狙って斬り付ける。素早い動きにミリアは防戦を強いられる。
「速い……。これじゃ弾き返すだけで精一杯……」
ミスティの滑空しながらの斬撃をなんとか剣で弾きながらミリアは呟いた。
「あらあら。自慢の魔法剣が泣いてるわね」
空中にとどまり、ミリアを見下ろすミスティは余裕の表情。
かわしきれなかったのか、服を所々斬られているミリア。空を飛んでいる相手に剣では不利だった。
「わたしの剣を甘く見ないで!
《轟炎》!」
剣を振り、火の粉を飛ばすミリア。しかし、ミスティはヒラリと宙を舞ってそれをかわす。はずれた火の粉は虚しく宙で爆発した。
それを花火にたとえてミスティは笑う。
「あらぁ。綺麗な打ち上げ花火ね」
「まだまだ!」
ミリアは再び《轟炎》を使い、火の粉を飛ばす。しかし、やはりそれはミスティにかわされてしまう。
「もう。同じ攻撃ばかりじゃつまらないじゃない。無駄だと知っても諦めが悪いわね。
人間様はどんなに頑張っても“飛べない”のだから、地に這いつくばって、もがいているのがお似合いね」
「……そうね。飛べるのは羨ましいわね。でも、飛べることがそんなに素晴らしいこと?」
高慢な態度のミスティを挑発するようにそう言うミリア。
「何よ。威勢だけはいいのね。
でも、私には魔法だってあるのよ? 地面の上から何が出来るって言うのかしら!?」
ミスティは上昇し、真下にいるミリアに向かって手を伸ばす。その手の先に灰色の魔道陣が展開した。
「くらいなさい――シャドウ・レイン!」
ミスティの手から放たれる黒い雨。それはまるで黒い串のように地面に突き刺さっていく。
そして、それがミリアの体にも突き立とうとした瞬間、ミリアは叫ぶ。
「《炎壁》!」
剣の炎が青くなり、ミリアを取り囲むように広がって黒い雨を弾く。
「っ!?
闇魔法が炎の剣に弾かれたですって! そんなことがある訳――」
魔法剣と言えど炎は理属性。闇魔法の方が有利だ。炎で闇を弾くことはかなわないはずだが、ミスティは気付いた。
「この全身に突き刺さるような魔力……、まさか! 光の魔力!?」
「この魔法剣の名前は陽光剣。なんで“光”の字が入ってるのかわかる?」
青い炎の壁の中から現れたミリア。防ぎきれなかったのか、数本の雨に当たって頬や腕から血を流しているが、頭上高くにいるミスティを見上げて立っていた。
更に、《炎壁》を放った直後に《招雷》を使ったのか、剣には雷が宿っていた。その剣を掲げてミリアは言う。
「もう一つの質問よ。雷は低い所と高い所、どっちに落ち易かったかしら!?」
「っ!!」
ミスティは炎の剣が雷の剣に変わっていることにようやく気付き、空に向かって防御の魔道陣を展開させようとするが……。
「遅い!
《降雷》!」
バシンッと激しい破裂音と共に、閃光がミスティの体を貫いた。《降雷》は雷を落とす陽光剣の技。
呪文詠唱もなく、雷は一瞬で落ちる為、ミスティにも防ぎようがなかった。
「きゃあぁっ!!」
悲鳴をあげてミスティは地面に墜落した。そして、地面に落ちた後は動く気配のない彼女にミリアは言う。
「飛べるからって、上昇したのが運の尽きよ……」
それと同時に傷の痛みを我慢していたのか、ミリアは尻餅をつくように地面に腰を落とした。
「へぇ……、結構素早いんだな。青髪君」
大木を殴り倒したアゼルドがラウルに言った。力を見せ付けたアゼルドは余裕を見せていたが、一方のラウルからはその様子は見られない。
「……あんな攻撃、一度でも受けたら駄目だ」
木製の武器が金属製のように変化した魔法、ドレスト・ダーク。その魔法の詳しい効力はわからないが、明らかに常人ではない身体能力を見せるアゼルド。
「(魔法の効力か、元々備わった獣魔の身体能力か……。とりあえず近付くのは危険だ)
月光剣――《明鏡止水》!」
アゼルドから距離をとり、斬りたい物だけ斬ることが出来る水の刃を放つラウル。
「ふんっ! そんなもんなんか効くかよ!」
アゼルドは水の刃を殴り付けた。すると、弾けるようにして水の刃は四散した。
「なっ……
さっきの魔法、武器に闇の魔力を!?」
ラウルが目を丸めているうちに、アゼルドは一気に間合いをつめてラウルの剣の刃を右手で掴んだ。
「闇の魔力を宿らさるだけじゃねぇぞ? こういうことだって出来るんだぜ?」
「直接刃を手で!?
は、放せ!!」
もがくラウル。しかし、刃を直接掴んでいるアゼルドの手が斬れている様子はない。
アゼルドはラウルに顔を近付けて言う。
「お前、戦いに慣れてねぇだろ? 敵を前にいちいち考え事が多すぎ。バレバレだぜ?」
「くっ……」
「戦いに必要なのは――
“本能”だけだぜっ!!」
と叫んで、ラウルの顔面に目掛けて拳を振るうアゼルド。
ラウルは息を呑む。大木をも倒したアゼルドの拳がラウルの顔をとらえようとした瞬間、ミスティの悲鳴が響く。
「きゃあぁっ!」
「っ!? ミスティ!」
アゼルドがミスティの方へ振り向く。だが、その彼は別の理由で身を硬直させる。
「(全身が痺れる……。何だ……)
――光魔法かっ!」
体中の細胞が騒ぐように痺れ、アゼルドはすぐに察した。
見ればラウルの後方の二人が詠唱を始めていた。
「《其ハ光弾、彼ヲ照ラセ》」
「《ソレハ光ノ礫。彼ニ向カイテ彼ヲ照ラセ》」
デュランとフィリーの詠唱が重なる。同じ魔法のようだがデュランは短縮発動の短い呪文の為、一足早く発動させる。
「――シャイニング・バレット!」
「チッ! 二人共、光の魔法使いだったのかよ!」
デュランの手から無数の白い弾丸がアゼルドに向かって放たれた。アゼルドはラウルの剣を放して飛び退き、それを避けるが……、
「――シャイニング・バレット!」
「なっ……」
時間差で放たれたのはフィリーの魔法。デュランと同じ魔法が、飛び退いた瞬間のアゼルドを襲う。
「くそっ!!」
アゼルドは身をひねってそれも避けるが、体勢を崩して地面に倒れた。
その時には既にデュランが再び詠唱を終えていた。
「――彼ヲ照ラセ》
もう一丁! シャイニング・バレット!!」
「って!!」
まさかの三発目に地面に倒れたアゼルドは目を丸めて息を飲んだ。光魔法の直撃を受けては命の保証は無い。
アゼルドは咄嗟に地面に手を突いて叫ぶ。
「くそっ!
ファントム・ゲイルッ!」
アゼルドの体の下に魔道陣が展開し、そこで黒い霧をまとった突風が爆発してアゼルド自身の体を吹き飛ばした。しかし、それによってデュランの光魔法は外れる。
「ぐああっ!」
「んなっ! 自爆して避けたっ!?」
「ぐ……、光魔法をくらうよりは――っ!? 青髪がいないっ!?」
自ら放った魔法によって吹き飛び、地面に転がって傷だらけになりながらも、ゆっくり立ち上がったアゼルドはラウルが姿を消したことに気付く。それと同時に気配は背後に生まれた。
「月光剣――」
「後ろだとっ!?」
「《光風霽月》!!」
ラウルの青白く輝く剣がアゼルドに目掛けて素早く振り下ろされた。




