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短編小説

あの二人に距離がある原因について

作者: 夕凪

ブランクリハビリ短編第一段

 君はこの国の子どもは、希望すれば3年間学術所というところに通うことができるのは知っているか?

 学術所は大きく分けて3つあり、初級、中級、上級とある。

 初級は入学するのに制限はないため、庶民は入学して基本的な読み書きや計算を習う。期間は3年で、ここで自分の名前が書けるように、本が読めるように。計算ができるようにと、生活に困らない程度の知識を取得するんだ。


 その上の中級になると、地位の高くない貴族や商人なんかの子どもが通う。もうちょっと専門的な勉学を教えてもらえるからだ。加えて中級からは士官学校としての側面を持っているから、ここを卒業すれば貴族の屋敷に仕えたりってことも可能になるな。ただし、安いとはいえ学費を取るようになるから、庶民はほとんど入らないが。


 さらに上級になると、大貴族と呼ばれる家の子息令嬢たちが箔付けのために入ってくる。家庭教師に個別に教えてもらっているから、彼らの目的は人脈を作ることと結婚相手の物色だったりする。俺もまあ例外ではないが。王宮で仕官するには上級学術所を卒業している必要があるから、その為でもあるだろう。


 そんなことは知っている? 分かってるよ、君はそうやって反応するのが面白いんだ。良いじゃないか、俺は留学から帰ったばかりで............ああ、悪かった悪かった。

 まあ、兄とあの方が仲違いと言うか、微妙な距離があるのは分かっている。君はその根本原因を知りたいんだろう?

 後悔する、とまではいかないがあまり聞かない方がいいと思うがね。は? ............あの方にも聞いたのか。あの方はお聞きしても答えてくださらないだろう。実を言えば俺とてあまり話したくはないが、あの方が俺に聞けと仰ったなら話さざるを得まい。

 では、俺が今から話すのは、俺の不肖の兄と、学術所で上級の間俺の兄と友人であってくれたあの方に関する事情だ。

 さいしょからすべてはなすから、もしかしたら君も知っていることかもしれないが、とりあえずは最後まで聞いてくれ。




 あの方ーーーアレクさんは学術所でも有名な人だった。あの方、なんて呼んでいるけれど、もともとの身分は実は高くない。

 兄や俺はその時点で侯爵である父から子爵、男爵の名をもらっていたのに比べ、あの方にそんな身分は存在しない。そこまで大きくない商店の生まれだったと記憶している。

 アレクさんの優秀さに、ご両親が期待を込めて学費を貯めて居たらしい。あの方が無事、王宮に勤めていることを考えると、ご両親は先見の明があったということだろう。


 だから、兄はあの方と出会うことが出来た。

 不肖の兄、とはいったが、兄の優秀さは弟の俺からみても群を抜いていたと思う。人間性はともかくとしても、こと勉学や武術に関してはさしたる努力もなくできてしまう人間だった。性格が悪かった、というわけでもないんだけれど、なんというか、疲れる人ではあったがね。

 兄は有り体に言うなら天才だったんだろうな。だからこそ、俺たち家族は兄が利害関係でない友人を作れるのか少し不安だった。


 その不安は杞憂だった。あの方は兄と同じくらい、もしくはそれ以上に出来る人間だ。それはあの方の部下として働いている君もよく知っていることだろうな。

 兄は初めて、自分と対等だと思える相手に出会ったんだ。

 普通はそういう人間に対してはライバル心が芽生えると思うんだが、兄は、ある意味優しいと表現するべき人間だったから、仲良くしたいと心の底から思って接近したんだ。

 あの方ももしかしたら同じような心境であったのかな。あの方の心情なんて俺には想像しかできないけれど、そうであったと願っている。


 兄は初めて出来た対等の友人だったから、ものすごい速度であの方に好意を抱いていった。とはいってももちろん同性に向ける友情だよ。兄は一途だから、婚約者殿をきちんと愛している。ただ、先程もいった通りある意味優しいうえに、女性に対してはこうあるべきって英才教育を受けているからね。婚約者殿からも喜ばれるそれを信じて律儀にすべて実行する兄は無駄に女性を引き寄せてしまうみたいだけれど。

 

 あの方と出会った日からずっと、兄はどうやったらアレクさんと仲良くなれるのか話していたよ。

 あの兄が勉学では僅差で負け、武術では僅差で勝つ。

 あの方にあっていない頃の俺はなかなか信じられなかったが、それくらい実力がつり合ったもの同士なら敵対関係でないなら近付くのに困らないだろう。そう言えば、兄は嬉しそうに笑って仲良くなる算段をつけていた。兄の婚約者も、そんな兄を微笑ましく見ていた。


 一年くらいたって、兄とあの方は段々仲良くなっていったみたいだ。

 兄たちと同級の人間に、最初から仲が良かったと言われたかもしれないが、最初の一年くらいはただ兄があの方にストーカー並みにへばりついていただけ。むしろアレクさんの方は迷惑していたようだったな。今日は「寄るな変態」って悪口言われたよ、と嬉しそうに笑う兄が怖くなったのはその頃だ。............やめてくれ、わかっている。分かっているからその同情する目はやめてくれ。


 あー............どこまで話したんだったか。

 そう、一年間気持ち悪くも付きまとった兄が得たのは、諦めと呆れと、多分きっと友情だったら弟として嬉しい。

 その頃になると、兄は強引にあの方を家につれてきては遅くまで引き留めて居た。

 いくら兄と同じくらい優秀とはいえ、最初は両親も庶民を連れてくることにいい顔をしなかったんだが、兄の態度とあの方の諦めた表情に申し訳なくなったんだろう。それに、あの方の容姿は整っていたし、洗練された動きと雰囲気もあったから、家中が次第にあの方を歓迎するようになっていったんだ。

 あの方に似合う服を兄の婚約者殿が仕立ててプレゼントしたり、あの方が連れてこられた日の晩餐は豪華になったりね。

 あの方は泊まることこそ無かったが、本当に頻繁に連れてこられていたよ。あの方が兄に何か、普通なら無礼と言われるようなことをしたとしても、あの方なら仕方ないと家の者全員に思われるくらいにはな。

 俺はその頃ちょうど13だったか。

 あんな気持ち悪い兄ってどうなんだ、いや、あいつと友人やってる私が言える台詞じゃないが............という言葉と表現しがたい微妙な表情はよく覚えている。

 だから、その目はやめろ。


 そんな状態で一年が過ぎ、優秀な二人は早くも卒業することになった。

 上級学校を卒業するとき、首席と次席は国王陛下に謁見できることはしっているな。

 あの方は学術所で王宮からの迎えを待つ手筈だったんだが、兄が親友なんだから一緒に行くんだとか言い張ってな。正装もこちらで用意したからと、兄は楽しそうにしていたよ。アレクさんも、服に関しては悩んでいたようだったから渡りに船と嬉しそうだった気がする。

 そんなあの方が衣装を手にとって、少し怪訝な顔をしたんだ。兄は何かきにいらなかったのかと詰め寄っていたが、アレクさんは「何でもないよ、親友」と兄をかわしていた。あの方の兄操縦技術、いや、兄のあの方に関する盲目具合は目を見張るものがある。その一言だけで兄は誤魔化されたんだからな。


 着替えたあの方は凛々しかった。今の俺と同じくらいだったはずだから、175前後しかない身長だったが、細身のあの方には黒い礼装が似合っていた。あの方がいつも黒い髪を結わえていた金と黒の飾り紐に合わせて仕立てたんだと兄と婚約者殿はうなずきあって満足していたし、俺としてもああいうきっちりした男になりたいと思ったものだ。

 あの方は俺たちにきちんと作法に乗っ取った礼を述べてから、兄を引きずって王宮に向かった。


 王宮での話は聞いていない。

 そこから兄は急に思い悩み始めたんだ。俺たちが何を言っても尋ねても、帰ってくるのはああ、とか、うう、とかばかりで、全くわけがわからなかった。何か粗相をしたのかと、両親は陛下に謝罪しに行ったが、何の粗相もなく、むしろ二人の容姿や動きが良い分、陛下以外の心証も良いようだった。

 君も知っている通り、兄もアレクさんも問題など起こしていなかったんだからそれは当たり前だ。だけれど、その時から兄がおかしいのは確かで、これはあの方に聞くしかないだろうと、あの方を家に招待したんだ。

 

 兄が数日部屋に引き込もって思い悩んでいるのを心配して婚約者殿も我が家に居たから、両親、婚約者殿、俺とあとは古参の執事と侍女長で6人。

 あの方を含めると7人は家のサロンでお茶を飲んでいた。父としては男同士、遊戯室で酒でも飲みながらやんわり話を聞きたかったようだが、そうすると母や婚約者殿が入れないので却下され、急遽お茶会が開かれた。



 ここからは、あったことをそのまま話そう。一言一句は無理でも、流れはほとんど覚えてしまってるんだ。忘れたくてもね。


 あの方も話は分かっていたんだろう、他愛もない世間話からなんとか聞き出そうとする両親を遮って、レンデルのことでしょう、と話を切り出した。ああ、あの方は兄を呼び捨てることを許可されていたからな。アレクさんとしてはいつまでも様付けで他人として生きていきたかったのだろうが............。


 ............あの方は、最初にこう前置きしたんだ。大したことではありませんよ、と。

 俺は、いや、おそらくその場に居た全員が意味を理解できなかったに違いない。あの方はその場の空気をものともせずに微笑みながらカップを空けた。

 お代わりを断って席をたつあの方は、全員を見回して宣言した。


 「今から私がレンデルの部屋に行けば、レンデルが思い悩んでいる理由もはっきりわかるでしょう。ただ............あまり婚約者殿に見られたい図ではないので、控えられたほうが宜しいかと思いますが............」

 「いいえ、かまいませんわ。むしろ、レンデル様が何故ああまで苦しそうになさっているのか知りたいのです。男性同士の話と言われてしまってはわたくしに権利はないのでしょうけれど」

 「そのようなことは決してございませんよ。レンデルは、貴女のことをとても愛している。愛しい人に聞かれて困る話など、あいつに持つことなど出来ますまい」


 あの方は押し黙る婚約者殿の手をとって、兄の部屋に向かった。

 エスコートする姿はまるであの方こそが恋人のようだったが、俺は全く違和感を抱かなかったな。むしろ、そうであったほうが婚約者殿には良いんじゃないかと思っていた。兄があの方に関しては変態で............っぽいことは分かっていたからな。

 勝手知ったる他人の家。あの方は迷うことなく兄の部屋にたどり着き、失礼、と両親に断ってから扉を蹴り開けた。


 「やあ、レンデル。君のために私は忙しい時間を割いたんだ。さっさとご家族に事情を話せ」


 あの方は底冷えする笑顔でそう言った。

 兄は自室のソファで頭を抱えていたんだが、扉が蹴破られた音にはさほど反応もしなかったのにあの方の言葉にゆるゆると顔をあげた。その顔は窶れていて、よほどのことが二人の間にあったんだろうと思わせるものだった。顔をあげた兄はあの方のみが視界に入っていて、おそらく俺たちのことは気付いていなかっただろうな。

 小さくあの方の名前を呼んだ兄に、あの方は盛大に舌打ちをして殴り飛ばした。


 「いい加減にしろ。このど変態が。私は全く気にしていないし、むしろそれで良かったと思っているくらいだ。勝手に思い悩んで私やご家族に迷惑をかけるな」

 「だがっ! ............アレク、本当に、わ、私はおまえ、いや、あなたにどう謝れば良いのか」

 「必要ないと何度いったら理解する? 理解力がない、のは元々か。私はお前と友人なんだろう?」

 「も、勿論だ! し、しかし、私は今まで、アレクにあんな態度を............」

 「友人であり、良い好敵手だったんだ。お互い本気でやるのは当然だろうが」


 何となく、兄がアレクさんに何かしたということは分かった。殴り飛ばされてさえも気にしていないくらいの何か。俺たちはさっぱり理解できなかった。そそれもアレクさんは気にしていないと許しを与えてくれているのに、兄がそこまで悩むほどの事が何か思い付かなかった。

 俺たちは空気になった気分でそのやり取りを眺めていたんだが、兄の次の行動に目を見張らせた。


 兄はふらりとアレクさんに近寄り、物語の騎士のごとく跪き、あの方の手を額に戴いた。鼻血さえなければ様になっただろう。

 

 君は分かるか?

 昔ながらの、騎士が許しを請う動きだ。それも、女性に対するな。

 あの方は気持ち悪そうに顔をしかめて取られた手を抜き去った。ズボンで手を拭いても居たな。

 それはそうだろうと思った。俺がもし君に同じようなことをされたら、すぐに手を洗うくらいには嫌だからな。君だってそうだろう。


 「ああ............どうか今までの態度を許してほしい。気付かなかったのは私の無知によるもので、貴女に魅力がないわけではない。これよりはきちんとした態度で貴女と接することを誓う」

 「いらんと言っているのがわからんのか、底脳! お前以外は私を女と知ってお前と同じような態度なんだ。ああ、気持ち悪い」


 ............笑ってくれて良い。

 わかっていたかと思うが、俺たちは兄があの方を男性だと言っていたからこそ、それを信じてそう接してきた。よく見ればきちんとした女性だと分かりそうなものだったんだが、俺たちはあの、女性に対しては無条件に優しく、悪く言えばタラシな兄があんな明け透けな態度をとるあの方のことを男性だと思い込んでいたんだ。 気付かせなかったのはあの方の男らしさもあった、というのは言い訳だろうか。

 

 あの方はごみでも見るような目で兄に一瞥をくれたあと、俺たちを振り返って頭を下げた。


 「申し訳ありません。隠していたわけではなかったのです。他の、私を女と知っている同級のものもレンデルと同じような態度で接しておりましたし、まさかレンデルが分かっていないとは思いませんでした。............正装が男性用だったのでもしやとは思っておりましたが、そのせいで、皆さま方に無用の混乱を招いたこと、謝罪申し上げます」

 「そんな、おまっ、いや貴女が悪いわけではないだろう! すべて私の不徳のせい。頭を下げるべきは」

 「黙れ、お前は口を開くな」


 兄を言葉と視線で黙らせてなお頭を下げ続けるあの方に、一番早く復活したのは婚約者殿だった。


 「............いいえ、いいえ。わたくしとて、知らずに貴女に男性用の衣服を仕立ててしまったのですもの。申し訳ありませんわ。謝罪されることなどございません」

 

 あの方は弱々しく微笑んで、そっと婚約者殿の手を取り口付けた。


 「そのようなこと。私は動きやすい男物の衣服を好んで着ているのです。婚約者殿には感謝しておりますよ」


 ああ、あのときのお二人はそれこそ絵画に出てくるように似合いだった。頬を染めた婚約者殿にさもあらんと納得してしまうくらい、あの方は格好良かったからな。

 俺はふと兄を見た。

 兄は、はたからみても複雑な表情をしていたよ。

 先程も言ったが、兄が婚約者深く愛している。覚えているな? しかし兄は、女性は皆可愛らしいとも思っている。兄ならば、そんな女性同士の会話は微笑ましいと思いこそすれ、嫉妬など浮かべるはずもなかった。

 

 だが、あの方は、兄にとって未だに男性であった。

 頭で理解しても納得できないということだったんだろうが、繋がれた手を引き離したい独占欲と嫉妬、しかし女性同士ならば微笑ましいという心が混在していた。


 兄は無意識にアレクさんから婚約者殿を奪い返して抱き込んだ。が、アレクさんを見る目は困惑していて、兄自身どういう反応をして良いか分からなかったんだろう。


 「はー...........おまえ、その様子じゃ私を女性として扱うなど無理だろう。私は気にしないから無駄な努力はやめておけ」

 「しかし、それは」

 「ふうん。............ならばレンデル。私がこれから婚約者殿と買い物に行ったり観劇したり、婚約者殿の家へ泊まりに行っても構わないんだな。庶民では泊まり行った先で一緒のベッドで眠ることも多いんだが。ーーーねえ、婚約者殿。今度、有名な恋愛劇が始まるそうですが、よろしければご一緒しませんか? 美味しいお菓子の店も知っておりますので、是非ご紹介したいのです」


 あの方は抱き込まれたままの婚約者殿に蕩けるような笑みを向けた。

 確かにあの方は女性なのだから、言ったことすべてを実行しても何ら問題はないだろう。一緒のベッドはさすがにどうかと思ったが、部屋数のそう無い庶民の家ならばそういうこともあり得るし、女性は話好きが多いから、ベッドで眠るまえに会話を楽しむことも想像に難くない。

 赤くなったまま無意識に頷いてしまった婚約者殿を見て、兄は慌てた。


 「だ、駄目だ。アレク! 私の婚約者だ!」

 「何をいってるんだ。私は、ただ婚約者殿と同性の友達になりたいと誘っているだけだ」


 事実を見ればあの方の言う通りだ。見た目は友人の恋人を誘惑する悪い男に見えたとしても。


 「わ、わたくしでよければ、お友だちになりたいですわ!」


 兄の婚約者ということで、彼女に女友達が少なかったのはあとで知った事実だったが、彼女のその宣言がまた、兄をどん底に突き落とした。

 ショックやらでも婚約者に友人ができるのは嬉しいやらでどうして良いか分からない兄を尻目に、あの方と婚約者殿は楽しそうに会話を続ける。日時はどうする、劇はこういうので、お菓子は何が好きか、泊まりに来てほしい。


 「わたくし、アレク様と一緒に寝たいですわ!」


 大事なことだからもう一度言うが、事実を見れば仲の良い女性同士のじゃれあいだ。見た目は仲睦まじい恋人同士がデートの計画をするように見えたとしても。


 ともあれ、俺や両親、言わずもがなだが婚約者殿あの方が女性だったと納得し、その場はそれで終わりになった。

 それから兄とは比べ物にならない速度であの方と婚約者殿が仲良くなり、兄がどうして良いやらと右往左往する場面も多々あったが、兄の中で折り合いがつけばいずれ収まる問題だろうと考えていた。


 兄が、その後どういった態度を取っているのか、留学していた俺には分からない。が、今あの方と兄の間にある距離の根本的原因はそういうことだ。

 だがまあ、君がここに話を聞きにきたと言うことは全く上手く収まってはないんだろうな。何か問題があったんだろう。

 ああ、今も同じような態度な訳か。それで、あの方がキレている、と。

 本当に、あの方には申し訳ない。




 


 「やあ、レンデルの弟君。あのバカそろそろシメても構わないだろうね?」


 あのときのように、ドアを蹴破って現れた麗人は、黒いドレスに身を包んでいた。しかしその目には殺気が煌めいて、飾り紐が揺れているのは殺気のせいだと錯覚してしまいそうだった。

 だから俺は、この方の精神的安定と自身の身の安全、それからアレクさんへの謝罪と感謝を込めて、晴れやかな笑顔で言う。

 

 死にさえしなければいくらでもどうぞ、と。


 隣に座っていた俺の友人兼アレクさんの部下が身を震わせ青ざめたのは、見なかったことにしておこう。





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