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獣とへたれともふもふと

  

 

『早く! 急がなきゃ!』


 ぱたぱたと可愛らしい足音を立てながら茶と灰色の幼獣達が洞窟の中心部へと全力で駆ける。

駆けて、駆けて、駆け抜ける。他の獣族たちとは比べ物にならないスタミナをもってしてもまだ着かないほどに洞窟への道のりは遠い。

息を切らせ、足が重くなってもまだ駆ける。


 

『いそぐ、母さまがまってる』

『チビが目を開けたぞー!』

『すごいね、毛の艶も色も僕たちとはぜんぜん違う!』

『当たり前じゃない、あの子は祝福を受けて生まれてきたんだから!』

『ほんとに!? ぼくしらなかったー!』

『・・・・・・しゅくふくって何?』

『・・・・・・さあ?』


 きゃんきゃん口々に言い合いながらもその顔は一様にうれしそうで、尻尾を千切れんばかりに振っていた。


 おしあいへしあいしながらも楽しそうにいくつもの薄暗く長い洞窟を通り過ぎると、唐突に広い空間が現れる。

じめじめともしておらず、洞窟としてそれはどうなのかと言いたい所だが、それはともかくとして、そこには何十頭、何十人というべき恐ろしい数の獣と獣人が居た。


 農民の服を着ているしまもふ尻尾の猫人やら、黄金色に輝くたてがみの異国風の衣装をまとった獅子人やら、滑らかな耳が愛らしい少年の顔の二足歩行のコヨーテやら、とにかく実に様々なものたちがいた。


 

 そして彼らの中心にいたのは、動物好きならば思わずもふりたくなるようなもっふもふのつやっつやの白銀の毛の、体長4メートルはあろうかという巨大な狼。

【獣王】の名を冠する獣の長アルトゥールは、周りの獣となにやら深刻そうな顔で話していた。


と、そのとき。


『『『『とーさまー!!』』』』


 大きな声に獣人たちがふりむくと、たったか走ってくる幼獣達がみえた。

ざわめくもふもふたち。



『・・・アルトゥール公とセーレ妃のご子息たちだにゃ・・・』

『ぬぅ、あれがうわさの。しかしやはり似ておるな・・・』

『ご兄弟がお生まれになられたのではぁ? ほら、あんなにうれしそうに尻尾を振ってらっしゃいますよぅ?』


 

『おお!どうだった!生まれたか?生まれたのか!?』


 10分ぐらいかけてようやくたどりついた彼らに白銀の狼はぱっと満面の笑みを浮かべてふりかえ・・・ったら、牙がむき出しになり周りに五歩ぐらいひかれた。

それにちょっと落ち込んだのかショボーンと耳と尻尾をたれる。へたれか。まさかのへたれなのか。

 

 慣れているのかスルーして、幼獣たちは目をきらきらとさせて口々に言う。


『あのな!』

『あの子がね!』

『・・・生まれた!』

『すっごいきれーなの!』

『父さま!』

『はやくきて!』

 ばらばらに言っているはずなのにきちんと意味がわかる。これぞ兄妹クオリティ。


 と、いうのはさておき。

 

 巨狼はしょぼーんとしていた顔をにぱっとかがやかせ、何を思ったかいきなり吼えた。


『おぉ!! そーかそーか!! お前らにも愛すべき弟が生まれたか!! ちゃんと大切にしろよー!?? 皆ー! 聞いたか! 俺の三人目の息子が生まれたぞー!』

『聞いておりますにゃぁ。 おめでとうございますにゃっ』

『真に喜ばしいことですな。 我ら金獅子一族よりお祝いを申し上げる』

『えと、えと、あの、おめでとうございますっ! あああ、あとで何か贈り物をっ』


 【獣王】よ、もう少し落ち着こう、な?とか言いたいけど主から【語り部】の役割を賜ったからには関わってはいけないのである。【語り部】って孤独。妻子はいるけど。


 それにこたえ、幼獣たちも吼える。

そして父親への愛情表現のつもりなのか何なのか、おのおのどこかしらに噛み付いた。痛そうだなぁ。


『うん、わかったー!!』 かぷっ

『了解だ! んでもって』がぶりっ

『・・・合格点』 あぐっがじがじ

『当たり前よ!』 あむっ

『えっ、ちょ・・・あだだだだだだだだだっだだ!!? 』


・・・・・・子供とはいえ犬歯が鋭かったうえおもいっきり噛まれたせいでへたれ狼(父)は流血し、後日妻セーレに泣きつく羽目になったそうな(見てた)。

 


 

 

  * * *



 


腹側から暖かくやわらかい光が差し込んでくる。背中のぽかぽかとしたぬくもりとはまた違った感じだ。



『・・・く、あああああ・・・・あ?』

・・・せなか?そういえばあったかいような・・・てかここどこだ?

 

 と、耳元にすー、すー、という呼吸音が聞こえた。ばっと振り向くと、でっかい狼の顔が。

ふおおおお。生狼(←?)だっ! すげー!! かっけー! で! ここどこだ!

 

 一瞬興奮で呼吸が止まり気が遠くなるが、とりあえず思い出した。俺の視界が戻る前。

すっげえ痛かったかと思ったらべちゃって音が聞こえて、なんかよくわからんうちにこうベローン、と。

 あと、「セト」って聞こえた気がする。瀬戸焼?


『・・・うん、俺へたれだ。そして言語能力ないな!』


 とか思ってるうちに目の前の狼さんが目を覚ました。うわー、目めっちゃきれい!

なにこのブルースカイは! 切れ長の瞳がマジかっけー!・・・てか今までの流れからするに俺の母親なんじゃね? もしかして。


『あらあら、早いわねえ。あっふ・・・・・・ん~、まだ眠いわ~』


 そういうがはやいか俺をだっこして二度寝。おーい、えと、かーさーん? もしもし?

かーさん胸でけえ・・・じゃなくて、これ人の腕・・・か?

毛はちょっとあるけど・・・まさかの獣人!? まさかの異世界とか!?


うっわマジかマジかまじかーーーーー!!ひゃっほーい!!


あ、ちょっと、ねえ。そんなにむぎゅってしないで?息できないから! 死ぬから! ぐえっ・・・



    






    

 

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