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境界  作者: 白烏
2/11

依頼

 米谷武、と青年は名乗った。

「大学二年生です。此処のことは知り合いから聞いて――」

 知り合いというのが誰か、容易に想像できたが、敢えて口にしなかった。

「この人を」

 探して欲しいのです――そう言って米谷はポケットから写真を取り出し、木製のテーブルに置いて私の前へ滑らせた。

「失礼」

 私は写真を手に取り、何秒か見つめた。

 女性の写真だった。

「この写真はお預かりしても?」

「あ、いやその……」

「コピーで良いですよ」

 私は軽く笑いながら写真を返した。

 米谷は恥ずかしそうに、それをゆっくりとポケットに戻した。

「まず確認したいのですが、この女性と米谷君の関係は?」

「友達――だと思います。何度か会って、色々な話をして、次の約束をして。その繰り返しがいつの間にか、僕の日常の中で唯一の楽しみになっていました。でもある日突然、彼女は遠いところに行ってしまったのです」

「遠いところ?君には彼女の行先に心当たりがあるのかな?」

「いいえ。最後に会った時、彼女がそう言いました」

 違和感。

「そうですか。ではもう一つ質問をしよう。彼女は自らの意志で、君から去ったのか?」

 一瞬の沈黙。青年は顔を伏せた。

「貴方とはもう会えない、そうも言われました。でもその時の彼女の表情かおが僕には忘れられない。彼女は、それを望んでいなかったように思います……」

 言葉が尻窄みになる。

 米谷は心なしか焦っている。

「解った。その人を探すための重要な情報となる場合を除いて、君が彼女を探す理由は話さなくていい。警察じゃないからね。ただ彼女自身の情報は君の知っている限りを教えてくれないかな。依頼を受けるかどうかはそれから決めます」

「有り難う御座います。彼女の名前は――」

 葛原美貴。



「受けたのですか?」

 白い手。

 目の前の机にカップが置かれる。

「有り難う。君の淹れる紅茶が楽しみで生きている、と言っても過言じゃない」

 ご冗談を――と白い手は言う。

「ただの市販の紅茶です。誰が淹れても変わりません」

「紅茶の種類など如何でも良いんだよ、麻衣君。要は誰が淹れたか、だ」

「所長の助手ですわ」

 私の助手は、私の称賛を軽く躱して台所キッチンに行き夕食の準備にとりかかろうとしている。若い女性が夕食を作ってくれるのは、男の独り身には大変有り難いのだが、食費はしっかり請求される。何時ものように紅茶の受皿には、小さく折畳まれた紙が添えられていた。近くのスーパーのレシートである。

 青年は帰り、白い部屋はすっかり橙色に染まっていた。

「それで、受けたのですか?」

 彼女がわざとらしく敬語を使う時は、少し怒っている。

「受けたよ。貯えにはまだ余裕があるし、面白そうでなければ断ろうとも思ったのだが」

 紅茶を啜る。

 本当に美味い。

「お言葉を返すようですが、何時までも去年の事件の報酬に頼ってたら、絶対に事務所を閉めることになるんですからね。あれは偶然たまたまです」

「解ってるよ」

 それに――と彼女は続ける。

「断るなんて……折角久しぶりの依頼ですよ?」

「君の斡旋のおかげさ」

 リズム良く鳴っていた包丁の音が乱れた。

 どうも内緒にしておきたかったらしい。

「……米谷君とは大学のゼミが一緒なんです。普段は余り話さないんだけど、私が探偵の助手をしてるって、人伝ひとづてに聞いてたみたい。それで、紹介してくれないかって。でも何を依頼したいのか、聞いても全然教えてくれなかったわ」

「そういうことだったのか。しかし、難儀な依頼だよ」

 包丁の音が止まる。

「そういえば所長、さっきからずっと手に持ってるものを見てる様だけど、何ですそれ?」

「写真さ」

 麻衣がエプロンで手を拭きながら寄ってきたので、私はそれを渡した。

「綺麗な人ですね……?」

 青年の写真の複製コピーには、若く美しい女性が写っていた。

 女性は写真の枠と、もうひとつの枠・・・・・・・の中で、笑っていた。

 写真は全体的に青みがかっていて、画像が粗くやけている。携帯で撮影したものだろう。

「所長。これって」



 写真には。

 葛原美貴の。

 ――遺影が写されていた。


次回の投稿には、かなり時間がかかると思います。


駄文ですが、お許し下さい。

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