52.雨雲封印
「……やっぱり、すごい雨ね」
今日は、雨雲の封印を試すため、王都へ来た。ヴィルお兄様とセシル殿下、セバスも一緒だ。
重々しい空気が漂う中、雨が絶え間なく降り続けている。
傘を差しても無意味に思えるほどの大雨だ。冷たい雨粒が肌に触れるたび、少しずつ心まで冷えていくような気がする。
雨雲の封印は、ヴィルお兄様とセシル殿下が、国王陛下に提案したのだと聞いた。
きっと、私が自分のせいかもと、思い悩んでいたから、お2人とも考えてくださったのだわ。なんだか申し訳ない。
でも、雨雲か……上手くいくかしら。私の中にある不安が大きく膨らんでいく。果たしてこの封印が成功するのか、もし失敗したらどうしようという思いが頭をよぎる。
不安な顔をしていたのか、ヴィルお兄様が優しく声をかけてきた。
「失敗しても大丈夫だよ。失敗したら、魔道具のせいだ」
その言葉に思わず笑ってしまう。
「ひでえな、俺の魔道具は完璧だし、リアちゃんの魔法も完璧だ。きっと上手くいく。……でも、体に影響が出そうなときには早めにやめるんだぞ?」
セシル殿下が真剣な表情で私を見つめ、魔道具を地面に置く。
恐ろしく厚い雨雲が、黒い絨毯を広げたように空一面を覆っていた。
雲は低く垂れこめ、今にも地上に押し寄せそうな圧迫感がある。空を見上げると、その暗黒が重々しくのしかかってくるようで、不安が湧き上がる。
しかし、その不安を振り払い、私は深く息を吸い込んだ。
目を閉じ、心の中で雲を封じ込めるイメージを描く。両手を静かに持ち上げ、全身に魔力を巡らせる。指先に魔力が集中していく感覚があり、空気がピリピリと緊張感に包まれた。
その瞬間、雷のような鋭い光を放たれ、閃光が暗雲の中を切り裂いたかのように見えた。雷鳴が轟いたかと思うと、厚い雲がゆっくりと裂け始め、魔道具に吸い込まれていく。
暗闇が薄れ、光が隙間から差し込んでくると、新たに息を吹き返したかのように明るさが広がった。雨の匂いが薄れ、暖かい光が地上に降り注ぎ、辺り一面が鮮やかに輝き始めた。
「素晴らしい」
セバスの感嘆の声が聞こえた。
「この中に雨雲が……閉じ込めた雨雲は、……雨不足な地で封印を解いてみるか、有効活用できるかもしれない」
セシル殿下は、魔道具を見つめ、小さな声で何かを呟いているようだったが、はっきりとは聞き取れない。
「リア、体調は変わりないかい?」
「ええ、少し疲れた感じはしますけど、大丈夫です」
ヴィルお兄様は相変わらず心配性ね。
「……王都に雨が降るたび、封印しに来たほうがいいのかしら?」
私は、ぽつりとつぶやいた。
「いや、厚い雨雲が王都にとどまっていたが、それを封印した今、しばらくは雨は降らないだろう。尋常ではないくらい続かなければ、再び封印する必要もない。雨が、全く降らないのも問題だしな」
さっきまで、一人で考え込んでいたかのように見えていたセシル殿下が、返答してくれる。
「それにしても、昔の私は、消えてほしいと願って、どこに雨雲を封印していたのかしら?」
思い出そうとするが、記憶は曖昧で、今はその答えを知る術がない。
「確かにそうだな。よくわからないが、魔法は不思議だから面白い。俺も考察してみるか」
セシル殿下が楽し気に言った。
◇
「エミリア姉ちゃーん」
コリー君の元気な声が遠くから聞こえてきた。振り返ると、彼だけでなく、マリーさんとアリーちゃんも一緒に駆け寄ってくるのが見えた。
王都へ来たもう一つの目的、つまりマリーさん一家との再会がついに実現したのだ。
彼らの笑顔が目に入ると、私の心も自然と軽くなり、疲れが少し和らいだ気がする。
ああ、道が濡れているのだから、そんなに走っちゃ危ないわ。




