51.罪の代償 sideフロランス王女
sideフロランス王女
私は、その名前に驚きと困惑を覚えた。ヴァルデン侯爵令嬢……エミリアが?
うそ、願ったものを消すのではなかったの……封印?
「隣国の第5皇子とヴァルデン侯爵は仲の良い友人でな。そして、そのヴァルデン侯爵が、協力に条件を付けてきた。それがお前たちの結婚についてだ」
私たちの結婚なんて、何も関係ないじゃない。国の危機なんだから条件などつけずに協力しなさいよ!
私は納得できないまま、国王の話を待った。
「……お前たち。学院で、いや、この王城でも、ヴァルデン侯爵令嬢の闇魔法を馬鹿にしたのだろう? 令嬢本人についても見下し、侮り、そして、嘲笑した。ああ、返事はいい。もう調べはついている」
国王の声は冷たく、私の心に鋭く刺さった。
「私は、王女です。……フィリップだって公爵令息……身分の下の者を、馬鹿にしたとて……」
「まあ、褒められたものではないが、通常ならそこまで問題にはならん。例え、恥じるべき行いであっても、お前たちの言うように、お前たちの身分の方が高い。しかし、あのヴァルデン侯爵の妹であったことが、まずい」
お父様の厳しい視線が私に突き刺さる。父の言葉は、ただの説明ではなく、私たちの行いがもたらした結果だと、厳しい現実を突きつけるものだった。
「隣国の第5皇子とヴァルデン侯爵は共に、魔法の天才だ。ヴァルデン侯爵は、隣国出身だが、養子になったためこの国にいる。天才が、この国にいることは我が国に有益だ。自らの魔法を組み合わせ、土壌改良の新たな可能性を生み出し、自分の属性以外の魔法ですら、いとも簡単に習得する。隣国とも強い繋がりがある。……味方ならいいが、敵に回ったら、そう、本気になればこの国など、明日には地図から消えていてもおかしくない」
その言葉に私は背筋が寒くなる思いがした。たかが、侯爵が?
「つまり……?」
私は恐る恐る尋ねた。
「侯爵は、令嬢を虐げたお前たちに憤っており、”婚約を白紙、そして、第5皇子が選んだ相手との結婚”、この条件を飲まなければ、この話自体、令嬢にも伝えない、協力などさせないとのことだ。隣国経由で条件を出されたのならば、迂闊に王命も出せん」
なんですって? 過去に犯した罪の代償だとでも言いたいの?
「……相手は、私たちの新しい相手は誰ですか?」
フィリップが探るように問いかけた。
「フロランスには、サリディア国に嫁いでもらう。国王の3番目の側妃として。フィリップ……お前の元には、エルデン国の王女が嫁いでくる。これらの国は、第5皇子、いや、隣国が恩を売りたい国だろう」
「側妃ですって! 3番目? それにエルデン国の王女って……私の後釜が、あの顔も性格も悪い女? 自国では婚約者を見つけられないという、あの……」
そこまで言って、言葉を失う。
「私たちは望んでいません!」
フィリップも震える声で抗議するが、その声は虚しく響くだけだった。
「そもそも、ヴァルデン侯爵からは何年も前から、エミリア嬢の現状について訴えが届いていた。婚約をなかったことにしてほしいと、繰り返し願い出られていたのだ。しかし、いくら侯爵の頼みとはいえ、他の貴族への体面もある。婚約は王が許可を出したものだ。確たる証拠がない――そう理由を並べ、私はその願いを退け続けてきた。それなのに今さら、願いを叶えてほしいなど……虫が良すぎるだろう?」
お父様にも原因があるんじゃない!!
「私は、この国のために条件を飲む。お前たちが、望む望まないは関係ない。これもある意味、政略だ。お前たちは、王女と公爵令息としてこの世に生を受けたのだ。国の駒になることに疑問を持つな。貴族として責任を果たせ。自由に振る舞いすぎた己を恨め」
お父様の声には、一片の情けもなかった。
「サリディア国の王は……、私より20歳以上も年上のはずよ。それに、あんな遠い国、簡単に帰って来られません。王都を離れるなんて嫌よ。お母様からも何とか言ってください!」
正妃であるお母様の子は、王太子である兄と娘の私だけでしょう? 私が傍にいないと寂しいでしょう? お願いよ!
しかし、母は、私の言葉を冷静に受け流し、ただ一言、冷徹に言い放った。
「王命よ。謹んで受けなさい」
「そんな……」
母の冷たい瞳に、私はただ怯え、沈黙するしかなかった。




