48.君との思い出 sideコルホネン伯爵
sideコルホネン伯爵
空っぽになった邸の中を歩き回ると、記憶が次々と蘇ってくる。
かつて家族と共に過ごしたこの場所は、今や静寂だけが支配している。
長い廊下を歩くと、昔の喧騒が聞こえてくるかのようで少し微笑んだ。それはすべてが過去のものだというのに。
広い庭に目を向けると、亡き妻セリーヌと共に散歩した瞬間が思い浮かぶ。
彼女の手を引き、季節の花を眺めながら、二人で語らった日々が懐かしい。
庭に面した窓辺では、彼女が微笑みながら刺繍をしていることもあった。別の日には、彼女が異国の本を手に取って、熱心に読みふけっていたこともあった。常に新しいことに興味を持ち、知識を深めていく姿が美しかった。
二人でガゼボに腰を下ろし、午後のひとときを過ごしたこともあったな。
お茶を飲みながら、たわいもない話を交わし、二人で生まれてくる子供の名前を考えたあの日々は、今も心の中で鮮やかに甦る。
セリーヌの瞳に映る未来への期待と幸福感が、昨日のことのように鮮明に感じられる。
しかし、この屋敷は手放すことにした。慰謝料の足しにするために。領地にも必要なものはそろっている。だから、ここの家財もほとんどは処分した。
こんな日が来るなんて思いもしなかった。大切にしていたものを失った。
どうせ領地に行けば、ほとんど帰ってこない屋敷。そう、自分に言い聞かせるが、それでも、ここは両親や妻、息子クロードとの思い出が詰まった場所だ。
最後に一枚の肖像画を見つめる。
そこには愛しい妻、セリーヌが描かれている。彼女は微笑み、私を見つめている。
他の男の子どもを宿した彼女を、責める気には到底なれなかった。
他の誰かを私よりも愛したとは思えない。
クロードを宿したとき、笑顔で報告してくれたが、心は恐怖で満ち溢れていたことだろう。その笑顔の裏には、どれほどの苦悩が隠されていたのだろうか。
すべては私の過ちだ。クロードを呪わず、私を呪ってくれれば、すぐにでも君の元へと逝ったものを。
私はそっとその肖像画を壁から外し、慎重に美しい布で包んだ。
「さあ、共に領地に行こう。ずいぶんと待たせてしまったね」
この肖像画、いや、セリーヌは領地に連れて行くことに決めていた。
生きているとき、もっと早く領地で一緒に暮らそうと誘っていれば……。
きっと彼女は付いてきてくれただろう。
公爵令嬢の彼女には田舎暮らしは合わないと勝手に思い込み、王都に彼女を一人残した私が愚かだった。
彼女は、身分の低いこの伯爵家に嫁いできてくれたんだ。そんなことは気にしなかっただろう。
もし、私が正しい選択をしていたら、今もきっと私の傍でほほ笑んでくれていた……そう思わずにはいられない。
私は心の中で一つの決意を固めた。
クロードは、愛するセリーヌの子。だが、もう、クロードの幸せを願うことはやめよう。
私がクロードを愛し、幸せを願うことで、セリーヌが苦しむのなら、彼の幸せを願うことなどできない。
だから、セリーヌ、どうかクロードのことは忘れてやってくれ。
これから私は、君と思い出の中で、生きることを誓うから。




