33.付与魔法
「そういえば、ヴィルお兄様は、どうして私が、こちらに向かっていることを知っていたのですか?」
ふと浮かんだ疑問を、そのまま口にした。
――あの時。「探した」「無事でよかった」確かに、ヴィルお兄様はそう言っていた。
どうして私の行き先がわかったのだろう。
そのことを思い出しながら尋ねると、ヴィルお兄様は一瞬、視線を逸らした。目がわずかに泳ぐ。
「あー、それは……その、エミリア、説明の前に見せたいものがある、セバス、例のあれ持ってきて」
見せたいもの? 私は思わず首をかしげた。何が出てくるのだろう。期待と、わずかな不安が入り混じった気持ちで、ヴィルお兄様を見つめる。
やがて、執事のセバスが部屋へ戻ってきた。
その腕には大きな箱。
それも一つではない。いくつも、いくつも運び込んでくる。テーブルの上に置かれた箱は、どれも丁寧にラッピングされていた。ひと目で、贈り物だとわかる。
箱は次々と積み重なり、あっという間に山のようになる。
……え?
いったい、いくつあるの?
驚いて見つめていると、ヴィルお兄様はどこか楽しそうに言った。
「みんなエミリアへの贈り物だよ。こっちは渡せなかった誕生日の贈り物、あれは入学祝い、そしてこれは私たちが初めて会った記念日、あとは……」
一つ一つ手に取りながら、嬉しそうに説明していく。
「渡せなかった……?」
思わず声が漏れた。私は目を見開き、ヴィルお兄様の言葉の意味を必死に考える。
どうしてこんなにもたくさんの贈り物が、一つも私に届かないまま残っているのだろう。
するとヴィルお兄様は、静かに言った。
「だって、エミリアに贈っても、エミリアに手には、渡らない。いくつも奪われてしまっていたのだろう?」
私は、手紙にもそんなこと書かなかった。それなのに、どうして知っているのだろう。戸惑いと驚きが胸の中で広がっていく。
「ヴィルお兄様は、どうしてそれも知っていらっしゃるの?」
問いかけると、ヴィルお兄様は少し言いにくそうに視線を逸らした。それから、静かに口を開く。
「エミリア……その、実は私、付与魔法ができるようになったんだ。だから君に贈る物には、全部、付与魔法をかけてある。エミリアを守ってくれるように、厄除けや病除け……それから、その……君の居場所が分かるものも。でも、誤解しないでくれ。行動のすべてが分かるようなものは付けていない。そんなことはしないよ」
少し慌てたように言葉を重ねるヴィルお兄様。そして、ぽつりと付け加えた。
「ただ……君が無事かどうか、少しでも分かれば安心できると思ったんだ」
思わず、胸元へ手をやった。そこには、これだけは奪われまいと、ずっと身につけてきたネックレス。
「じゃあ、このネックレスにも……」
おそるおそる尋ねると、ヴィルお兄様は、静かに頷いた。
「……ああ、それはね。エミリアが王都を十キロほど離れたら、反応するように作ってあるんだ。もし君に何かあった時も、必ず私に分かるようにしてある。もちろん、君の行動を逐一知るようなものじゃない。……ただ、君に何かあって、私だけが何も知らずにいるなんて――耐えられそうになかったんだ」
その言葉を聞いた瞬間、視界が滲んだ。ぽろり、と大粒の涙が頬を伝う。止めようとしても、止まらない。
「ああ、ごめん。泣くほど気持ち悪かった? でも、心配だったんだ……泣かないでエミリア。うん、捨てよう、そのネックレスも全て燃やしてしまおう」
ヴィルお兄様は慌てて駆け寄り、私の涙を拭う。
「捨てるのも燃やすのも駄目です。私、これ全てほしいです」
思わず強く言ってしまう。ヴィルお兄様は一瞬きょとんとしたあと、驚いたように目を瞬かせた。
「もらってくれるのかい?」
「もちろんです。ヴィルお兄様、付与魔法を使えるのですね。高度な魔法なのに、すごいですわ。それを私のために使ってくださるなんて……プレゼントが届かないと泣いていた昔の私に教えたいです。こんなに思われているんだって」
言葉を口にした途端、嬉しくて、気づけば、また涙が溢れていた。すると、ヴィルお兄様がそっと私を抱き寄せる。優しく、壊れ物を扱うように。
「ヴィルお兄様、ネックレスに付与魔法をかけてくれて、そして私を見つけてくれてありがとうございます」
私は涙を拭いながら、精一杯の笑顔を向けた。
「まだ、そのネックレスも付けていてくれる?」
まだどこか不安が残っているのだろう。ヴィルお兄様は私にそう尋ねた。私は小さく頷いた。
「ええ、安心して迷子になれますわ。ふふ、かくれんぼは、すぐ見つかりそうですね」
すると、ヴィルお兄様の表情から、すっと不安の色が消えた。代わりに浮かんだのは、ほっとしたような優しい微笑みだった。
その顔を見たとき、胸の奥で改めて理解する。
――ヴィルお兄様は、ずっと。私のことを大切に思ってくれていた。
そして、ずっと心配してくれていたのだと。




