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終わりを望むのは、罪かしら ~分かっていますか? 貴方が切り捨てたのは婚約者ではなく、ご自身の命です~  作者: 楽歩


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28.変えられない過去

 


 アビーとドニ、そしてセバスは、少し離れたところに立ち、私が食べる様子を見守っている。その目はどこか小さな子供を見守るような優しいものだった。こんなふうに見守られるのは、いつ以来だろう。


 楽しい空気だったからこそ、今まで心の奥に押し込めていた感情が、ふいに抑えきれなくなった。




「ヴィルお兄様……いいえ、みんなも聞いて。私、本当は、もう誰も私のことなど気にかけていないと思っていたの……ごめんなさい」


 言葉にした瞬間、空気が静かに止まる。顔を上げると、皆がこちらを見ていた。その表情はどれも、胸が締め付けられるほど辛そうで、その視線に耐えきれず、私は目を伏せた。



 言葉が途切れそうになる。でも、止めてしまったら、きっともう二度と話せない気がした。私は息を整えながら、続ける。孤独だった日々や閉ざされた部屋。誰にも届かない声。それらが言葉になって、ようやく外へ出ていく。



「ヴィルお兄様から……手紙も来ないし、プレゼントも届かなくなった。会いたい、と願っても邸から出られないのに、ヴィルお兄様は会いに来てくれない。もう、私のことなんてどうでもいいんだって……」


 

「……リア、それは絶対に違う……」


 ヴィルお兄様の声が、低く震えた。顔を上げると、ヴィルお兄様は苦しそうな表情をしていた。眉を寄せ、自分を責めるかのように。


 


「ふふ、私、ヴィルお兄様が私のことを疎んだら、もう誰もいらない、この世を消してしまおうって……思っていたの」


 自分でも信じられないような言葉が、口から零れる。でも、それは確かに、あの頃の私の本音だった。




「怖いでしょ? 幸せに暮らしている人のことなんか、何も考えていなかった……」


 小さく笑ってみせる。自分の声が、遠く聞こえる。




「もう、私は、みんなの知っている私じゃないの」


 言葉が止まらない。過去の自分がどれほど無力で、どれほど絶望していたか。どれほど周りを見失っていたか。それを語るたび、体が冷えていく。


 



「お嬢様は、それだけ嫌な思いをしたんです! ええ、お嬢様は私の可愛いお嬢様のままです」


 アビーが涙ぐみながら、私の手をぎゅっと握ってくれた。




「そうです。過去に思ったことにさえ苦しんでしまうなんて……お辛かったですね」


 セバスもまた、穏やかな声で言った。



 誰も、私を責めない。それどころか、ただ静かに受け止めてくれている。





「リアは悪くない。リアの過去に一緒にいなかった私を……私は許せない」


 ヴィルお兄様の声は低く、強く響いた。





「でも、過去は変えられない。一緒に諦めよう? でも未来まで諦めることはないんだ」



 そう言いながら、ヴィルお兄様はそっと私の肩に手を置いた。その手の重みは、しっかりとしたものだった。




「大丈夫だリア。私がいる」


 その言葉を聞いた瞬間、記憶が蘇る。あの時も、ヴィルお兄様は、同じ言葉を言ってくれた。


 暗闇の中で立ち尽くしていた私を、たった一言で引き戻してくれた言葉。





『大丈夫だリア。私がいる』


 あの時の安心感が、まるで昨日のことのようによみがえる。絶望に沈みかけていた私を、強く引き上げてくれた声。今も、同じように私を支えてくれている。




「ありがとうございます……。ヴィルお兄様、みんな」


 声が震えた。言葉を言い終える前に、涙が頬を伝っていく。拭っても拭っても、次から次へと溢れてくる。こんなにも優しい言葉をかけてくれる人たちに囲まれている。




 ずっと一人だと思っていたのに。私は涙を止めることができなかった。それでも、不思議と苦しくはない。



 たとえ過去の自分をすぐに許せなくても。あの頃の自分を思い出して、また苦しくなる日があったとしても。



 それでも私はきっと、未来を歩いていける。


 そう、強く思えた。






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