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終わりを望むのは、罪かしら ~分かっていますか? 貴方が切り捨てたのは婚約者ではなく、ご自身の命です~  作者: 楽歩


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2.闇魔法

 この国では、大抵の者が魔法を使える。その大半は火魔法だが、私の魔法は、亡くなったお母様と同じ――「闇魔法」だ。




 望んだものを闇の中へ放り込むように、消し去ってしまう私の魔法。


 その力が、私の運命を変えた。





     ◇





 五歳のころ、お父様が仲の良い伯爵家へ私を連れて行ってくださった。



 ――そう、このクロード様のお屋敷だ。




「エミリアと同じ年の病弱な令息がいるそうだ。あまり外に出られないから話し相手になってほしいと頼まれたのだがどうかな」



 そうお父様に言われ、私はとても楽しみにしていた。


 どんなお話をしたら喜んでもらえるだろう。外に出られないなら、学院の話や庭の花の話をしようか。そんなことを考えて、うきうきしていたのを覚えている。




 初めて会った時のクロード様は、ベッドの上にいた。顔色は青白く、体もとても細い。それでも私を見ると、優しそうに微笑んでくれた。




「本当はね。外で思いっきり遊んでみたいんだ」




 そう言って、クロード様は少し寂しそうに笑った。その時だった。クロード様のまわりに、黒い|靄が見えた。まとわりつくような、気持ちの悪い靄。



 幼い私は、それが何なのか分からなかった。けれど、なぜか強く思ったのだ。



 ――これは、クロード様にとってよくないものだ。消えてほしい。


 そう願った瞬間だった。闇魔法が発動したのは。黒い靄は、ゆっくりと小さくなっていく。それと同時に、クロード様の顔色に少しずつ赤みが差していった。




 けれど――





 私は、そのまま気が遠くなり、床へ倒れ込んだ。




 目を覚ました時、私はベッドの上にいた。視界に入ったのは、ベッドの横に座る両親の姿。そして、その前で土下座をしている伯爵様だった。




「た、頼む! 我が息子のため、力を貸してほしい。あんなに元気になったのは初めてなんだ。勝手なお願いだとは思うが、エミリア嬢の魔法が何の属性でもいい、詳細がわかったら、息子を助けてやってほしい!!」


「だめだ! 娘の状態を見ろ。倒れたのは、初めて魔法を使ったから……いや、そういう問題ではないような、嫌な予感がする」



 お父様の声は、いつになく強かった。




「ええ、……おそらく私と同じ闇魔法だと思うけど、何かを吸収、いえ消すのかしら? 代償が大きいように思うわ。可哀想にこんなに顔色が悪くなるなんて……」


 お母様は、私の額に手を当てながら静かに言った。




「で、では、きちんと魔法判定を受けてからでいい。前向きに考えてほしい!!!」




 伯爵様の声は必死だった。大人たちの話は、まだ幼い私にはよく分からない。ただ、お父様が私を抱き上げたことだけ覚えている。


 そしてそのまま、私は侯爵家の屋敷へと連れて帰られたのだった。



     ◇





 後日、魔法の属性を調べてもらった結果、やはり私の魔法はお母様と同じ闇魔法だった。



 しかし闇魔法は非常に珍しく、研究もほとんど進んでいない。そのため、どのような効果を持つのか、その場で断定することはできなかった。



 ただ、いくつかの前例と、私が起こした現象を照らし合わせた結果――


『強く願ったものを消し去る力』


 おおよそ、そういう魔法ではないか、という判定が下された。



 クロード様の周りに見えた黒い靄についても調べられた。けれど、その靄は、どうやら私にしか見えていないらしい。そして分かったことが一つある。


 何か悪いものであればあるほど、靄ははっきりと黒く見えるということだった。




「息子は、生まれた時から体が弱く、どんな医者に見せても原因がわからなかったのだ。黒い靄か……」


 伯爵様は深く息をつきながら呟いた。




「心当たりはないのか?」


 お父様が静かに尋ねる。




「ああ、いや……わからない。とにかく、全部でなくていいのだ。少し、ほんの少しでも靄とやらを消してくれれば……頼む!!」


 伯爵様は、必死だった。



 親同士はもともと親しい間柄だったが、それでも事情は簡単ではなかった。幼い令嬢が頻繁に伯爵家へ通うとなれば、周囲の目もある。


 その結果、私とクロード様は、婚約という形をとることになった。


 ただし、お父様は条件を付けてくれた。



『無理はさせないこと』

『結婚については、成人後に本人たちの意思を尊重すること』



 その約束のもとでの婚約だった。




「ありがとう!! 決して無理はさせない。息子より大切に優先することを誓おう!!」



 伯爵様は何度も頭を下げた。両親は苦笑いを浮かべながら、私の頭を優しく撫でてくれた。その手は、とても温かかった。


 もしかすると、私に対する「すまない」という気持ちが込められていたのかもしれない。





 けれど幼い私は、そんなことを深く考えてはいなかった。


 ただ一つ。あの優しそうな男の子に、また会える。それが、とてもうれしかった。





 ――この力の代償が、年々大きくなっていくことなど。その時の私は、まだ何も知らなかった。





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